新約オオカミ少年

花野咲真

新約オオカミ少年

 私には、オオカミ少年と呼ばれる友達がいる。

 彼は寓話の中に出てくる少年のようにいつも嘘ばかりついて、周りの人々を困らせ

る。

 そんな彼とは、病院で知り合った。

 私は幼い頃から身体が弱く、小学四年生の時、脳の難しい病気にかかってしまい、それから一年半以上、この病院に入院している。病名は、手術や治療の痛みからつのる恨みで忘れてしまったけれど、難病と呼ばれる病気らしい。

 前に両親が話しているのを聞いてしまったのだけど、なんでも、最終的に脳が動かなくなる、脳死という状態になってしまう病気のようで、中学卒業まで生きられないかもしれないという。お母さんは、一人娘がいなくなってしまうかもしれないのがあまりにも悲しくて、私の一部がどこかで生きていて欲しいと臓器提供も考えているみたいだ。

 私の臓器を誰かにあげるのは構わないけど、だけど、私はまだ死にたくない。

 生きていたい――



「大変だ、大変だ!」


 私がベッドで寝ていると、廊下の方で男の子の声がした。

 まただ。

 きっとまたあのオオカミ少年が騒ぎを起こしているのだろう。

 オオカミ少年というのはあだ名で、私は彼の本名を知らない。けどその存在は院内では有名で、というのも、彼が嘘ばかりつくからだ。

 何号室の誰々さんの様態が急変しただとか、寝たきりの人のナースコールを勝手に押したりだとか、そんなことを言ったりやったりするのだ。看護師さん達も、どうせ嘘だとは分かっていても、仕事の特性上見に行かないわけにも行かず、けれど行ってみるとやっぱりなんでもない。

 そんな様子を見て楽しむのが、あの少年の楽しみらしかった。

「大変だよー。305号室の綿引芽衣わたひきめいちゃんの様子が変だよー」

 えっ、私!? 

 私は驚いて布団を跳ね除けた。確かに彼の対象はランダムではあったが、まさか自分の名前が呼ばれるとは……。私は自分のせいではないのになんだか申し訳ない気持ちになりながら、布団に潜り込んだ。

 十秒ほどで看護師さんが駆けつけたが、私が「なんでもないです」と言うと、少しムスッとした表情をして彼女は行ってしまった。

 私が悪いわけじゃないのに……。閉まりかけるドアを見つめながら不満を漏らすと、その隙間に少年の顔が見えた。少年といっても私より二、三年上に見える彼は、あのオオカミ少年だった。

「どうだった?」

 ドアに顔を挟みながら彼は言った。

「どうもこうも、ああいうことするのやめてよ」

 私は病室の他の人の迷惑にならない程度の声で言った。

「看護師さん、騙されてた?」

「騙されてるというより、嘘だと知ってて来たって感じだったよ。私ちょっと嫌な顔されたんだよ」

「それはわりぃ」

 オオカミ少年はいじらしく笑った。

 小学六年の私がいうのもどうかと思うけど、男子はやっぱり子供っぽい。こんなしょうもない嘘をついて何が楽しいのだろうか。私は二年前まで通ってた小学校の男友達を思い出した。

