色の無い時間に


 遠くの道を車が走る音。冷蔵庫が冷気を出す音。時計の針が時を刻む音。

 そんな今にも消え入りそうな空気の振動を感じながら、私は部屋で一人、ベッドに身をまかせ白い天井を漠然と見つめていた。

 しだいに部屋が橙色に染まる。今日もまた、淡白な一日が終わろうとしてた。

 私は何をしているのだろう。

 無意味な日々を重ね、ただただ時間を貪る。

 その先に何があるのだろう。

 おそらく私は待っているのだ。

 「始まり」を。

 何の根拠もなく、誰かが「始まり」を持ってきてくれると信じてる。

 誰も私に用などないのに、無口な携帯電話が急に鳴り始める時を、今か今かと待ち焦がれている。

 私はなんて馬鹿で間抜けなんだろう。

 残念だけど、物語は始まらない。

 当然だ。

 物語に始まるいわれはないのだから。

 きっと私は明日も惰性に身を任せ、色の無い時間に溺死する。

 変わりたい。

 強くそう願う。

 変わりたい。

 何度目の願いだろうか。

 変わりたい。

 そう願いつつ、何もしようとしない自分。

 それでも変わりたい。

 何に?

 ああそうだ。

 私は大切な物を置いてきてしまった。

 必死に勉強して、立派な人間になろうと努力してきた。

 けれど、私は夢をどこかへ置いてきてしまった。

 指向性を失ってしまった。

 どちらが前なのか分からない。

 どちらが上なのか分からない。

 だから私は一歩も前に進めない。

 ここは、どこ?

 ああ、また「私」が、死んでゆく。

 けれど思い残すことはない。

 何せこの世界にもう、私の夢はないのだから。

 きっと明日はいい天気。

 また、死のう。

 部屋はしだいに紺色に、そして黒へと染まっていく。

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