第16話 安息

 私は布団に腰掛ける。


「私は表情に出やすい方だと思うか?」


 梯子を登りきっていたミルラに呟くように問いかける。


「いえ、別段そういうことは無いかと思われます。」


「そうか。」


 思わず小さな笑いが漏れる。これもそうだ、最近は本当に笑いが多い。少なくとも私は読みにくい方では無いだろう.......ただし、だとしてもミズキの洞察力は既に異常の域に達している。


 何故ならば、私ですら考え始めている程度のことですら言い当てているのだから。それはもう読心術であると言われても私は信じてしまうだろう。


「ところでミルラよ。私達は大きなミスを犯している。本来であればクォンタムから船に乗り、緑の大地を目指す予定であった.......しかし、船の調達を完全に失念していた。これは完全に私のミスではあるのだが、何度も訪れたいと思えるような地では無いだろう?」


 ミルラは俯いている。考えているのかそうではないかは分からない。


「いいえ.......。ヴァイス様のせいではございません.......ヴァイス様は忙しかったのですから、私がやるべき仕事だったでしょう。申し訳ございません。」


「謝ることはない。それに、あそこの地にはもう欠片があるとも思えないだろう。ならば行きすがらにでも欠片を探しつつ、赤の地を目指そうではないか。本来ならばあまり気乗りはしないのだが、私は元々嫌なものは早く片付けたい質である故な。」


 そう。赤の地はあまり行きたいとは思えない。私の目を奪う為に人間を私の寝床へと送り込んだ元凶.......確証はない。確証は何処にもないが、ほぼ間違いなくネルヴァであるだろう。


 人間には怒りなど湧かない。しかし、此度の機会で私が彼に借りを返すことが出来るのであればそれは願ってもないものだ。きっと彼ならば問いかければそれを答える.......そういう奴だ。


 復讐等と醜いとは思うが、それでもやはり私も含めてこの地を荒らした元凶は許すことは出来ないのだから。


「ぅ.......ヴァイス様、その.......赤の竜が憎いのでしょうか.......。」


「憎い.......あぁ。人間の感情としてはそういうものなのだろうな。」


「ヴァイス様.......やはり貴方は分かりやすいお方なのかもしれません。ですが、私はそれを短所とは思いません。私が出来ることなど微々たるものではありましょうが、私なりに力になれるよう頑張りますね。」


 殺気が漏れていたのか。表情から察したのか。分からないがミルラは優しく囁くような声でそう言っている。きっと私のネルヴァに対する怒りが表面上に出てしまっていたのだろう。


 本当に、分かりやすいヤツなんだろう。


「すまなかったな。いや、どうせいずれは戦う相手だ。これまでは互いに干渉することはまず無かった.......だから、私にも戦闘が始まるまでどうなるかは検討もつかない。だからこそ、技術も準備として全ての欠片も万全で挑むべきだと考えている。


ミズキには既に悟られている上に申し訳ないが次の欠片の場所を私に教えてくれ。」


「はい、それが意外なことにここ首都にあると思われるのです。前回見た時には見えませんでした.......もしかすると、拾得するべき順番というものがあるのかも知れません.......。」


「首都.......だと。」


 その意外な場所にはただ驚くしか無かった。欠片と言うくらいであるのに、自身では本当に一切分からないのだからこれはもう面白いとしか言う他無く、口元は意志に依らずに歪んでいた。決してそれは良い笑みではないことが、そのよく分からない感情からも読み取れる。


「詳細な場所は見えたか?」


 馬鹿らしいと思えた笑いをなんとか堪え、私は問いかける。これで直ぐ近くそれこそ道場内部にでもあろうものなら私はきっと数日は笑い転げるであろう。いや、若しくは馬鹿らしいと笑い捨てた後に落ち込むかも知れぬ。


「首都の王城はご存知ですよね?」


「あぁ。あの下らぬ建物か。」


 ホッと息を吐く。王城となれば少なくともここよりは数十キロは離れているだろう。どちらにせよ気づくことは出来ないにしろ遠かった事で安堵している自分が居た。


 王城は空からでも嫌でも目に入るであろうこの大地で最も大きな建物だろう。いや、最早あれは王城という名の一つの街として機能している。城下町までを巻き込んだ首都の中の街。


