三章07:振興、バースロイル商店街 Ⅱ
「いやあすみません、うち、団員の募集はやってないんで……」
そう言ってクロノが断るのも、これでいったい何度目になったろう。バースの風というしがらみのなくなったバースロイルギルドは、俄に活気立ち、下剋上の様相を呈していた。クロノたちの噂を聞きつけ、わざわざ遠方よりやってきた猛者たちだっている始末だ。
「そこをなんとか……」
「すみませんすみません」
うっかり「人間の募集はしていません」と口を滑らせそうで怖い。端的に言えば、クロノら一行は他の現地人とは異なるルールの中で生きている。例えば普通の人間が十年かけて得る成果を、クロノたちなら二三日で習得できる。それもひとえに「レベリング」という要素がある為だ。金と素材さえあれば、ほぼほぼ際限なく強化が可能。となれば、異世界的には「チート」と呼んで差し支えないだろう。
「難しいですね」
「うん」
今日も今日とて、リーナクラフトとララミレイユはランクAのクエスト巡り。周囲から団長と目されるクロノ(アレイスター)と、参謀扱いのステラ(ノーフェイス)が、雑用のためギルドに訪れているのだった。
「お金はいくらだって要るから、スポンサーなら欲しいんだけど」
「私たちと関係を持ちたい、と考える集団ならいくつかありますが……後々のしがらみを考えると……おすすめは……」
「うーん……どっかの金持ちがドバッと金出してくれないかな……細かい金ならクエストで稼いだほうが儲かるもんね……」
「そうなんですよ……商店街とのコラボとか、観光名物クロウリークッキーとか、リーナクラフト焼きとか、ララまんじゅうとか、ステラせんべいとか……そんなんで小銭を貰っても大した旨味が……」
「分かる。ん……待てよ、コラボか……」
わかりみは果てしないが、クロノはそこでふと妙案に思い至る。そういえば、コラボしてもいいと思える場所が、一つだけあった。
「いらっしゃいませ〜……あ!!!! 黒の旅団の皆さん!!!」
相変わらず満面の笑みの「この世界の」ララミレイユ。彼女の切り盛りするブティックにやってきたクロノは、誰が名付けたかは知らないが「黒の旅団」という通り名で以て迎えられる。
「あ……はあ……以前はお世話になりました。今日もちょっと、団員の服を見繕って貰おうと思って」
「よろしくおねがいします」
ぺこりと頭を下げる
「ごめんなさいね、まさかそんな凄い騎士団の人たちだとは思わなくて……」
「気にしないでください。新参者というのは間違いないですし」
やはり少し怖気づいている。それはそうか、既にステラ・クロウは、素手で大人をねじ伏せる文系ゴリラとして名が知れている。あれだけの乱闘をギルドでやらかしたのだ。誇張して伝わるのも無理はない。
「は〜、やっぱりララさんの服選びは素敵ですね。あのステラが別人みたいだ」
「あはは……そういって貰えると嬉しいな。それにしてもこのコーディネート、いったい誰がやったんですか? まるでその……わたしがあの日、こんな風にカスタムしたら……って考えたそのままの……」
そりゃそうだ。だってカスタムしたのは同じララミレイユなんだから。まあそんな事、当の本人が知る訳もないのだけど。
「……知りたいですか?」
「いえいえ、素敵なコーディネートだなってお話だけです。変なこと言っちゃいました……忘れてください」
失言かなとはにかんだララミレイユは、それからもステラの為の服を選んでいる。今回はパーティー用とうそぶいているから、前回よりは多くお金が落とせるだろう。
「……ところで、ララさん」
「はい、なんでしょうか?」
「お話があるのですが」
「はあ」
「その、商店街の振興組合から、我々とコラボしたいというお話を頂いておりまして、これも何かの縁ですから、こちらで衣服の取扱をと……いかがでしょう」
誠に唐突な申し出ではあるが、これこそが本題でもある。そもそも町の人と絡めば絡んだだけ、フレンドポイントの入手はできる……となると、恩義のある所とそこそこ関わるぶんには問題なかろうと、いやむしろ収支はプラスだろうとクロノは算盤を弾いたのである。
「え……いいんですか? ていうか、もう『あの黒の旅団のステラ・クロウのコーディネート!!!』みたいな感じで服を売り出しちゃってますけど……」
なるほど流石に商魂たくましい。まあそれはそれで、これから出すコラボシャツやらの話に持っていければいい。
「あ、それも全然構わないです。もちろん、今日の服もそんな感じで売っちゃってください」
「はは〜。お申し出はとても有り難いのですが、どの程度お支払いすればいいのでしょうか?」
「でしたら、ギルドへの依頼書を作成して頂いて、その手数料だけで結構です。印刷や素材の調達はララさんの支払いになってしまうので、あとは儲かれば善し、儲からなくても恨みっこなし、と」
実際、フレンドポイントの獲得とプレイヤー経験値が得られれば十分なので、あとは恩返しということでチャラにしよう。まあ、大手の組合でも相手取る日には、それなりのバックを貰いはするが。
「わかりました! ありがとうございます……では早速依頼書を作りますので……」
「はい。でしたら明日、こちらも人を連れて参ります。詳しいお話はその時にでも」
そう言ってクロノは、黒いドレスに身を包んだステラを連れて店を出た。明日、もちろん連れてくるのは……もう一人のララミレイユだが……果たして恙無く事は運ぶのか。それでもクロノは、この二人を会わせてから街を去りたいと、そう考えていた。
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