番外編 ハッピーニューイヤー

これはまだ、異世界に再召喚されるよりも前に逆さ戻る。


「アマネや!アマネ!アマネェェェ!」


ズダダダダーと階段を駆け上がる音と共にスパァンと扉を開け放つ。


「いや、聞こえてるしうるせぇ」


漫画を読みながら、うつ伏せのままリアに返答する。

すると、俺の薄い反応が面白くなかったのかムスーとして俺の上で正座をしだした。


「重いし、降りてくんない?」


「なぬ⁈重いだと?それは妾に向けて発した言葉に相違ないかの?ん?」


へいへい、と適当にいなしてリアを背中からどかして話を促す。


「それで?なんか俺に用あったんじゃないのか?」


「そうじゃった!忘れるところじゃった。では気を取り直して」


そういうと、きちんと座り直して咳払いを一回するときりりとした表情でこちらを見た。


「アマネ、2年参りとやらに行くぞ!」


「やだよ寒い」


バサっと切り捨てると、ガーンと効果音がつきそうなほどショックを受けた感じでよろめいた。

そのまま後ろに倒れてうだうだと文句を言い出した。


「ふーん、妾の誘いなんてどうせ寒さに負ける程度なんじゃ、アマネは妾よりその漫画の方が大事なんじゃ、ふーんへーんほーん」


うだうだうにゃうにゃ言い出したリアがチラチラこちらを見てくる。

現在時刻は23時半ちょい過ぎくらいで、近場の神社くらいならちょうどよく行って帰ってこられるだろう。


「わーたよ、ただし学校近くの神社だぞ?それ以上遠いところは行かないからな」


正座のまま後ろに倒れていたリアがガバっと起き上がり顔をキラキラと輝かせながら「了解じゃ!」と言い、準備の為にか走って部屋に戻っていく。

後ろ姿を見送りながら、今度は俺が正座をして真後ろに倒れてみた。


あ。これ以外に腰に来るわ。




ー10分後ー


「待たせたのう!」


白のダッフルコートに薄いピンクのチェックのマフラーを巻いた完全フル装備で玄関から出てきたリアを見てこれなら寒くないだろと確認してから学校近くの神社に向かう。

その間も他愛もない話を続けながら、夜道を歩いていく。


「そういえば、どうして突然2年参りなんだ?」


ふと、始めからあったがここまでなんとなく聞いていなかった疑問を尋ねた。

すると、リアは得意げに答え始めた。


「ん?ああ、琴音殿に聞いたのだ。年を跨いで2年に渡って参拝するとご利益が倍になる、と。ならば今のうちに行った方がお得ではないか!」


良いことを聞いたから早速試してみたくなったそう。

また、大きい神社なら屋台も出てると思うと聞いてますます行きたくなったそうだ。


「母さんが原因か。たく、食い意地と強欲じゃあ神様も願い聞いてくんないぞ?」


呆れを隠さず伝えると、リアはふふんっと薄い胸を張って答える。


「祈るだけでは願いなんぞ叶うまい。神様とやらに頼み込むのではない、妾はこんだけ頑張るのだから神様とやらも妾の願いが叶うように努力するように、と伝えにいくのじゃ!2年参拝して圧をかけるのじゃ!」


神様に圧かける気満々のリアに苦笑しながらもさすがリアだと感心する。

神様とやらがいるとすれば大分やりずらいだろうなと神様に同情せざるを得ない。


そんな話をしていたら、目的の神社に着いた。

さすがに、小さい神社なので屋台はないが参拝台もあってちゃんとお参りもできるようになっている。


人も少ないので、サクッと年内の参拝を済ませる。

年明けまでには少し時間があったので、社務所で配っていた甘酒をちびちびと飲みながらおみくじを引いてみる。


「妾は大吉とやらだが、アマネはどうじゃった?」


おみくじをあけて一通り読んだら、無言で折りたたむ。

そして、木の1番高い位置に結びつける。


「なんじゃ?そんなに悪かったのかの?ほれほれ妾に教えてみ?なんなら妾の大吉をちょっと分けてあげてもよいぞ?」


ツンツンと突っついてくるリアにこっそり耳打ちする。


「……大凶」


すると、うわぁといった顔をするリアが俺の肩をポンポンと叩いた。

なんだろう、なんか言葉で励まされるより心に来るものがある。


「ほ、ほれアマネ!そろそろ良い時間じゃぞ、並ぼうではないか。おみくじなんぞ運じゃ運。自力で運は変えられる、自分で良い方へ変えていけばよいのじゃ」


ほれほれと背中を押されて参拝の列に並ぶ。

すると、流石に日付が変わるまでにあと1分と言うこともあり、少し混んできた。


「あ、そうじゃアマ…」


リアが何か言いかけた瞬間。


ゴーン、ゴーン


と、除夜の鐘が鳴り列が進み始める。

すぐに参拝は終わり、俺の心に傷を残しながら恙無く2年参りは終わった。


「そうだ、リアさっきなに言いかけなかったか?」


ん?とこちらを振り向きながら、そうじゃそうじゃと体ごとこちらに向かい直る。


「あけまして、おめでとう。これからもよろしくのうアマネ」


「ああ、こちらこそよろしく。リア」


にっこりと満面の笑みを浮かべながら新年の挨拶を交わす。


2人で並んで家路に着きながら、ふとリアが何をお願いしたのか気になり聞いてみたがついぞ教えてもらう事はなく家に着き、この話題はお開きとなった。


なぜなら、リアは2年参りの事を琴音から教えてもらう際、また一緒に教えてもらったのだ、願い事を誰かに伝えてしまうと叶わなくなってしまうと。

だから、リアは心の中でまた願い事を唱えた


『いつかアマネが重荷から解き放たれて本当に幸せになりますように』と

また、自分がアマネを幸せにすると誓いながら。

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