6話 秘密の会談


「…で?俺に言い訳とかしないのか?」


床に置いた剣を持ち直してベッドに腰掛けながら威圧を放つ。


「い、言い訳って?」


そのすぐ下には、メイド服を身に纏った16歳くらいの銀髪の少女が正座させられていた。


「それは勿論、何故お前が俺が帰還したことを知っているのか、もう一つは……何故お前がセツの真似事をしているのかだ」


セツ

それは俺が本当に一緒に闘い苦楽を共にしたかつての仲間の名前。

そして、俺の目の前で正座させられているセラの姉でもある。

セツは長い銀髪にふわふわとした雰囲気の天然な感じなのに妙に俺に対してだけお姉さんぶるよく分からない奴だった。

反抗期を拗らせたガキの俺を諭したりするのもいつもセツで、その後ろにはよく妹である、銀髪を短くボブに切りそろえたセラが引っ付いていた。


「……私がアマにぃが帰還したことを知ったのはほんの数分前だけど、この国が勇者召喚の儀をするのは風の噂で耳にしたから、もしかしたらまたアマにぃが喚ばれるかもって思って城に下級メイドとして潜入してたんだ〜見てみて長髪銀髪メイド美少女!可愛いでしょ〜?」


いくら国の重要機密と言っても召喚に必要な物資を自国で全て賄うことなど不可能だ。

なので物資などを他国から購入したりする。そうすればいくら隠していたところで噂はたつ。

セツの真似をする理由について聞いたらあからさまにはぐらかしにかかるセラをひと睨みすると、両手を軽くあげて一言「降参」というと理由を滔々と語り始めた。


「…お姉ちゃんはさ、魔王と戦ってる最中に殺された事になってるでしょ?だからこっちの国では『魔王絶対許さない!』って風潮になっちゃってて、ほら、お姉ちゃんってあんな感じだったから国民みんなから好かれてたんだよね。でもお姉ちゃんより強くて可愛い魔術師なんて居ないじゃん?なら、作れば良いって考えたらしくて、お姉ちゃんの実妹である私に白羽の矢が立ったんだよ。ほら!私遠目から見ればお姉ちゃんに似て可愛いし、まあ、お姉ちゃんより可愛くはないけどね」


つまり、だ。

表向き魔王に殺されたセツの仇を取りたいが国には強いシンボルとなる魔術師がいない。

なら、セツに似たセラをセツに仕立て上げて支持を得ようという事だ。


「…なるほどな。確かにセツの代わりを求めるのは分かるが、だからといって俺の前にまでセツの真似事して現れる必要もないだろうに」


ことさら深いため息をつきながらセラを見やる。

正直、最初よく視なければセラであると気がつかなかっただろう。

それぐらいセツにそっくりである。


「それは、あまにぃをびっくりさせたかったからだよ!どう?びっくりした?私可愛くなったでしょ?」


両手を広げて、髪とスカートをフワリと舞わせながらくるくると回る姿は正直に言って確かに愛らしい。


「そーだなかわいいな」


「ちょっと!棒読みが過ぎるよ!ほらほら心を込めて!ワンモアワンモア!」


俺が前に教えた『ワンモア』の使い方と発音をしっかり使いこなしていた。

本当記憶力いいなこいつは…


「はぁ、そんなことよりセラに頼みたいことがある。今度時間を作ってくれ。」


「ぶ〜、スルーしないでよ〜。わかったよ、あまにぃの頼みならこの不肖セラ・シルヴィア本気も本気すごーく本気出しちゃうよ!」


不貞腐れた素振りを見せながらも、握りこぶしをつくりこちらに差し出してくる。


「ああ、頼んだ」


拳と拳をコツンッと合わせて、会話が終了する。

すると、本来の要件を思い出したのか「あっ」と一言漏らし、


「それではシロアマ様会場までご案内させていただきます」


カーテシーを綺麗にこなし、案内を開始する。

その様子はどこかとても嬉しそうである。


後ろからどんな表情で見られているのか気がつかないまま。

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