四章13:惜別、バースロイルの出立 Ⅰ

「あはは……黒の旅団モデル、すごい売れ行きだよ……ありがとうね」

「いえ、人気が出たなら良かったです。こういうのはナマモノなので、売れる時に売っとかないと」


 バースロイルに戻ったクロノたちを待っていたのは、パレードにも似た歓待だった。クラスSを勇者と共に屠り去った黒の旅団の活躍は、嵐のように街中を駆け巡った。


「皆様の活躍、我が事のように嬉しく思います!」

「フッ……マスターか。息災であるなら何よりだ」


 留守番のラピスとフューネラルが、ララミレイユの店でクロノを出迎える。この黒の旅団特需で、限定Tシャツやコーディネートモデルは即完売。店の看板としてフューネラルが、警備員としてラピスが役に立ったと聞き、クロノはほっと胸を撫で下ろす。


「で、もう発っちゃうんだって? 残念、いれば街の皆も喜ぶのに」

「いやあ、王都に出向かなきゃならなくなって」


「流石ね。ふふ……それじゃあララミレイユお姉さん・・・・も、お店おっきくなるように頑張ろうかな。もうひとりのあたしに、負けてらんないもんね」

「あはは……あいつも楽しみにしてると思いますよ」


 僅か10日ばかりの縁だが、この街の人たちとも随分懇ろになってしまった。口惜しくないと言えば嘘になるが、一刻も早く前に進まなければならない。


(今まではゲームクリアのような感覚でいたが、僕たちが手をこまねいたぶん、スネドリーのような連中につけ入る隙を与える事になってしまう)


 そうなれば、これまで関わった街に被害が及んだり、生きていて欲しい人の死を目の当たりにする事も出てくるかも知れない……それは正直、絶対に嫌だ。


「じゃ、ラピスもフューネラルも、短い間だがご苦労だった。宿に戻ろう」

「はっ」

「フッ……マスターがそう望むのではあれば仕方がない……どうかレディ、涙などお見せにならぬよう」


「……あはは、特に涙はでないけど、ふたりともありがとう。気をつけていってきてね……それじゃ、また」

「行ってきます。ララミレイユさん……またこんど、そして……お元気で」


 実際、この二人なら置いていってもいい気はした。だが、ラピスもフューネラルも、やはりこの土地に縁ある人物だったのだ。前者はギルドの元警備兵で、任務中に殉職。後者は旅芸人として街にやってきて、なんか全然売れなくて餓死。いずれにせよ、グスタフのようなケースが起こり得る確率が高まる事は確かだ。


(死者が闊歩する、なんて事態に、誰かを巻き込む訳にもいかない……)


 やむを得ないが、この二人の育成にも、時間と素材を割くほかないだろう。




「おつかれ、ノゥ」

「お疲れ様です、マスター」

 

 クロノが宿に戻ると、ちょうどノーフェイスがギルドでの精算を終えてきた所だった。その額、数年は遊んで暮らせるほどの賞金である。まあベヒーモスを五頭も退治したのだから、当然といえば当然だが。


「これで僕のマスターレベルが4上がって、フレンドポイントが二万ちょい。おお……絶唱石も貯まってる!!」


 ベヒーモスの討伐が完了したからなのか、気がつけば絶唱石の数が17に変わっている。昨日カンパナリアの召喚に3つ使った点を踏まえると、ベヒーモス1体から3つの石がドロップした事になる。


「なるほど……クラスSの魔物を倒せば、倒した数に応じて石が出るんだ」

「ランクAを回るより、効率がいいかも知れませんね。今のパーティーなら」


 その通りである。既にパーティ総当たりであればだが……ベヒーモスクラスは余裕で討伐できる事が分かってしまった。莫大な報酬に加え石も手に入るとなると、今後はクラスSか、強力な魔物の頻出するクエストで稼いでいったほうがいいだろう。


「これは一考に値するな。ありがとう。ノゥも明日の出発まで休んでくれ」

「はい。そのように致します。ところで……マスターは?」


「僕? 僕はもう用事は済んじゃったから……休む……いやでも留守番組の育成をしておかないと……」

「でしたらお付き合い致しましょう」


「うーん……ごめん、ありがとう、頼むよ」

 

 それからクロノは、獲得分のFPでガチャを回し、その足でクエスト巡りに向かった。

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