「下らない.......ですか。ヴァイス様から見るとやはり人の叡智の結晶ですらもその他の有象無象と同等ということでしょうか。」


 珍しくミルラは怒ったような.......いや、悲しそうな表情を浮かべていた。


「いや、建物そのものを下らないとは言っておらぬ。確かにあれだけの建物を私の手も借りずに創り出したことはこの地を空より統べていた者としては微笑ましい限りではある。しかし、あれだけの建物だというのにその恩恵を得られるのが限られた王族のほんの少しであるということが下らないと思うのだ。


私は何にもそれ程に興味を持たなかった故に人間というものがよく分からない。何故限られた者だけを優遇し、それに他を従えてまであのようなものを創るのか。私にはとんと理解に及ばないのだ、スケールは全くもって比べ物にならないだろう、そして私の創造神にも失礼であるとは思うが創造するものとされるものの差というべきなのかもしれないがな。」


「きっと証が欲しかったのでしょう。私を含め人間というモノの一生は神様や龍神様に比べて短いでしょう。そのために人間というものはそこに存在したという証を残したいと考えるのです。


本能的なもので言えば子孫だったりしますが、彼らのような貴族達は私からすればスケールが違う。できる範囲でやったものがきっとあの王城だったのでしょう。」


 ミルラは語りかけるように話す。私はなるほどと関心させられてしまっていた。


「そうか。創造する側に立たねば分からないこともあるようだな.......。神が私を創造した意味.......。ふっ。」


 まさか私の数少ない問いに対する返答を人間から得ようとは欠片も考えてはいなかった。しかし、ミルラの言葉は妙に納得させられるような不思議な力強さを感じた。


「脱線してしまったな。すまない。それで欠片は王城内部にあると言うことで良いな?」


「いえ、王城.......王城.......は王城なのですが、正しくは城下町になるでしょうね。城下町で骨董品店を営んでいる老婆が持っているようです。赤く鈍く光るのが見えます。」


「そうか。」


 王城の人間とは何度か話したことがある。自分がこの世界で最も地位が高いと信じて疑わない愚かな人間であった。私はそんなものに興味をそそられることは無かった為に最低限しか手も貸さずに放置していた。まぁそれも数百年も前の話である故きっといまそこに鎮座しているであろう者はその子孫かなにかであるとは思われる。


 少なくともそのような下らない人種とは関わるのも面倒であると私の心の中での囁きが聞えていた為に、内部まで入る必要がないということは良い知らせであると言えよう。


「なんの話してんの。」


「すまない、起こしてしまったか。」


 シュラスは瞼を擦りながら重そうに体を起こす。彼も節々と筋肉が痛むのだろうか、比喩ではなく本当に体が重そうにしか見えない。


「ったく師匠張り切りすぎだよなぁヴァイス〜。身体中痛いったらありゃしないよ。」


「ふっ。そうだな。」


 ついさっきの自身と同じような反応には笑いがこぼれる。彼は体をなんとか伸ばしながら、時々小さく痛いと漏らしている。鍛えているシュラスであれなのだから私が痛くなるのは当然なのだろうと思える。


「所でなんの話してたの?王城がなんとかって聞こえたけど。」


「あぁ。次の目的地が王城の城下町ってことになりそうだって話をしてたのだ。一応起こさぬよう小声では話していたつもりであったが、起こしてしまった事は詫びなければならぬな。申し訳ない。」


「いや、声で醒めたって訳でもないし大丈夫だよ。それより王城かぁ。俺貴族ってあんま好きじゃないけど、王城って皆すごいって言ってるのは聞くし一度行ってみたかったんだよね。」


「危険は.......無いとは言いきれませんが、少なくとも私の見える範囲では誰かが怪我をしている様子はありませんし、いざとなれば逃げれる範囲ですから.......ヴァイス様どうでしょう?」


 ミルラがそう言うなら断る理由はないだろう。シュラスもなんだかんだ言って人の子で色んな物事に興味が湧く年頃なのだろう。キラキラと目を輝かせる姿はもう何か喜ばしいことが起こることを期待しているようで。


