第10話-2 第二関門 舌戦とチョコレート攻撃
俺たちは空手部を突破し階段を登る。
その時だった。階段上からドタドタッと女子五名ほどが走り下りてきた。腕には生徒会の腕章。その女子達が廊下を封鎖するように立ち塞がる。
凛ノ助が片手を上げる。勢い良く走っていた俺たちがピタッと制止した。
「道を開けろ。雑魚に構ってる暇はないのでな」
その時、凛ノ助の目がハッとした。その女子の中に黒崎がいたからであった。
まずい……! という警戒心が俺の心に宿る。
今まで背中に手を回していた女子五名が手を前――俺たちの方へ――差し出した。
その手にはいかにも狙ったようなハート型のチョコレート。
「私達からのチョコだよー(棒読み)」
「受け取って欲しいなー(棒)」
そんな女子たちをしかし凛ノ助は一笑に付す。
「悪いな。そんな安い手に引っかかるな馬鹿はいない。我が剣道部員は鉄の結束を誇っ……」
「チョコレートだ!!」「女子から貰えるぞ!」
二人が隊列から離脱して夢遊病者のようにフラフラと女子たちの方へ向かっていく。所詮剣道部員は馬鹿どもの集まりだった。
「粛清!!」
凛ノ助の号令が飛ぶ。
隊列から離れた二名は無残にも背後から竹刀の一刀を浴びせられ、崩れ落ちた。
軍規に違反した者は厳罰に処されるのが、世の常だった。泣いて馬謖を斬る、だ。別段悲しくもなんともないが。
内部崩壊を起こさえる悪魔のような一手。さすが黒崎、いやらしい手を打ってくる。
黒崎が一歩前へ出た。
「暴力的なのはいけないと思います。話し合いで解決しましょう。チョコだってたくさんありますから、全員に配れますよ?」
「お情けのチョコなどいらん」
共栄党発足者として、俺もまた一歩前へ進み出る。
「そもそもこのようなことをして、何の得があるのですか」
黒崎の質問に俺は答える。
「何も起こさなければ得は無いどころじゃない、害がある」
「いいえ。女の子から無理やりチョコを奪い取るのと同じことをしているのです。中には本命で、手作りしたなんて子もいるでしょう。共栄党の行為に何らプラスなものはないです」
「汗と涙で手に入れたいチョコは尊いものだ」
「本気で言ってるんですか、それ?」
黒崎が首をかしげた。
「恋愛は恋愛強者による寡占状態にある。美男は美女と付き合い、この寡占を無くさねば、真の平等は有りえない」
「本当ですか? 自分のモテないことを棚にあげ、恋愛強者による不当な寡占と大義名分をたて、自らのモテるための努力を破棄しているだけでは?」
「否、スタートダッシュが違う。モテはモテるべくして、モテた。幼い頃から自分は『モテる』という成功体験を重ね、自信をつけ、無自覚なうちに『モテ』のオーラを発する。ここに貧富の格差がある。そして格差は階層を生む。階層は上であればあるほどモテる。階層の下のものがいくら頑張っても上の者ほどモテない。この階層をぶっ壊なければ自由はない」
「詭弁ですね。階層や格差があるからと言って犯罪に及んでいいわけではありません」
「では黒崎、問おう、救えるか、お前に非モテが救えるのか?」
「『もののけ姫』ですか……」
若干、呆れたような黒崎の顔。
「もっと直接的に言えば、黒崎はこの共栄党の中の非モテと付き合いたい、イチャつきたいと思えるのか?」
「いや……ちょっとそれは勘弁ですかね。共栄党とかいうクレイジーな行為に身を染めてる時点でごめんなさい、かな……?」
「…………論ずるに足らずッ…………」
おかしい、目から熱い塩水が自動生成されてきた。
周りを見渡すと凛ノ助以外の同志たちもまた塩水作成マシーンと化していた。
「同志たちよ、涙を恥じるな。この涙は俺たちを強くするための涙だ」
この異様な雰囲気を感じ取ってさすがの黒崎も諦めたらしい。
「むぅ、ここは撤退します。日向君に私が負けたわけじゃありませんから!!」
そう捨て台詞を吐いて黒崎は引いていった。
*
共栄党軍、その身を粉骨砕身しながらも。
第二関門突破!!
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