7話 未成年、飲酒ダメ絶対

メイドに扮したセラに着いて行くと、王城の右奥にある大広間に着いた。

恭しく頭を下げながら扉をあけて中へと促してくる。


「いってらっしゃいませ……アマネにぃ」


最後のところだけボリュームを抑えて俺にしか聞こえないように言ってるあたりこいつもすごく器用だな、と思いながら開けられた扉から広間に入る。


「ふむ、これで全員揃ったようだな。ではこれから勇者様方の歓迎パーティーを開催する」


どうやらセラとあれやこれや話しているうちに遅くなってしまったらしい。

1番最後に入ったものだから結構いろんな人からの視線が痛い。


「皆、グラスは受け取ったかな?では、我がアティースィ王国の繁栄ならびに勇者方の前途が明るいものとなるように、乾杯!」


「乾杯!」


それぞれが近くにいる人たちと思い思いにグラスを軽くぶつける。


「それではみなゆっくりと楽しんでくれたまえ」


王さまの挨拶が終わると、みんながお皿を片手に料理に近づいていく。

クラスメイトたちを見ているとどこか緊張しているように見える。


俺もそろそろ料理取りに行こうかな、と思っていたら後ろからいきなり肩を掴まれた。


「あまねよ」

「…シロ」


後ろを振り向くと、リアと柚姫がいた。

いた、が。

2人を振り向きざま見て衝撃で固まってしまった。


「ふふんっ、どうじゃあまね?妾の美しさに声も出ないじゃろ?それに、柚姫もなかなかのものじゃろ」


「へっ⁈わた、私は、えとリアちゃんのついでというか、なんというか、うーー!」


自信満々の表情をしているリアと赤い顔をしながらしどろもどろになって、しまいには頭を抱え出す柚姫。


そう、2人は学校の制服ではなくパーティードレスを身にまとっていた。

リアはワインレッドのカクテルドレスに。

柚姫は裾がフワリと広がり薄いベールにも似た布を幾重にも重ねた淡い水色のドレスを。


「よく似合ってますよ。特に天音さんはびっくりしました。」


ニコリと笑いながら受け取ったグラスを傾ける。

すると、リアは褒められたことに満足そうにうなづいていた。

しかし、同じく褒められたはずの柚姫はムッとした顔をしていた。


「シロ!」


少し大きめの声で読んだため周りにいた人たちが、なんだなんだとこちらに注目し始めた。

これ以上注目を受けたくはないし穏便に会話を乗り切ろう、と思い柚姫に返事を出す。


「なんですか?天音さん」


その返答が気に入らなかったのだろう。

柚姫はツカツカとこちらに近寄り俺の胸ぐらを掴んだ。


「っ!?」


俺が驚いているのと同じように周りのクラスメイト達も驚いている。

そりゃあそうだ、天音柚姫といえば面倒見のいい明るい女の子という共通認識が存在する。

ウザ絡みしているのも俺に対してのみだし、カーストトップのクラスメイト達とも対等に話せる、まあ簡単に言えば柚姫もまたカースト上位に分類されるのだ。

そんな柚姫から胸倉を掴まれた俺は、周りのクラスメイトから『あいつは一体天音さんに何をしたんだ』という疑問の目を通り越して殺意のこもった眼差しを向けられている。


戸惑いを覚えたのは周りだけでなく俺自身も同じであった。

なんせ城内探索の時までは普通に接していたのだ、いきなりこんな胸倉を掴まれるような原因を作った記憶もない俺が1番驚くのは無理もないと思う。


「ちょっと落ち着いてください天音さん」


冷静になってもらおうと重ねて声をかける。

しかし、声をかければかけるほど柚姫の締め上げは強くなっている。


もしこのまま逆上した柚姫に殴られれば危険だ。

正確には俺ではなく柚姫の手が。

一応こちらの世界で勇者(黒歴史)をしていたので、殴られても耐久が発動し、殴った方にダメージが帰っていく。

ゲームでよくあるカウンターみたいなものだ。


「………うな」


「はい?」


声が小さすぎてよく聞こえなかったのでもう一度聞き返す。


「私に……わたしを!苗字で呼ぶなー!」


「うわっ!」


いきなり大声を出したことと胸倉を掴んでいた手を離されたことで少しバランスを崩してしまった。


普段とは違いすぎる柚姫の姿に違和感を感じよくみてみると、ほんのりと頰を紅潮させて瞳は涙で潤んでいた。


「わたしに敬語を使わないでよ…そんなのあまねじゃないよ…」


酔っている。

明らかに酔っている。


「大体…あまねが敬語とか似合わないもん、昔みたいにゆずきって呼んでよ天音さんじゃやだよ」


最近妙に俺に絡んできていたのはこれが原因だったのか。

異世界からこちらの世界に戻ったのが高校1年のときだからその時からリアの件もあって余計な敵を作らないために敬語を使い始めた。

たしかにその時ぐらいから柚姫は絡んでくるようになっていた。


「わかった、もう柚姫に敬語は使わない」


「よかったぁ」


すると柚姫はふわっと花が綻んだように微笑み…

ふらりと体が傾いだ。


危うげなく抱きとめながら、側にいたメイド、というかセラに柚姫を預け部屋まで運んでもらう。

周りが柚姫が倒れパーティーから退場したことでざわざわと騒がしい。

みんなが口々に、「代音がなんかやったのか?」「あいつのせいで」「天音さん可愛かった」「代音死すべき絶対だ!」とか言っている。


しかし、それら一切を無視して隣にいるリアを睨みつける。


『なんじゃアマネ』


『……ここは目立つから外にいこう』


念話で話しかけてくるリアにこちらも答えながら外へと移動する。

すると周りは、天音さんのみならずリアちゃんまでっ!と敵意がすっごい事になった。


外に出ると、やはり日本には無いような花々が咲き誇っていた。

そのうちのベンチがあるところまで移動する。

ここなら上のパーティー会場からもみられない。


「どういうつもりだリア」


「はて、なんのことを言っているんじゃ?」


あくまでもしらを切るリアにさらに聞く。


「柚姫をわざと酔わせたの、お前だろう」


すると、リアはやれやれと言わんばかりに肩を竦めて話を続けた。


「アマネも分かっておるじゃろ?柚姫はちと素直になれずに突っかかっておった。これ以上拗らせていい事はない。じゃからアルコールに年齢制限のないこちらで飲ませて酔わせて本音暴露じゃ!ゲームじゃとこのままお持ち帰りなんじゃがなぁ、ちと惜しいことしたのぉ」


こんのゲーマー!

こいつの頭の中はゲームしかないのかよ…

ガックリとうなだれてながら、しかし、友人の気持ちを考えて行動したリアに苦笑を浮かべる。


「…なんじゃ不味かったかのぉ?どれくらいで酔うか分からないからちと多めに飲ませたが…」


うーん、うーん

と呻きながら悩み出すリアをみて思わず吹き出した。


「あっはははは」


「ぷー、なんじゃなんじゃもう知らんっ!」


アマネのばーか

と顔を赤くしながら不貞腐れるリアに謝りながら、月の青白い光に照らされて話に花は咲いていく。

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