「はぁ。ミルラがそう言うならば、折角だ。レーネも連れて行こう。但し、危険がありそうだったらすぐ様レーネとシュラスは一歩引くことだけ理解してもらうが。」


「俺は大丈夫だって」


「いや、貴様が大丈夫であってもレーネを守る役割があるのであろう?貴様は第一にそれを考えた上で行動するようにしないのならば私への同行はただ命を捨てゆくだけだ。」


 シュラスの声を断ち切り、私は怒鳴る。シュラスは何かを言いたげにぶつぶつと口を動かしてはいるが、それが私へと伝わることはなく渋々と了承の意であろう分かった を口にした。


 辺りは薄らと明るくなっている。木貼りの壁から漏れる朝日が柔らかく室内を照らしていることから朝の訪れを知る。


「シュラス、動けるか?」


「この程度、ちょっとは痛いけど別に気にする程じゃないよ。」


「そうか。なら今日もう行こう。私はレーネを呼ぶついでにミズキにも話してくるとする。もう悟ってはいるだろうが一応な。もしかすると、彼女も見に行きたいと言い出すかもしれない故な。」


「分かった。」


 私は重い体でゆっくりと梯子を下る。


「ミズキ、私達はもう出ることとなった。」


「そうかい。」


「目的地は王城だ。観光ついでにミズキもどうだ?たまには悪くなかろう?」


「いいや。アタシは若い頃に何度も行ったことがあるし今更見るようなものなんて何も無いさ。今日は子供たちが来ることにもなってるし、残念だけど。」


「そうか。残念だ。」


 私は更に奥へと廊下を歩く。


「レーネよ、起きているか?」


 真っ黒な扉の向こう。うぅと唸るような声が聞こえる。まだ寝ていたのだろうか。


「龍神様.......ですか。今起きました.......なんでしょうか?」


 眠そうな声で彼女は答える。


「ふむ。王城へと向かおうと思うのだが、レーネが来るか聞こうと思ってな。」


「お、王城.......ですか.......。王城.......。」


 レーネの声が震えている。それが意味することをなんとなく理解してくる.......。


「無理はしなくて良い。すまなかったな.......。」


 私はその場を立ち去ろうと、ゆっくりと歩き出す。がしかし、戸が開かれる音に思わず振り向く。


「行きます。」


「そ、そうか。」


 彼女は震えているように見えるがその目は何かを決意したかのように強く私を見据えているように思えた。


「今回はレーネが馬車を運転することは無い。金貨が幾らか余裕がある故、人間を雇おうと考えている.......。」


「いえ、そんな.......。」


「これ以上貴様に負担を掛ける訳にはいかん。わざわざ私に付き合わせてしまうのだから。」


 レーネは申し訳なさそうに表情を曇らせているが、だからといって彼女に負担をかけるのはやはり私としては気が引ける。それどころか私の微かな威厳に割れ目すら出来てしまうというものだ。


 やはり姉弟なのだろうか、レーネも渋々と首を縦に振りながら分かりましたと了承の意を表する。


「行こう。」


 道場の中央で準備を終えた二人が体を伸ばしていた。そして急いで準備を終わらせたであろうレーネがぎこちない早足で後ろを駆けてくる。一応.......と、肩を貸し四人で王城へと向かうことにした。


 まずはまた大通りを抜けて、細い馬車道。


「すまん、ミルラお願いできるか。」


「分かりました。一台と運転手をお借りしてきます。」


 私は金貨を十枚ばかり手渡す。ミルラは馬車と一人の女性を連れてきた。小柄な見た目は女性と言うよりも女の子と言う方が正しいだろう.......。もし危険があったらと考えると怖いものだが。


「馬車を所有している方で空きがあるのがこの方しか居ないようでしたので、お連れしました。王城までと宿泊費も込で金貨五枚で良いとのことでしたので.......。」


「どうも、ここで人運びをしているクルネです。王城までの往復ついでに観光もできて宿泊費も出してもらえるってことならお安い御用ですネ。


こう見えても結構べてらんだから安心するといいネ。」


 とてもベテランという言葉が似合わないように感じるが、彼女しか居ないとなれば仕方がない。私達は馬車に乗り込み、王城へと向かうことにした。


 王城まではかなり遠い。首都というもの自体がかなり横に広く長くなっており、そのうちの南の半分近くが王城と城下町だけで形成されている。ここはかなり北に寄ってることもありとても同じ都市内を移動するとは思えない距離の移動が必要となるだろう。


