第4話 革命の決起及び宣戦布告

 俺と凛ノ助は場所を移動し、一階、放送室前で計画の共犯である前島、後藤と落ち合った。

「首尾はどうだった?」

「バッチリ」

 そう答える前島の手には、しっかりと放送室の鍵が握られていた。

「俺が月宮製の毒チョコを職員室の先生に振る舞ったんだ」

 と、後藤。

「お前ら最高。計画通りいこう」

 前島、後藤もまたご多分に漏れず非モテだった。つまりどういうことかと言うと、俺たちは血の繋がった兄弟よりも絆は固い、ってことだ。

 俺、凛ノ助、前島、後藤の四人は揃って無人の放送室へ。

 俺は予め用意してきた原稿を凛ノ助に渡し、一つ頷く。俺が何度も考えて練った原稿だ。

 まず、チャイムを鳴らす。決起の始まりの合図だ。

 凛ノ助がマイクに口を近づけて。


「放送室は我々『チョコレート共栄党』が占拠した。今をもってリア充と生徒会及び風紀委員会に対して宣戦を布告する」


 放送室の中にいても学校全体がさざめきたったことが、肌をもって伝わってきた。

 凛ノ助は続ける。

「チョコレート共栄党は恵まれる者より、恵まれない者、リア充より非リアの一助となるものだ。自由恋愛に苦しむ君たちの味方だ。

 チョコレート共栄党が何をする組織かというより先に、少し話を聞いてほしい」

 一度、凛ノ助は深呼吸をしてから。


「皆、自由恋愛とは平等で全員が幸せになるものだと思っているだろうか?」


 凛ノ助けはハッキリと言った。

「答えは、否、だ」

 無慈悲な宣告。

「自由恋愛とは選ばれない誰かが犠牲にされることで成り立っているものだから。優しい女の子は君にこう言ってくれるであろう。『君だっていつか恋人ができるよ。大丈夫、応援しているよ。』。自由恋愛とは必ず疎外者を生み出す。この世界は教師が言うような平等なものではない。見せかけの平等に惑わされるな」

 

「君らの気持ちは良くわかる。チョコレートが貰えないという冷たい現実。なんでアイツは女子から貰えて、俺には一個も無いんだという嫉妬。

 女子から相手にされないという身を切るような焦燥。そんな中、君ら非リア諸兄は歯を食いしばって耐えている。

 同情なんかかけられてたまるか、と。リア充どもがピンク色の雰囲気を醸し出しながら同じ教室にいるという現実と必死に戦い、心が挫けそうになりながら、耐え、忍び、時に自虐の笑いを浮かべ非リア同士で慰めあいながら、ひたすら嵐が過ぎ去るのを待っている。

 そんな諸兄らのことを誰が笑えようか? 諸兄らの耐え忍ぶ姿はさながら、春を待つ冬桜の如きものだ。気高き、美しいものだ」


「しかし、ここで改めて問いたい。いいのか、君らはいいのか? いや我ら、と言うべきだ。我らはいいのか? 本当にそれで? この人生に一度きりしかない、貴重な中学三年間という時期を耐えるだけで良いのか? ついには一個も貰えないまま終わっていいのか?」


「我らのこの耐え難き苦しみを、受難を、乾きを、しかしリア充どもは理解することは無い。やつらはその容貌、コミュ力、運動、それらによってこの学校の頂点に君臨し、その権益を貪り、楽しい、充実した、モテた思い出とともにこの学校で3年過ごし、去ろうとしている。    

 しかし、そこに我らの席はない。居場所はない。何故なら我らは学校というものに、必要とされていないのだから。陰キャと嘲笑された者もいるだろう、アニメでもゲームでも鉄道でもオタクの趣味を馬鹿にされたこともあるだろう、有形無形の理不尽を我慢したこともあるだろう。

 だがリア充どもは制裁を受けることはない。なぜなら彼らは学校の王だから。我らはチョコもなく、代わりに悲しみを背負いながら卒業をすることになる」


「或いは、我らの同胞の中にはこういう考えを持っている者いるだろう。

『今はモテないけど、いつか女子たちがモテない僕の隠れた魅力に気づいてに振り向いて、そっと僕にチョコレートをくれるかも、しれない……』

 断言しよう。

 有りえない。

 行動に移さない者が勝利と栄光(バレンタイン・チョコレート)などをつかめるか。掴めない、掴めない、掴めない!!


 だから、今から選ぶのだ。そういう根拠のない極めて楽観的な幻想を抱き、一生をその幻想の中で生きるか?

 さもなくば。

 立て、立て友よ。我ら同胞たちよ。『不本意な禁欲主義者』たちよ。

 耐え忍ぶのはもうやめだ。思い出を手に入れよう。チョコとはその証だ。憎きリア充どもからチョコレートを奪うのだ。己の手で、己の実力で、己の幸福を掴むのだ。全ての非モテに――」

 そこで凛ノ助は一息を吸い込み。



「すべての非モテの手に思い出と一個のチョコレートを!!」



「今より『チョコレート共栄党』は行動を起こす。リア充からチョコをし、集めて、然るべき後、共栄党全員にチョコを再分配する。全員にだ。必ず、全員に、一個。

 皆にもその協力をして欲しい。皆の手で奪い、赤いワッペンをつけている共栄党指導者に渡してくれ」


「以上、2のA、陣内凛ノ助。チョコレート共栄党はいつでも君を必要としている」



「これで良かったのかマキト?」

 凛ノ助は放送用のマイクのスイッチを切ってから俺に尋ねる。

「ああ、勿論、最高。良い演説だったよ」

「お前の書いた原稿の通り読んだだけだが」

「いいや、俺が言ったんじゃ、説得力ない」

「さて、皆はのってくれるか」

「結果はすぐに分かる」

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