第37話 Farewell,My lovely.


はなれきて いこくのよぞら ただひとり

きみなきよいの こいちるひばな




愛しきマーサよ

今、僕は故郷から遠く離れた砂漠でただ一人、夜空を飛び交う戦慄を眺めている。戦友も敵も神もしもべも、もはや誰も居ない荒地で交響楽だけが虚しく響いている。

愛しい人が僕の側にいない事がこれほど嬉しかった事はかつてない。今まで一度たりともそんな事を思った事はない。美しい君と出逢って募ってゆく思いを打ち明けらぬまま、僕は去らなくてはならなかった。故郷を我が祖国を後にして長い旅路の果てに、築き上げられてきた他国の礎と生き様を蹂躙して、炸裂する命の肉塊と硝煙の臭いの中、見も知らぬ者の血潮を、同胞の今際の泪声を浴びて突き進む僕は、次第に自分を見失っていった。

僕は何をしているのだろう。僕は何なのか。此処にいる理由は何なのか。僕は生きているのか。生きているべきなのか。

帰りたい。僕が正気を保っていられたのは、望郷と満たされなかった君への恋情が心の奥に深くあったからだ。しかし、もはや叶わないだろう。僕は今、自分の右足を掻き抱きながら左足を枕に、この夜空を飛び交う火花を見ている。

あの夏の花火、故郷の川辺で君と観た美しい宴と分かち合った歓喜。忘れないよ。君の居る町は美しいままでいてほしい。そう願っている。そう願っている。ああ、世界が暮れてゆく。悪魔がタクトを置いた。終焉だ。昏い光が全てを覆う。

Farewell,My lovely.

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