「君、オオカミ少年って呼ばれてるんだよ」

 話し相手がいなく暇だったのもあって、私は会話を続けていた。

「知ってる」

「オオカミ少年はね、嘘ばっかりついてて、最後は誰にも信用されなくなっちゃうんだよ」

「それぐらい知ってるよ」

 彼はバカにするなというように言った。

「なんでこんな嘘つくの?」

 私は前から疑問に思っていたことを聞いた。

「楽しいから」

 彼から返ってきたのは、思わず枕を投げつけたくなるほどしょうもない理由だった。

「だって楽しいじゃん。俺一人の嘘で大人達があっちこっちに走り回るんだぜ」

 それは病院だから当たり前でしょ。

「それにさ…」

 彼は何か言いかけて、看護師さんの足音を聞きつけたのか、一瞬さっと顔を引っ込め廊下を見た。

「あ、俺もう行くわ。また話そうぜ」

 オオカミ少年はそう言うと、すっとドアの隙間から消えた。彼がなにを言おうとしたのか気になったが、また話そうということは、また私の嘘をつくのだろうか。

 看護師さんの迷惑になるからやめて欲しいなと思いつつ、どこか期待している自分がいることに私は気付いた。


 それから一週間ほど、私の嘘をオオカミ少年がつくことはなかったが、彼に興味が沸いていた私は、彼が嘘をつく時の行動を密かに観察するようになっていた。

 彼は廊下を歩いて、病室のネームプレートをチェックすると、思いついたように名前を叫ぶらしい。または病室に入っていって、適当なベッドのナースコールを押す。

 そうしてダッシュでその場から逃走するのかと思いきや、ゆっくり歩いてその場を離れる。もう何度も繰り返して看護師が来る時間が分かっているのかも知れない。  

彼の大胆さには感心せざるを得ない。

「多分、彼の病気のせいじゃないかしら」

 そんな話を仲良しの看護師さん、辻川つじかわさんにしたら、彼女はこう言った。

「あんまり患者さんの情報って言っちゃいけないんだけど、彼、心臓の病気で、先生から走っちゃいけないって言われてるの。だからそういう時でも歩いてるんじゃないかな」

 だとすると、この前彼が言いかけたことがなんとなく分かるような気がした。

 彼は自分が走り回ることができないから、他人を走らせて楽しんでいるんじゃないかと。

 私より年上だとすれば、今は中学生だろうか。男子中学生の気持ちなんて私には分からないけど、ドラマの中学生はしょっちゅう走っているイメージがある。

 それが青春なのかもしれない。私にとって青春は中学校だった。まだ通っていないし、通えるかも分からないけど、青春は中学校にあると思っている。

 あると思わないと辛かった。みんなが高校や大学を青春と呼ぶのは知っている。でも、私はそこに通えるか分からないし、その年まで生きていられるかも分からない。

 青春が人生で一番輝ける時期なら、その頂点が中学校であると私は信じたかった。

私の病気はきっと治らないのだから――


 その日は朝から調子が優れず、出歩くことなくベッドに篭っていると、あの少年の声が廊下で響いた。

「おーい、みんな大変だー。305号室の芽衣ちゃんが大変だよー」

 私のことを下の名前で呼ぶのは、私が年下だからだろうか。

 それともこの前一度話して友達になったと彼が思ったからだろうか。小学校では男子は女子のことを名字で呼ぶのが当たり前だったので、中学生は違うんだなと思った。

 二十秒ほどして看護師さんがドアを開けると、私はできるだけ笑顔で「大丈夫です」と言った。今日の人はむすっとはしなかったが、呆れたような顔をした。

 そんな顔をするくらいならもっと彼にちゃんと注意すればいいのに。私は心の中で文句を言ったが、しかし、病院で長期入院をしている子どもに看護師さん達が甘いのは、私も経験があるから知っていた。彼らにも私達に対する哀れみが少なからずあるのだろう。

