四章15:惜別、バースロイルの出立 Ⅲ
「ハーミッドさん、オルテガさん、リベロさん、それから、ほかのみんな、いままで……本当にありがとうございました」
黄昏に街が染まる頃、市街地から少し離れた丘の上で、そう呟く少女がいた。ムームー・カンパナリア。元ミッドグラッドの団員で、死後ガチャで召喚されたヒーラーである。
「カンパナリアはひとりぼっちになってしまいましたが、振り出しに戻っただけだと思います。だから、寂しくはありません。みんなはどうか、てんごくでしあわせに暮らしてください」
カンパナリアは、震える声で告げながら、クロノに貰った遺品を、それぞれの墓前に置いていく。とはいえ、墓石という立派なものはない。あるのはただ、盛られた山の上に刺さる、枝で作られた十字架だけである。
「オルテガの奥さんが泣いていました。なんであなたが生き残ったのと怒られました。しかたがないと、おもいます。わたしもなんで、カンパナリアが残ったのだろうと、本当にそう思います……みなさん、ごめんなさい」
どうして、どうして家族のいる人が死んでしまって、家族のない自分が生き残ってしまったのか……いや、正確にはもう死んでいるのだけれど……カンパナリアはその不条理が許せなくて、静かに俯いた。
「どうすればいいのか、ほんとうにわからなくて……でも、泣いたらみんなが悲しむだけだから、わたしは……わたしは、大丈夫だから、笑おうと、思います……」
ぽたぽたと涙が地面に染みを作って、それでもカンパナリアは笑っていた。
「みてください、これ……団長とおそろいのペンダント、無事でした。オルテガさんにもらったお守りも……だから、だから……きっとわたしは一緒ですよね……みんなと、みんなと……」
誰も応えなかった。全ての言葉は夕闇に消えた。涙の跡を夜がかき消す頃、カンパナリアは一礼して丘を下った。街は祭りに満ち、祝福に覆われているように見えた。だけれどその陰で流された涙も、確かにあったのだ。
ムームー・カンパナリアは宿に戻り、クロノら一行はこうして翌日、バースロイルを発って王都へ向かった。
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