EP48 水晶宮
「おーまーえーはー!!また金を取るのか!?」
リッカルド王子は両手をワナワナさせてテーブルの脇にしゃがんだアイシャに詰め寄った。
「んべっ」とあっかんべをしてアイシャは水晶球に手を伸ばす。どうやら持って帰るつもりらしい。
「対価を払わないやつに見せる義理もない。帰るわ」
リッカルドは慌てた。水晶球を抱きしめて立ち上がり、背を向けたアイシャの肩を強引に掴んで自分と向き合わせた。
よろめいたアイシャはくさくさとリッカルドの腕を払う。
「見たいならそう言えばいいだろうが。まったく手間のかかるやつだのう!」
ムゥとむくれてリッカルドは決まり悪そうにボソリと呟く。
「早く見せてくれ」
「良いかー。少しの時間お前らにも水晶球が映し出す映像を見せてやるからデコを出せ」
「デコ?」
訝しげに顔を歪めるアレクスをよそにリッカルドは素直に前髪をかきあげてアイシャに顔を近づけた。アレクスもしぶしぶおでこを出す。
アイシャはリッカルドとアレクスにピシッとデコピンを食らわせた。
「痛って!」
二人は面食らって苦虫を潰したような顔をした。おでこをさする。
果たして今のはデコピンをくらう必要性があったのだろうか?疑問が残る。
「ほれ、見てみろ。フィラが映っておるぞ」
アイシャが手をかざすと、水晶球が青白く発光する。リッカルドはアイシャにのしかかる勢いで水晶球を覗き込んだ。
鬱陶しそうにアイシャが顔をしかめる。
「ウザい。キモい。離れろ」
「おお……!本当に見えるぞ。ここはどこだ?カディルの屋敷の医務室か?」
アイシャの暴言など耳に入らないリッカルドは瞬きも忘れて水晶球に映る映像に見入った。アレクスはその後ろからやや腰をかがめて映像を見つめている。
「そうですね。カディルの屋敷でしょう。目覚めてはいないようですが手術は無事に終わったようですね」
水晶球にはベッドで眠るフィラが映し出されていた。カディルはいない。おそらく王宮への使いを出しに席を外しているのだろう。
リッカルドは安堵のため息をついた。
「良かった。一命はとりとめたようだ」
「そうですね」
少し気が抜けて安堵したリッカルドの様子にアイシャはうんざりした顔をした。
真横で水晶球を見つめるリッカルドの横顔を、蚊をつぶすようにバシッと叩きつけた。
「痛ぁっ!!お前さっきから何してくれるんだ!」
頰を押さえて怒るリッカルドにアイシャは冷ややかな視線を浴びせた。金色の瞳が「バカで可哀想な王子様」と言っているようだ。
リッカルドはプルプルと怒りに震え、もう我慢できん!というように叫んだ。
「何が。何が言いたいんだ!もったいぶらないで話せー!」
アイシャはやれやれと肩をすくめた。
「一命をとりとめたところでフィラの命が狙われていることに変わりはないだろうが。カディルの屋敷も安全ではなくなったのだぞ?」
「ーーう……」
「これからどうしていくつもりだ。今夜だって何があるか分からん状態で安堵する意味が俺には分からん」
「うう……確かに、そうだ……」
「アイシャを護衛につけるのはどうでしょう?」
アレクスがアイシャを見つめながらリッカルドに提案した。アイシャならたいていの敵も引けを取らないだろう。
「アイシャを?ああ、良い案かもしれんな」
乗り気になりかけたリッカルドをアイシャは厳しく睨みつけた。
「おい。勝手に決めるなよ。俺には俺でやるべきことがあるんだよ。俺じゃくても国家魔道士や傭兵が腐るほどいるだろうが!それになぁ」
アイシャはお手上げというように両手を開いて笑った。
「あのお姫さんには嫌われちまったもんでね。今そばに行ったら治る怪我も治らんわ」
リッカルドは聞き捨てならんと眉を寄せた。
「フィラに何をしたんだ」
「べっつにー。こんなこともあろうかと魔力を少し分けてやって、ちょっと対価をもらっただけ」
アイシャは光が消えた水晶球を抱えるとリッカルドに手を出した。リッカルドはポケットから金貨を一枚取り出してピンと指で弾いた。
パシッと受け止めてアイシャは後ろ手に手を振って部屋から出て行く。
アレクスは不思議そうに首を傾げた。
「魔力を分けるなんてできるのでしょうか?どうやるのでしょうね」
リッカルドは真面目な顔で答えた。
「デコピンじゃないか?」
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