大人になる

 都市部を抜け、田舎の道を走っていた。いつのまにか日は沈み、夜空には幾千もの星が浮いていた。

 錆びついた古い街灯の下で一人考えた。


「大人になりなよ」


 秋穂の言葉が頭を渦巻く。

 大人になるとはなんだ。自分はまだ子供なのだろうか。

「わかんないよ……」

 星屑の向こうへ吐き捨て、バイクのエンジンをかけた、次のガソリンスタンドへと向かった。

 正直なところ、いつか大人にならなければいけないなんてことわかっていた。

 不可能な夢は諦めて、現実を見て、真っ当に生きることが大切だって。


(でも! まだその時じゃないよ……)


 心の中で叫ぶと、無意識のうちにアクセルを捻る力が増していく。

 唸るエンジンに痺れる手。


 いつの日か、一切の憂いもなく夢を純粋な心で叶えれるといい。その思いが60のスピードで走り去る。

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