とある医務室の風景

 王子は生まれてから数えて十五になる。

 だが、同じく十五を数える若者と比べると発育状態はかなり貧相だ。

 背も低めで、身体つきはとても華奢である。

 余分な肉どころか、最低限の肉すら足りていなさそうな印象すらあって。

 生まれついての持病は無いし、脆弱だったわけでもない。

 ちゃんと人並みの健康を備えて生まれてきた。

 そんな王子がやたらと細いのは、彼が食事を十分に摂れないからだった。

 原因は多々ある。

 元から小食であること。

 妹たちが何かと食事に混ぜ物をすること。

 心労で食べた物を戻してしまう傾向があること。

 その全てが作用して、王子は華奢な体躯のままだった。

 加えて王子は城仕えの医師の元へ運ばれることが多かった。

 時には意識不明の重症で。

 時には掠り傷や打撲などの軽症で、状況や状態は多岐に亘る。

 医師にはそれらの全てが人為的な被虐の結果であると分かっていた。

 なんせ意識を失った折りには血液から毒物反応があったのだ。

 掠り傷や打撲だって、王子自らが拵えたとは到底思えなかった。

 むしろ人から鞭で叩かれたり、爪で引っ掛かれたりしてできた傷ばかりだった。

 家臣たちの悪意に加えて、母や妹たちからも加虐されていることは明白で。

 それでも王子は言った。

 毒物で倒れたときには、

「誤って害虫駆除に使う毒菓子をこっそり食べてしまったのです」

 人から暴力を振るわれたときには、

「不注意で階段から落ちてしまったのです」

 王子は決して真相を口にしなかった。

 そればかりか治療を施した医師に深々と頭を下げ、礼を述べた。

「手当てをしてくださってありがとうございました。以後、気をつけます」

 今回の怪我は明らかに人から鋏で切られてできた怪我だった。

 右利きの王子がどうやって鋏で自らの右腕を切り得るだろう。

「左手で鋏を使う訓練をしていました」

 王子はそう言ったが、犯人は双子の妹たちだろう。

 彼女たちは事あるごとに王子を痛めつける。

 毒を飲ませるだけでは飽き足りないらしい。

 医師はそんな王子の姿に心を痛める。

 しかしながら彼のために骨を折ることは考えない。

 あくまで医師として仕事をこなすことにのみ専念する。

 窓の外に生えていた木の枝から深紅の眼を持つ白い鳥が一羽飛び去った。

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