 そんなことを考えていると、待ってましたとばかりにオオカミ少年が現れた。今度はドアの隙間から顔だけではなく、病室の中に入ってきて、私のベッドの脇まで来た。

「また来たね」

 私がさっきの看護師さんのような顔をして言うと、

「また話そうって言ったじゃん」

 と彼は言った。

「じゃあ聞くけど、この前言いかけたことって、あなたの病気と関係あるの?」

 私は気になっていたことを真っ先に口にした。

「はぁ? なんで?」

「いや、その……」

 看護師さんに聞いたとは辻川さんの立場もあるから言えないしと口ごもってしまう。

「あなたもここにいるってことは何かの病気なんでしょ? だから…」

「俺は病気のために生きてないから」

 彼は私を突き放すように言った。

「病気してるからどうこうって、病気に左右されてんじゃん。じゃなくて俺は、生きるために生きてるから」

「それって、どういう意味?」

「お前にはまだ分かんないよ」

その言葉の意味がよく分からないのは、私が子どもだからではなく、きっと彼自身がなんとなくカッコイイことを言った気になっているからだと思った。

「じゃあなんで嘘をつくの?」

「それはこの前言ったじゃん。楽しいからだよ」

「この前は、それ以外にもあるって口ぶりだったよ」

「そんなのないない」

「でも……」

「何か言いかけたとしたら、きっとお前を騙すためだったんだな。知ってるだろ? 俺は嘘つきだから」

 オオカミ少年は自慢することじゃないことを自慢げに言った。

「俺の病気はいいけどさ、お前ってなんの病気なの? もう二年近くいるけど」

 病名はカタカナが多いせいで完全に覚えていなかったし、仮に病名を言ったところで彼が名前だけで理解するとは思えなかった。だから、

「頭の病気」とだけ答えた。

「頭? なに、お前ってバカなの?」

 彼がストレートにバカにしてきた。小学生の言う冗談じゃないんだからと呆れながら私は訂正した。

「違うよ。脳の病気。脳って分かる? イエス・ノーのノーじゃないよ」

 私も張り合うように彼をバカにした。

「知ってるわ。最初からそう言えばいいんだよ。なに、まだ治んないの?」

 オオカミ少年は私の気持ちも知らずに、無責任な言葉を吐いた。私だって早く治したい。そう思って、入院してからもう何度も手術を受けてきた。とても辛い手術だ。術後もしばらくは痛みに耐えないといけない。そんな手術を何度繰り返しても、私は病院から出られない。

「まだ……ううん、多分もう治らない」

 お母さんの前では絶対に言えない言葉が口から漏れた。きっとお母さんにこんなことを言ったら、お母さんも入院することになってしまう。そんなことを、まだよく知りもしない男の子に言っているのが自分でも不思議だった。

「治るだろ」

「えっ?」

 これまでの調子から一変して真面目になった彼に驚いて、私は声が上ずってしまった。

「次が最後の手術になるよ」

 オオカミ少年は私の目を覗くように見ながら言った。

 私は彼の顔をまともに見れなくなって俯いた。

「な、なにそれ。あなた嘘つきじゃん」

「俺だっていつも嘘しかつかないわけじゃないよ。ほんとにたまにだけど、本当のことも言う」

「その発言が嘘ってことは?」

「そういうこと言うか? これは本当。俺の本心」

 私は、世のお母さん達みたいに人の目を見ただけで、その人が嘘を言っているかを見分ける能力をまだ身につけていない。けれど、今のこの彼の発言は、本当のことのように思えた。

「明後日手術なの。それが最後になるの?」

「なるなる。次が最後の手術さ」

 彼は笑ってそう言った。

 私の心を押しつぶそうとして不安が、少しだけ減った気がした。



「嘘つき!」

 一ヶ月後、前回の術後痛がやっと和らいできた頃、病室にきたオオカミ少年に対して私は噛み付いた。

「おいおいなんだよ急に。昨日は大人しかったのに、今日はどうした。さては満月が原因か? お前って狼人間だったんだろ」

 彼はおどけて言った。

「違うよ! 今日の朝先生が来て、もう一度手術するって……。この前次が最後って言ったじゃん! 嘘つき!」

「そういうことか。そりゃ俺は医者じゃないもん。次で治るかどうかなんて分かりゃしないよ」

 この人はなんて自分勝手なのだろう。心が弱っていたからと言って、一瞬でも彼を信じた自分を殴ってやりたくなった。

「まあそんな怒んなって。次は最後になっから。な、次の手術が最後。約束する」

 彼は悪びれる様子もなく言った。確かに医者でもなんでもない彼の約束などなんの根拠もないのだが、小学生の私にとって年上というだけでどこか頼ってしまうところがあり、それに彼の言葉には人に信じさせる妙な力があるようだった。

