ワインのように味わいたい、洗練された大人の関係

高校時代の恋人と大人になってばったり再会、という設定自体はありふれている――――けれど、作者の高い筆力による肉付けが、作品のクオリティーをぐんと高めています。

大人の関係を斬り結ぶための腹の探り合いや、ちょっとしたずるさや駆け引き。そして「私」の目から見た世界の細やかさと鮮やかさ。
たくさんの細かい描写、それによって起こる感情がロンドンから東京の回想を経てビルバオへと飛び移る舞台にしっくりマッチして、なんとも不思議な読みごたえがあります。
エッシャーのだまし絵、お行儀のよいレプリカ、ワインの苦味といった比喩に使われるモチーフもいちいち大人で洒落ていて、そしてとても的確。

なんだろう、なんだろう、この感じ。
懐かしくて、ざわざわして、はちきれそうな。
読み進めるうちに、言葉にならない感情が胸の奥からずるずると引きずり出されました。
ウェッティではなくむしろとてもドライなのに、読み手の心にするする入りこんで揺さぶる見えない手が、この作品にはあります。

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