リノ lino【結ぶ】

岸本さんにあの日、コンビニを出て告白された時、彼は

「明日、君早番だよね。少し駅前でお茶でもしようよ。俺、明日休みなんだ。君が仕事終わる頃駅前で待ってるから。」

そう言った。


私は

「そうね。色々話がしたいわ。駅に着くのは3時半頃よ。」

そう答えたのだ。コンビニの前で。


私は今、駅へと向かい歩いている。約束の3時半には間に合いそうだった。 11月半ばにしてはとても寒い日だった。風が冷たい。


駅に5分前に着いたが、もう彼は来ていた。

私に気がつき、片手をあげた。

私は会釈した。


私は彼に案内されて駅近くの【小さな店】というコーヒー屋に入った。

店内はレンガ調の造りで窓はステンドグラスのように色とりどりになっていた。そのせいで、店内は薄暗く、もう夜のようだった。電球にあちこち照らされ、とても落ち着いた雰囲気のお店だった。

名前通り、お店は小さく、テーブル席は6つだった。店員は男性一人でやっている感じだった。


「ここなら、プライバシーを心配しなくていいと思ったんだ。ゆっくり話せるとも思った。」

彼はコーヒーを2つ頼みながらそう言った。

「あ、君 コーヒー飲める?」

「飲めるわよ。」

「それなら良かった。」

彼はほっとした様子だった。


「君のことは、初めて見た時からひっかかっていたんだ。

君のことを、よく知りたいとずっと思っていた。

何でもよかった。好きな食べ物でも、なんでも。」


「初めて会った日花だんにお水あげてましたよね。覚えてますよ。

話が飛びますけど、私、10ヶ月前に父が急死しまして。だから、とてもつらくて。

あなたに告白された時、あなたとは7年一緒に仕事をしていて、信頼はしていたから、頼りたかったんです、精神的に。

お金を振り込むことに関しては、正直今も驚いているけれど、付き合うなそこも甘えてみよう、そんなことしたことなかったから。色々とっさに考えて、告白を受け入れたんです。」


やや早口に私は一気に思いを口にした。彼は


「君がお父さんを亡くして1週間休んだとき、僕は、気が気でなくなるほど落ち着かなかったんだ。君が今から立ち向かう孤独はとても大きなものだから。

僕は妻を12年前に癌で亡くしているんだ。だから、何ていうか、平たく言えば君の気持ちが心配だった。」


彼は、かみしめるような口調でそう言った。そして、


「君、夜は眠れてるの?」

「夜がいちばん辛いでしょう。」


そう言われ、私は言葉につまり、ただ、うなずいた。


「とりあえず、これ、俺の連絡先。それと、振り込み先おしえといて。お金に関しては、そうだな、お見舞い金と思っておいて。」

私は連絡先を書いた紙をもらい、振り込み先にを控えて書いてきた紙を彼に渡した。


私たちの付き合いは、こうして始まった。

私、25歳、彼は51歳であった。私は初めて、彼と亡くなった父がひとつ違いであることに気がついた。


その時の私は、やはりかなり精神的に弱っていて、信頼できる相手を得たことで、帰ってから、独り暮らしをして初めて熟睡をした。携帯を枕の横に置いて。





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