「本当なのね。次が最後になるのね」

「本当本当。次が最後で最終」



「やっぱり嘘つき!」

 また一ヶ月後、私は隣のベッドのおじいさんの心臓が止まってしまいそうな音量を彼に浴びせた。

「おいおい、この前会った時はもっと小さな声だったろ。どうした急に。あ、拡声器でも喉に詰まらせたか?」

 そんな冗談、喉に管を通していて声が出ないおじいさんの脇で言うものではないことくらい、私でも分かった。

「ち、が、う! 昨日、次の手術の日取りが決まったの。この前、次が最後って言ったじゃん!」

 私の目は据わっていた。

「あ、そのことか。そんな怒ることないだろ。一回や、二回、誤差の範囲だって。美容師の言う1センチと2センチみたいなもんだって」

 美容室で髪を切ったことがない私はそれがどういう意味かは分からなかったが、定規を見れば分かる。1センチと2センチには誤差なんて言葉では説明出来ないほどの差がある。

「もう絶対信じない。あなたの言葉はもう信じない」

 そう言って私は窓の方を向いた。

「そんな拗ねるなって。次は本当のこと言うから。な、次の手術が最後だから。これは本当。絶対そうなる」

 どうやって言葉にそれだけの信用性をくっつけているのか分からなかったけど、これだけ騙されてもまだ彼の言葉に耳を傾けてしまう自分がいた。

「次が嘘だったら、あなたとはもう口を聞かない!」

 私は彼を突き返すように言った。



「また嘘じゃん……」

 口を聞かないと言ったはずだったが、私は自分に嘘をついて彼に文句をぶつけた。

「今日は昨日と変わらず大人しいな。どうした、病気が進行して死ぬ一歩手前なのか?」

 そんな冗談、この病院の中で言っていい場所を探すほうが難しい。

 反応するのも嫌で、私は黙って布団を頭から被った。

「あぁ、そっか……。やっぱ……だめなのかな……」

 私の態度に少しは反省したのか、彼は毎度のように調子のいいことは言わなかった。私は少し気になり、布団を少しずらして目まで外に出した。

「ごめん」

 私は耳を疑った。この態度全部が嘘という、ちょっと分かりにくい嘘だろうか。

「ごめんな」

 オオカミ少年はそう言いながら、右手を目に擦りつけた。私にはそれが、涙を拭っているようにしか見えなかった。

「泣いてるの?」

「泣いてねぇよ。なんで泣くんだよ」

 その声は震えている。彼はいつもより嘘が下手になっていた。

「泣いてるじゃん……」

 布団の中でぼそぼそと口を動かしながら言った。

 彼は何も答えなかった。

 しばらく沈黙が続いた後、彼がゆっくりと口を開いた。

「俺さ……、嘘ばっかりつくだろ」

「うん」

「それはさ、俺の言葉がいつも嘘になるからなんだよね」

 彼は物悲しく言った。

「親との約束とか、友達との約束とか、そういうの全部嘘になっちゃうんだよね。行くって言ってた家族旅行も俺の病気で行けなかったし、また遊ぼうって言ってた友達ともう何年も遊べてない」

 彼はさらに続ける。

「俺、ここに入ってもう三年以上なんだけど、前に仲良かった女の子がいたんだ。俺より年上だったんだけど、ちょっと憧れてて。その子も難しい病気を患ってて、俺は絶対治るって励ましたんだけど、結局死んじゃって……」

 彼は話しながらボロボロと涙を流したが、私は布団の中でじっと固まることしかできなかった。

「俺が言ったことが全部嘘になるんだったら、それを逆手にとってやろうと思ってさ、いろんな人を危篤状態にすること思いついたんだよね。それが嘘になるんだったら、みんな治るってことだろ」

 私は黙って話を聞いた。

「でも、君にはそういう嘘でもつきたくないなって思ったんだ。二回目に会った時、もうこの子に対してああいう嘘をつくのはやめようって思った。たとえ俺なりに理由のある嘘でも、君は傷付くだろうから」

