努力の先で手に入れたもの

深神鏡

子ども

「ねぇお母さん」


うるさい!と頬を叩かれた。


ちょっと寂しかったから

話しかけただけ。


こういう環境で育ったので


親に優しさを求めてはいけない


無意識に染み込んだ教訓。


優しさが欠けた親に育てられたので


優しい人になりたい

親と同じ様になりたくないと強く思った。


理想の人間はとても優しい人。

それは私が親に求め

得られなかったもの


私は自分が求めていたものになっていった。


強く強く願い求める間に。


そして周りには子どもの頃の

私のような人々が集まるようになった。


その人々を観察して気づいた

親もそういう人間なのだと。


私は親が心の底で求めている

優しい人間になることにした。


お母さんも優しくされたい

子どもだったのだ


私が幼かったあの頃

貴方はまだ

優しくするより

優しくされたい

時期だったんだね


私がお母さんに優しくするよ

今ならそれができるの。


私は成長して

見える世界と思考が変わった


もう貴方が親には見えない。

優しくされたい子どものまま

年老いた人、それが貴方。


それが私を不器用に育ててくれた人。


貴方はもう私に

暴力を振るわない

私も貴方に優しい親という

理想を求めない


そして

私は優しい母を見つけた。


優しい心で母を探して

見つける事に成功した。


優しさがない人間ではなかったのだ。


優しくされた事が少なくて

人に優しくする事ができなかっただけ


これからは私が優しくするよ


母は変わった

少しずつ少しずつ

私の優しさに触れて

荒んでいた心が

滑らかになり

穏やかになり優しくなっていった。


時々思う。


母が暴力や暴言を吐いていた頃

もし、私が母を嫌い

逃げていたら


私と母はどんな人間になったのだろうと

きっと今の優しい自分と母には

出会えなかっただろう

私は運が良かった


ずっと好きでいるという事は難しい。

命の危険に晒されることもある

それでも諦めずにいた結果

得られたものに


私はとても満足している。


母は最近よく

笑顔を見せるようになった


私は幸せだ。

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