 しかし、道は以前のクォンタムへと向かった時とは違い地面は踏み固められ整備されていることもあり馬車はかなり快適である。見える景色に面白みはあまり無いが、揺れが少ないそれだけで前回が如何に大変だったかということが分かるだろう。


「キミ達は何しに王城まで行くのネ?」


 馬に跨る小柄なクルネは意外にもその姿が似合ってるように見える。板についてるというのだろうか、通常ならついて取れないだろう違和感がほとんど感じられない辺りは、ベテランという言葉が間違ってはいないということを表してるのだろう。


「ちょっと捜し物をしてるの。それが王都ならあるかもしれないと思って。」


 ミルラが答える。クルネはふーんと若干興味なさげに鼻から出たであろう声を漏らす。


「あたしはね、王城を普通に観光してみたかったの。王都にある宿って泊まる機会なんて早々ないじゃない?だからすっごく楽しみなのネ。」


 クルネは嬉しそうに語る。その様子にミルラとシュラスは微笑ましいと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。しかし、それとは対称的にレーネの表情は笑ってはいるもののどこか曇りが抜けていないような違和感を覚える。


 何時間経ったろうか。ぼーっと変わり映えのない景色を眺めているうちに、目の前には大きな真っ白な建物が姿を現す。


「うわぁ、デッケェ.......。」


 シュラスが歓喜の声を上げる。私も、この視点から見るのは初めてだからかつい声を上げてしまいそうな程に大きいそれを目で追ってしまう。


「あれは王城ですらないですネ。ただの城下町の建造物ですネ。それでも首都の建造物よりも大きいっていうことが恐ろしいのですが.......。」


 そう。この距離から王城が見えるはずはない。あれはただの城下町の建造物なのだが、本当に大きい。クリーム色のレンガのようなもので組まれたそれは城であると言われれば信じてしまうほどにしっかりと造られているというのに、この街にはこれを軽く笑ってしまうような建造物が多々あるというのだから人間の欲望というものは恐ろしい。


「着きましたネ。あたしは知り合いの厩舎に馬ごと預けてくるからキミ達はここら辺で待っていて貰えると有難いネ。王城付近まではまだ遠いから案内するよ。」


 城下町の途中。馬が通るために作られたであろう土の道はそこで途絶えている為か、クルネは馬車を停め私たちを降ろすと近くの大きな建物へと入っていった。


 本当に景色が別物だった。上から見下ろしてみれば確かに相当の土地を開拓して造られてることが分かるが、実際に立ってみて感じるのはその広さよりも立体感だろう。建物を大きく見せるためなのか、平地の地面は少し低くブロックで固められ一つ一つの建造物には階段を登ることにより入れるようになっているようだった。かと思えば、高い建造物同士には木材で出来た様な橋が架けられたりしているようで、上は上で一つの道として成立しているように見える。


 全体的に白色とクリーム色、そして木材の薄茶色が目立つ街並みだが人々の活気は首都に比べればかなり劣るだろう。買い物に来ている者の中には一般人も見受けられるためある程度の活気は感じられるものの、貴族であると言わんばかりの人々からはなんの意欲も感じられないように見える。


 商人も首都よりも売ること自体にはそこまで積極的には見えず、やはり全体的に裕福であることが伺える。これだけの広い土地、街にたったこの程度の住人しか居ないというのはやはり勿体ないと思えてしまう。


「預けてきたネ。宿まで行くついでにどこか見たいとこがあればキミ達を案内するよ〜!」


 クルネは上機嫌なのだろうか、るんるんとスキップをしながらこちらへと向かってきた。そしてシュラスは辺りを見渡しながらキラキラと目を輝かせている。


 色々と考えなくてはならない私は浮かれることは出来ないがそんな二人を見ていると少し心が安らぐような気がした。


「ではまず王城の付近まで案内をしてくれ。」


「分かったネ!」


 私達は来た方とは逆へと歩き出した。道の端にはポツポツと店が立ち並ぶ。首都とは大きく違うのは一つ一つに仕切りが設けられ、立派な屋根までついていること。商品の質も他で買えるものより圧倒的に良いということは見ただけで理解できるだろう。それだけに保護に使われている労力も資金もほかの場所とは違うということか。


