21話 空気読め?空気は吸うものですが?

破壊音を奏でる玄関まで行くと、もくもくと煙が立ち込めていた。

ログハウスの材料である木に引火したのか、近くでは小火が出ている。


「うーわぁ、木製住宅に火魔法放つとか殺意たっか」


と呑気に眺めていると、うしろから桜衣が覗き込んだ。


「どうしたんですか、何があったんですか⁈」


「いや、桜衣お前誰かいるの分かった瞬間話し方猫被るとか、案外余裕だろ」


外部から、何者かの放つ魔法によって危害を加えられている事をいち早く察知したのだろう桜衣は、話し方を元のお嬢様喋りに戻していた。

もし、これがモンスターでなく人間からの攻撃でもいいように切り替えたのだろう。

攻撃されている割には余裕綽々である。


「あら?普くんはこの話し方はお気に召したませんか?」


にっこりと微笑み、少々小首を傾げて聞いてくる桜衣を半眼で睨みながら「お前やっぱ余裕だろ」と言ってしまう。

また、先ほどの悲鳴は本当なのだろうか、とか考えてしまう。女の子こわー


「おらぁ!もういっちょ食らわせてやるぜ!『ファイヤボール』!」


ゴォっと目の前を火の玉が通り過ぎ、キッチンに当たってはじける。

もちろん、火の玉が。

このログハウスは俺の、勇者としての全盛期の頃に魔力を練り込みながら作ったログハウスである。

必然、防御力は硬い。


だんだんと、煙幕が晴れて視界がクリアになる。


「あいつの焼死体を見つけ次第小指を切り落としてズラかるぞ。こんな危険な場所からさっさと帰んねーと次の死体はてめぇらだと思え!」


死体から指を切り落として、依頼主に持って帰るのだろう。

確実に殺した証明のために。


「うわぁ!熱いよ!助けてください!お願い助けて、熱い熱いよ!」


隣に居る桜衣がギョッとしてこちらを見てくる。

そして、必死に俺の頭を凝視して『大丈夫?』って聞いてくる。

多分、頭が大丈夫か聞いているんだと思う。

本当、いい性格してるな桜衣。


「やっぱここに潜んでやがった、道中運良くモンスターの餌になりゃ良かったのによぉ」


やっぱり、あいつはこのログハウスの存在を覚えていたか

いまだに頭を凝視しツンツンしている桜衣に呆れながら内部を燃えたように幻術をかけて、ついでに桜衣を見えないように結果を貼る。


「けほっけほ、こりゃあ豪快な火葬だな」


連中には俺が真っ黒焦げに見えているだろう。

ついでに、焼け死ぬ苦しさにのたうちまわったように海老反りにしてある、こう言う幻術はちゃんと細部まで作らないとバレてしまう。


「よし、小指を……いや、折角だ上手に焼けたし頭でも持って帰るか、チッやっぱこんがり焼けてても首の骨はかてぇなっと、よし。回収したしさっさと帰るぞ」


ぞろぞろと、ログハウスだったものから出ていく男3人組を見送る。


「それにしても、桜衣くんまで行方不明になってんのは残念だったな。あの嬢ちゃんなら魔王倒して用済みになったら高値で売れたのによ」


ギャハハと下品に笑う、アティースィ王国の騎士団の制服に身を包む男達を見送った。

転移石で消えていったのだろう。


パチンッと指を鳴らして幻術を解除する。

また、桜衣が口を開いた。


「あ、あの人達って騎士団の人達だよね⁈あの人、真ん中にいた人!僕に戦い方を教えてくれた人だよ!うわぁうわぁあんな事考えてたのかよぉうわぁ…」


桜衣は本来の口調に戻ってわあわあ騒いでいる。

まあ、親切にしてくれたひあがあんなにゲスかったらそりゃあショックだろう。


「いくら僕が美少女でも流石にあれは引くわぁ〜気持ち悪ぅ」


あ、全然ショック受けてなかったわ


「なんか慣れてないか?」


俺が、手を組んで腕をさすっている桜衣に慣れてる感を伝えると、こちらを振り向きなんて事ないふうに宣った。


「だって、僕レベルの美少女なんてなかなかいないでしょ?だからあの手の変態には時々遭遇してたんだよ」


「ほー、お前も大変なんだな」


なるへそーと納得していると、桜衣はニヤリとイタズラを思いついたかのように笑い俺にズイっと顔を寄せた。


「ふふふーん、詳しく聞きたい?」


「別に」


んな⁈なんでだよ〜!

とカーディガンを萌え袖にしてダボっとした袖を振り回す。


「わかった!アマネ君はモテないでしょ⁉︎こんなすげなくされて喜ぶ女の子なんて僕くらいのもんだからね!いーい?こんな美少女に好かれてんだからありがたく思いなよ⁈」


肩で息を整えながら、少し染まった頬を袖で覆っていた。

よくよく聞いていると、告白みたいなものだが、そんなことよりも…


「失礼な、俺はモテる」


「いやいや!そこかよ!」


ギャーギャーと騒ぎながら、ダンジョン内の殺伐とした空気もなんのその、楽しく夜は更けていく。

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