 目から涙がこぼれたのが分かった。

あぁ、私泣いてるんだ。

「君には本当に治ってほしくて、だから本心から次で治るって言ってた。でもダメなのかなぁ、俺は。やっぱ俺の言ったことは嘘になっちまうのかな」

 オオカミ少年は天井を見上げて言った。狼が遠吠えをするかのようなその姿は、誰かにこの気持ちを分かってもらいたいと言っているように見えた。

「そんなことない!」

 私は布団を跳ね除け、彼に言った。

「私治すから! 病気治すから! あなたのそのジンクスを破るから!」

 彼は涙を拭きながらゆっくりと私の方を見た。

「お前、ジンクスなんて難しい言葉知ってんな」

「ほ、本読んでるから……」

「そっか。じゃあ俺のジンクス破りはお前に託すわ」

「うん、まかして。だから、ほら言って」

「次の手術を最後にお前は治る」

 オオカミ少年は言い切った。


これはもしかしたら、嘘ばかりつく彼、オオカミ少年の最初の真だったのかもしれない――



 車の振動が止んだので目を開けてみると、もう病院の駐車場だった。お父さんとお母さん、そして私は車を降りる。ここに来るのは久しぶりだった。前回の定期検査が一年以上前だから、それ以来だろうか。

 両親に連れられるまま、私の病室があった五階に行くと、事前に連絡しておいたおかげで、ナースステーションに看護師の辻川さんと担当医の先生がいてくれた。 

 両親が先生に「おかげさまで無事中学を卒業できました」と頭を下げ、私もそれに習って頭を下げる。先生は忙しいため、私達と少し話した後すぐにどこかへ行ってしまった。両親がナースステーションに手土産を渡してくるというので、私は辻川さんと話していることにした。

「ほんとひさしぶりね。無事中学卒業おめでとう」

「ありがとう。みんなのおかげです」

 そうお礼を言いながら、私は、あの時のオオカミ少年のことを彼女に聞いてみたいと思った。もし今も病院にいるのなら、残念なことではあるけれど挨拶くらいはしておきたいと思った。

「ねぇ、オオカミ少年ってもう退院してるの?」

「オオカミ少年?」

 辻川さんは少し考えて、あっと声を上げた。

「あぁ、あの嘘ばっかついて私たちを困らせてた子ね」

「そうそう。みんなにオオカミ少年って呼ばれてた」

「そうね……。うーん、実はね、あの子、あなたが退院した数ヶ月後に亡くなったのよ」

 えっ……。

「彼、重い心臓の病気でね、臓器提供しか助かる道が無かったから、ドナーが現れるのをずっと待ってたの。でも結局ドナーが間に合わなくて……」

 私の脳裏には、退院の時、「ジンクスを破ってくれたね」と言う彼の顔が浮かんでいた。でもなぜか、その時の彼がどんな表情をしていたのか思い出せない。

「残念よね……。彼、嘘ばかりついて、たしかに迷惑だったけど、病院の雰囲気を明るくしていたところあったし」

 辻川さんは寂しそうに言った。それからふと時計を見た彼女は少し慌てた様子で、

「あっ、ごめん。ちょっと次行かないといけないから。ごめんね。今日は顔見せてくれてありがとう。高校生活も楽しんで!」

 と言うと、パタパタと廊下を駆けていった。

 両親が手土産を渡し終え戻って来たので、私達は帰ることにした。

 帰りの車の中で、私は窓の外を眺めながらどこか悲しく考えた。

 彼は、オオカミ少年は、一体どれくらい嘘をついたのだろう。

 そして、一体いつ、嘘をついたのだろう。

 三年前、私に話してくれた彼の気持ちは、本当だったのだろうか。

 そして、私が退院する時、彼はどんな顔をしていたのだろう。

 笑っていただろうか。それとも……。

 今となっては確かめようのないことばかりで、私の心はもやもやするばかりだった。

 空は、薄汚れたシャツのような色をしていた――

 

私には昔、オオカミ少年と呼ばれた友達がいた。彼は寓話の中に出てくる少年のようにいつも嘘ばかりついていて、周りの人々を困らせていた。

 私は彼の何を信じたらいいのだろう。

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