 シュラスは一つの店の前で立ち止まる。そこは色とりどりの衣服が並ぶ店だった。シュラスはその店内を外から眺めている。


「シュラス、たまには頼っても良いのだ。貴様は時として年相応の態度を取るべきなのだからな。」


 私は巾着から一掴みの金貨を握るとジャラりとシュラスの手に落とす。両手で受け止めるが、それでも彼の指から零れそうになるそれをなんとか受け止めると満面の笑みを浮かべる。


「ありがとう!!姉さんに服を買ってあげたかったんだ。」


 シュラスは店内に駆け込み、楽しそうに吟味を始めていた。そして数分の後、紙袋を幾つか抱えたシュラスがこちらへと駆けてくる。


「姉さん、ちょっとこっち!」


 シュラスはレーネの腕を掴むと、店の中へと走り紙袋の一つを渡すと箱のような縦長の何かにレーネを押し込んだ。慌ただしいと思いつつそれを見ていると、中から薄桃色の衣装に身を包んだレーネが姿を表す。


 少し恥ずかしそうに顔を伏せるレーネだが、それが喜びによるものだということはここにいる誰もが理解できるだろう。そしてシュラスも紙袋の一つから取り出した黒いジャケットのようなものを羽織った。


「姉さんには絶対ドレスが似合うと思ってたんだ。それを着てれば姉さんがゆっくり歩いててもきっと誰も文句は言わないし、皆見惚れると思うよ!」


 シュラスは本当に嬉しそうだった。


「ヴァイスにはこれ!」


 手渡されたそれは真っ黒なローブだった。しかしそれの素材が今着ているものよりも温かで、触り心地が良いことは触れただけで分かる。バサッと広げるが特に邪魔な装飾も無いようで、自身ですらまだ理解出来てない好みを当てるシュラスには脱帽する。


「有難い。私は邪魔な装飾もないこのような自然なものがきっと良いと思っていた。」


「そうじゃないかって。正直ヴァイスがどんな服が似合うか分からなかったから動きやすいって言ってたけど今より少し足元に自由がききやすそうなのを選んでみたんだ。」


 私は早速着替えようと、ローブを脱ごうとした.......ところでシュラスに引っ張られレーネ同様に箱に押し込められる。


「ダメだよ、あんな道路のど真ん中で裸なんて.......。着替える時はこういう着衣室ってのがあるからそういう所でやらなきゃ。」


「すまない、そうなのか。」


 私は、箱の中でなんとか服を着替える。着衣室と呼ばれるそれは若干狭いものの服を変えるには十分であった。


「確かに、動きやすいかもしれん。今までより温もりも重厚感もあるというのに軽いというのは不思議なものだ。」


 本当に軽い。これまでは少し重く感じていたローブローというものであったが、今回のものは体を覆う質が向上しているというのにそれに似合わない程に軽く動きやすく感じられた。


「ミルラはこれ!」


 シュラスが手渡したのは小袋だった。ミルラはそれを開け中から取り出した何かを頭へと着けた。


「うん、似合ってるよ!」


 青色の小鳥のようなものが象られた髪留めのようだった。ミルラの右側頭部にキラリと光るそれは確かに彼女に似合っているように見えた。


「クルネにもはい!」


「え.......。」


 クルネにも何か小さなものを手渡すシュラス。クルネは驚いたようで一瞬固まり、渡されたそれをゆっくりと受け取る。そしてそれを首に着けた。


 白銀のネックレスだった。


「あ、ありがとうネ。」


 クルネは恥ずかしそうにシュラスに礼を言う。シュラスも少し恥ずかしいのか目線を逸らしながら手を振っているようだ。


「ごめんね、ヴァイス。あんなに貰ったのにほとんど使い切っちゃった。」


 シュラスは申し訳なさげにこちらへと謝罪をしている。


「元より全て貴様にやるつもりだった分だ。こうして私のローブまで買ってもらった故、私に謝罪を述べる必要など全くない。」


 そういうとシュラスに笑顔が戻り、ウキウキとした様子でまた歩き始めた。

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