5. 変化

 今年の夏は、去年よりさらにあつくなった。

 その暑さは、九月のなかばを過ぎても終わる気配がなかった。

 九月は台風たいふうの季節でもある。海は荒れ、須磨海岸には大波が打ち寄せる。そんな時ぼくには、人魚の子の無事をいのることしかできなかった。まさか人魚がおぼれることもないだろうが。


 九月も終わりに近づいたころ、ぼくは体調たいちょうの変化に気が付いた。

 歩きにくくなっている。何度もつまづく。足に怪我けがをした覚えもないのに。

 ぼくは自分の足にさわってみた。心なしか、左足が、右足より細くなっているような気がする。


 体調の変化は、声にも表れた。

 声が、なぜかごぼごぼする。コップの中の水に、ストローで息を吹き込んだかのように。

 ぼくは、自分から人に話しかけることが少なくなった。人から話しかけられても、鼻歌はなうたでふん、と返事するようになった。声を出しにくい、というだけではなかった。頭の中で、言葉をつむぐのが面倒めんどうになっていったのだ……日に日に。


 いつしかぼくは、家に帰る必要を感じなくなっていた。

 ずっと浜辺はまべにいれば、すぐにも、人魚の子に会えるではないか。

 食べる物は、さがせばいくらでもあった。須磨の海岸には毎夕まいゆう波打なみうぎわにイワシやサバの稚魚ちぎょ回遊かいゆうしてくる。それをつかみ取ればよいだけのことであった。

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