第13話ガビコ

泣きそうな少女は背中の後ろに隠れたまま固まっている


きっと何度も経験してきたのだろう


きっと何度も涙を流したのだろう




「えっと、はい。よろしくおねがいします。」


「...え?」


「え?」


「私と話してくれるの?」


「はい?」




涙をこらえていた顔は少しの驚きと疑問が浮かんでいる




「えっと、そのわたし髪が...目が...」


「あー魔王の生まれ変わりとかなんとか?」


「え、あ、うん。」


「わたし人を見た目で判断しないの、いくら魔王の生まれ変わりと言われていても噂だしね。」


「いやでも...」


「とにかくありがとう。」




ペコリ


小さなお辞儀




「さっきはごめんね。コレすごく大切なもので...お父さんの形見なんだ...」


「そ、そうだったんだ、急に触ろうとしてごめんね...」


「私が助けてもらったのに!謝らないで。謝るのは私だけで十分。」


「誤解が解けてよかったな、ニーア。」


「うん。」




うれしそうにニーアが少し笑ったように見えた


感情を表に出すのがへたくそなんだな、かわいい




「で、なんで君はあの男達に絡まれてたの?」


「えっと、いやぁー。事情がありまして...」


「話せないのか?」


「うーんと、あまり気分のいい話ではないので...すみません。」


「気にするな、助けたのは私の判断で勝手にしたまで、理由など些細な問題だ。」




かっけぇ...。


聞いた自分は興味の先行であり相手への配慮を忘れていたことに気づかされる


でもふつう聞くよね?




「君はこれからどうする?わたし達はもっと奥に進むつもりだが...」


「付いていかせてください!自分戦力には自信があります!」


「ニーアはそれでもいいか?」


「う、うん!もちろんだよ!」


「お、きまりだね!!よろしく!!」




(あれ?俺の意見は?)














奥に進むにつれ魔物の数が減ってくる


地面に横たわっていた死骸もそうだが戦闘が減ってきた


弱いコウモリ系はほぼ居なくなり強そうな種がたまに出てくる


つよそうな、である。


牛が二足歩行をしていたし、コブラに手が生えたようなものもいた


だがモガミが瞬殺してしまうこれでは同行者も見せ場がない


(同行者?)




「そういえば、君名前は?」


「あ。忘れてました!私、ガビコっていいます!!」




ぷっ。と吹き出しそうになる


しかし二人は自然に受け止めニーアは何度も小声で復唱している


(感覚のずれはなるべく隠していこう。異世界で浮いてちゃニーアに嫌われちゃうよ)




「ガビコは何の武器を使うんだ?」


「あ、えっとですね!たぶん使う機会がないまま終わりそうなのですが...」




そういうと先ほどの父の形見を取り出す


布が3重に巻かれている


一枚ずつ丁寧にめくると磨き上げられた刀身が現れた




「短剣か」


「はい。父に唯一教えてもらえた剣術です」




短剣かぁ...強そうでないよな


リーチ短いし....




「ニーアちゃんは?」


「え!?っと!!...ま、ほうで...火が、の属性が...」


「あ!そっか戦闘系の魔法が得意なんだっけ。」


「は、はい!!」




完全に油断していたのだろう


声が裏返っている上に声が徐々に小さくなっていた








「ここまでのようだな。」




突然モガミが立ち止まった


目の前には地面から腕が生えている


岩の腕である


その手には水晶が握られており、なぜかそれより奥の景色は揺らいで見える




「これは?」


「あぁ、これか?これは通行禁止の証さ。」


「行ったらいけないのか?」


「そうだなぁ、禁止ではないが死ぬ。並みの冒険者ではこの奥にいる魔物とは戦闘にならないためこのようになっている。」


「そ、そうなのか。ちなみにこの壁は洞窟が発見されると国から派遣された高位魔法使いがきて作っていく。魔法使いを超える力の持ち主でなければ超えることはできない。」


「なるほどね。そうして無茶な冒険者達をとめているのか。」


「新米ほど戦場を甘く見る。」


「ん?じゃあなんで魔物はいるんだ?」




「簡単だよ。この壁は人間専用だ。」








ふざけた壁はモガミによって解除の後、再展開された。


「よし。進もう。」


「え!?だいじょうぶですかね...?」


「もがみはつよい!から、だいじょうぶ、だよね?」


「ニーアとガビコさんを守るくらいだいじょうぶですよ。」


「おれは?忘れてるよ?」


「はい?」


「つ、つかさは私が守るね!」


「...うん、頼んだ。」




頼もしそうにする彼女


さっきであったガビコ以下なのはどういうことですかね...


(異世界で無能な上に女の子に守られてるよ...)




しばらく進むとまた広間があった


先ほどとは違い岩陰にかすかに見える水場にヒカリゴケが自生している


近づこうと思ったときモガミにさえぎられる




「まて、敵だ。」




短い言葉が場を緊張感で埋める


よく見ると水場で何か動いている、後姿は毛のない熊のような見た目である


だが、決定的に違うには二足歩行をしているところだ




「二足歩行は進化の証だなぁ...」


「面白い考え方ですね。たしかにあの手の上位種は二足が多いです。」


「あれ、倒すの?」


「もちろん。でないと安全に進めません。」


「はい...。」


「だいじょうぶですよ!!私もいますし!」


「もがみぃ...」






どうやら初陣は不安でいっぱいのようだ
















「私が注意を引いて、切り込む。ニーアは頼んだ。」




頼まれてしまった。


なら仕方ないここで見ていよう。ニーアと一緒に...ガビコもか?




モガミは歩いて近づいている


魔物は気配に気づく、すると歩く速度を上げ間合いに入れるとその長い刀身を顕わにする


斬撃と言うにはあまりにも綺麗な太刀筋であった


最初にひざ上に切り込み両足を切断した


振りかぶっていた魔物の手は空を切り床に手をつくので精一杯である


次に床に立て付いた両腕を肩から両断する


四肢を失った魔物は悲鳴とも取れる咆哮を上げ、動けなくなる




「ニーアおいで。もう大丈夫だ。」


「う、うん」




一連の動きを見た俺とガビコはただ見つめていた


ニーアの魔法で焼き殺される魔物が息絶えるまで














遠くでニーアが頭をなでられている




「あ、あの魔物はけっして弱くなかった...魔力が身体からにじみ出るほどにはレベルが高い。


それをあの女は一撃で無力化したのか?」


「いやぁ、規格外の奴と仲間になっちまったな...」


「副団長という言葉通り、いや実際に目にするとあの戦闘力は冒険者のものさしでは測れないね...」


「...」




レベルという言葉には触れなかった。それは当たり前に存在するもので世間知らずと言う言葉ではごまかせないように感じられたからだ。


算数ができずとも馬鹿と罵られて終わる


しかし、呼吸法を知らないと言ったら馬鹿、ではすまない




「ガビコ、合流しに行こう。ここで置き去りにされたらあんなの倒して無事に帰れる自信がない」


「同感だね。今すぐいこう」






(レベルがあるなら俺も強くなれるな、ニーアに止めを刺させたのは経験値がある証拠だ...)

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僕の異世界召還は内気な女の子と冒険します。 赤ずきん @hako53

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