EP21 黒魔道士ヴィクトー
「えっ…!?」
今目の前にいる凛とした美少女が男性だった…!?
フィラは衝撃の事実に唖然とした。
カディルは無言で厳しい表情を浮かべた。アイシャの呪いについては把握している。
最上位の黒魔術師が生きていたーー
それは本当なのか?
疑う気持ちもある。
でもーーー
アイシャを青年から少女に変えることができたほどの魔力を持つヴィクトーならできる。人を操り、フィラを殺すことなど容易く…
「目的はなんでしょう。ナギ。何か他に聞きましたか?」
ナギは金色とアクアブルーの瞳を何度か瞬きして|傾げる(かしげる)。やがて何か思い出した様子で耳を立てた。
「魔界から誰かを召喚するって言ってたよ」
「魔界から…!?」
今度はフィラが青ざめた。
天界と魔界とは相反する存在。
宿す力の属性は同じでも、白と黒に分かれる。つまり、魔界に棲む者は邪悪な精神と力を持っているのだ。
「ふ…ははは、ははははは…!」
突然アイシャが笑いだした。
カディルは眉を寄せた。
「アイシャ…?」
「なるほど。ルドラはヴィクトーと組んで魔族を召喚しやがったんだ。狙いは次代の王の座か?どちらにしても…」
ギリっと歯をくいしばって唸るようにアイシャが吐き出す。
「俺の呪いを解かせてやる」
「……………」
その様子を黙って見つめるカディルは物憂げに考え込んだ。
確かにルドラの狙いはあながち間違えてはいないだろう。しかしそれでは納得しきれない。
「アイシャ。あなたの気持ちは分かりますが今は他に考えなければならないことがあります。フィラが狙われた理由がそれでは通りません。次代の王の座だけが狙いなら、リッカルド王子を狙うはずでしょう?」
そうだ。 次代の王位を狙うなら、白龍の器の素質を見せたリッカルドを始末するのが一番手っ取り早い。
一見なんの関係もなく見えるフィラを彼らが狙う意図はなんであろうか?
「ーーーだな…。ヴィクトーが生きていたと思うと腹が煮えくり返りそうだがっ!
魔族が召喚されたとなるとマズイ事態になりそうだ」
アイシャは苦々しく舌打ちした。
「まずは召喚された魔族を特定する方法を探さねーとな」
「ええ」
「フィラ」
アイシャはフィラを真っ直ぐ見据えた。
「覚悟を持て。お前の魔力の解放を急いだほうが良い。ーー…己の内側奥深く、精神を集中して探すんだ。まだ眠る真のお前自身を」
フィラの心臓はドクンと脈打った。
まだ眠る真の私自身。
私にも魔力がある…!
「はい…!」
フィラは力強く答えた。
見つけてみせる。本当の私がいるのなら!
カディルは優しい目でフィラを見つめた。
良かった。彼女に希望の光が見えてきた。
「ありがとう、ナギ。あなたのおかげでとても助かりましたよ」
優しく頭を撫でるとナギは嬉しそうにカディルの手に頭をこすりつけてゴロゴロ喉を鳴らす。
「カディルもフィラも僕を可愛がってくれるからね」
カディルは微笑むとナギを抱き上げてフィラに手渡した。
「私たちは王宮に戻ります。あなたはくれぐれも気をつけてくださいね」
「よし、行くぞ!」
アイシャとカディルの背中を見送りながらフィラは決意を固めるようにナギを強く抱きしめた。
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