第10話ー3 第三関門 荒ぶる守護神
生徒会執行室の前に、その女は立っていた。
美少女である。
すっと伸びた背筋、しなやかな黒の長髪。
白い道着に紺袴という剣道では当たり前の装束を、しかし彼女が着ていると彼女専用の戦闘服のように馴染み、かつそこには強さと可憐さが両立している。
強者特有の威風堂々としたその立ち姿からは絶対的な自信が窺える。
暁月つかさ。
夜坂中学剣道部の副部長かつ最強の剣士である。夜坂中異種格闘技戦では先の鬼道大河に余裕の勝利を見せ、去年の剣道の県大会では左腕の怪我というハンデがありながら個人でベスト4入を果たしている。
「あんたら、いい加減にしなさいよ
剣道部男子全員がまともに暁月を見れない。
「剣道部男子とずっと一緒にいて私がイケイケグループから付けられたあだ名知ってる? 『珍獣ハンター』だぞ???」
「それは、そのご愁傷様だな、としか」
凛ノ助が皆の気持ちを代弁して言う。
「まず一番にお前のせいでしょーが、凛ノ助。どう落とし前つけんだよ?」
どうする、暁月を突破出来るのか……? 剣道部に所属している人間なら、誰もが暁月の強さを骨身に染みて知っている。
「来いよ、お前ら。一人残らず殺す」
暁月が竹刀を上段に構える。
「凛ノ助、作戦は?」
「人海戦術でいこう。人数で押す」
そう答えたのは凛ノ助ではなく、後藤だった。
「暁月さんは、ここにいる全員でも倒せない。凛ノ助と護衛の一、二名さえここを突破出来ればいい。そうすれば俺らの勝ちだ」
後藤の言葉に全員が頷いた。
「俺にお前らがついてきてくれる、か。分かった。皆の命、俺が貰おう」
凛ノ助も頷く。
「「いくぞッ」」
前島、後藤両名が合図をし、先鋒となって暁月にかかっていった。
刹那、神速のごとく暁月の竹刀が動く。真剣ではないはずなのに、紫電一閃と形容したくなるような動き。
前島と後藤が宙に舞った。
嘘だろ、という感慨が剣道部男子全員に伝わる。どうやったら竹刀一本で人間が吹っ飛ばせる。異次元だ。暁月だけ強さが段違いに、強い。
「突撃するときは止まるんじゃねえ! 飛ばされたくなかったら突っ込めエエエ」
俺が叫ぶ。勢いを失うことなく後続が凛ノ助を守りながら突っ込む。
刹那、全身がゾクッとする感じ。
反射的に竹刀を上にあげる。雷撃が飛んでくるかのようだった。
暁月の竹刀が俺の竹刀に交わる。衝撃で俺の竹刀が曲がった。
「暁月には悪いけど、ここは譲れないんだ。凛ノ助を通してくれ!」
「いーや。剣道部副部長として、クソみたいな理由で暴れまわる部員どもをしばく」
「そのクソみたいな理由を理解して貰おうとは思わん。モテに非モテの辛さが分からないだろう」
「分かるも何もクソでしょーが。暴れるくらいチョコがほしいならチョコの一個や二個、剣道部男子全員にやるわ」
そう言いながら暁月は一撃で俺の竹刀をへし折った。
「……ッもはや遅い。引き返せないッ」
このまま竹刀を交えていたら、獲られる……。
逃げよう。この荒ぶる神と戦っていては死ぬのは確実。一人でも生きてここを突破し、凛ノ助の護衛を務めなければ……。
暁月は俺一人に構ってはいられない。俺と竹刀を交えていたことで逃げ延びた剣道部員のニ、三名を振り向きざまに叩き切った。
その隙きをついて、命からがら、生徒会室へと突入する。そして暁月が入ってこれないよう、扉を締めて内から鍵を締めた。
周りを見渡す。凛ノ助は……凛ノ助は無事だ! 凛ノ助は暁月の竹刀が肩をかすったのだろう。肩を抑えながらもしっかり自分の足で立っていた。
が、他は……。
誰もいない。
壊滅、か。
暁月つかさ、というたった一人の少女に剣道部十名以上が討たれた。
呆然としかけた頭を俺は振る。仲間の安否よりまず先にやることがある。
ここまで犠牲を得た以上、何が何でも勝てなければならない。
俺はまっすぐと前を見つける。
その視線の先には一人の男がいた。
生徒会室の椅子に深々と座っているのは勿論、生徒会副会長、銀林修斗。
「良く来たな、凛ノ助、マキト」
銀林が親しげに俺たちに話しかけた。
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