第5話
「セシリアさんって悪い男に騙されそうなタイプですよね。気を付けたほうがいいですよ」
緩やかに下る洞窟を歩きながらザマーが言った。
「それじゃ私が騙したみたいじゃない。人聞き悪いなぁ」
心外だとばかりにニルマが言う。
ニルマたちは、セシリアにつれられてポータルを目指しているところだった。
結局セシリアに、案内してもらえることになったのだ。
「で、ダンジョンってどの程度の大きさなの?」
「規模はまちまちです。ここは比較的浅い位置にポータルがあるようですので、小さい方ですね」
「ポータルの位置を調べる方法があるの?」
「先程見たワーカーは白かったですよね?」
「うん。白蟻的な感じ?」
「ワーカーは、ポータルから現れ、脱皮を繰り返して黒くなっていくんです。なので、あのワーカーは出てきてすぐの若い個体です。ワーカーは外へ外へと広がって行きますので」
「なるほど。ポータルからはそんなに離れていないということか」
「はい。なので、見かけるワーカーの色を見ていれば、ポータルに近づいているかはなんとなくわかる感じですね。後は壁の作りでしょうか。生まれたては下手な感じです」
そういったこれまでに得られた様々な知見を総合すると、ポータルの位置をある程度は絞れるとのことだった。
「そーいやワーカーは放置でいいの? ダンジョン改造されまくってるけど」
「ここのような浅いダンジョンでは、ポータルの破壊が優先となりますね。ケースバイケースではありますけど」
最優先はポータルの破壊なので、できるならそれを目指す。
だが、ダンジョンの改造が進むとそう簡単にはポータルまでたどり着けなくなる。
その場合は、それ以上ダンジョンの難易度が上がらないようにワーカーを討伐しつつ探索することになるらしい。
「そろそろだと思います。いいですか? 見るだけですからね。ポータルの周りには必ず護衛のソルジャーがいます。ワーカーとは違い、発見されれば襲ってきますよ」
「はーい」
洞窟を進んでいくと曲がり角が見えてきた。セシリアを先頭にして慎重に角へと近づいていく。
すると、何やら騒がしい音が聞こえてきた。
「これは……先着の方々が戦っているのかも……」
セシリアが立ち止まった。
「行かないの?」
「その、ポータル破壊中に横入りするのはよくないとされてまして」
「早く壊した方がいいんでしょ? 皆で協力して壊せばいいんじゃない?」
「それがですね。人数が増えますとポータル破壊報酬の分配で揉めることが多いんです」
「わかった。でもこっそり見るぐらいならいいでしょ?」
「はい。ですが気をつけてくださいね。ポータル破壊後のパーティーは核を奪われはしないかと気が立っていますから」
ポータルを破壊すると核が残り、それが破壊の証拠になるとのことだった。
つまり、横取りだろうと、最終的に核を持ち帰ったものが報酬を得られるのだ。
「うーん、随分と野蛮な感じになっちゃってるなー」
まだこの時代の常識や文化をよくわかっていないニルマは、素直にセシリアに従うことにした。
そっと角から覗き込む。
曲がってすぐが大きな空間になっていた。
直径二十メートルほどの広場だ。
その中心部に大きな白い塊があった。
糸を何重にも巻きつけた繭のようなそれが、ポータルなのだろう。
ポータル周辺では戦闘が行われていた。
「おお? 豚人間? あれがソルジャー?」
「犬人間もいますね」
「はい。オークとコボルトですね。比較的戦いやすい相手とのことです」
冒険者たちが戦っているのは、豚と犬の頭部を持つ二足歩行の怪人だった。
防具を身につけていて、武器も持っている。それなりの知性を持った相手らしい。
「てっきり、ソルジャーも虫なのかと思ってたよ」
「ワーカーは虫のような形態が多いようですが、ソルジャーは様々だと聞いてますね」
「冒険者たちが優勢のようですよ」
冒険者たちは三人。
杖を持った女と、大剣を持った大男と、短弓を持った小男だ。
対するするソルジャー勢は二十体ほどだったが、まるで相手になっていなかった。
女が持つ杖の先から次々に現れる火球が、瞬く間にソルジャーを倒していくのだ。
大剣と弓の男も周囲の警戒はしているが、特になにもしていない。
ソルジャーは見る間に数を減らしていき、すぐに決着が付いた。
「あれは……ホワイトローズの皆さんです!」
「知り合い?」
「知り合いというほどでもないのですが、ダンジョン攻略にあたって最初にお声がけをした方々ですね。三名のパーティですので、一人ぐらい増やす余地はあるかなと……」
杖の女がリーダーでレオノーラ。
大剣の男がトーマス。
弓の男がシントラだとセシリアは紹介した。
有名な中級冒険者パーティらしい。
先程のソルジャーが相手ならレオノーラ一人で十分に余裕のある戦力だ。セシリアを仲間にしてもほぼ意味はないだろう。
「この後はどうすんの?」
「ポータルを壊します。繭のように見えますが、あれで結構頑丈だそうです」
「ふーん……そういや、核っての奪ってもいいんだっけ?」
「だめですよ!」
「でも、壊しに来たってことは、報酬が欲しかったんでしょ?」
「それはそうですけど、神官としてそのようなことはできません!」
「そー言われるとねー」
神官として神の名のもとに接収するという手段も取れる気はしたが、ニルマは言わないことにした。
引き続き、ポータル周辺の様子を伺う。
無傷でソルジャーを殲滅したホワイトローズは、意気揚々とポータルへと近づいて行くところだった。
「ポータルは動きませんので、思いっきり攻撃をぶつけるそうです」
トーマスが前に出たので、彼がポータルの破壊をするのだろう。
「さっきのレオノーラって人が魔法でやっちゃえばいいんじゃ?」
「ポータルは魔法に耐性があるんです。ホワイトローズはレオノーラさんがほとんど一人でやってるようなパーティなのですが、ポータル破壊役として近接職の人が必要なんですよ」
「じゃあシントラって人は何役?」
「シントラさんは探索役ですね。ダンジョンの様々なことに詳しい方です。なので、ダンジョン攻略パーティとしては最低限の構成です」
トーマスが大剣を大きく振りかぶった。隙だらけの体勢だが、なりふり構わず全力を出すための構えだろう。
だが、ためにためた力は解放されなかった。
振りかぶった腕が、大剣とともに落ちたのだ。
「ぐっ……!」
トーマスがうずくまる。
「なに!?」
レオノーラとシントラが臨戦態勢になった。
何かから攻撃を受けた。
つまり、まだソルジャーは残っているのだ。
歌が聞こえてきた。
繭の陰から何かがやってくる。
それは、細身の女だった。
ひらひらとした薄手のドレスを身につけ、身長程もある杖を持った美しい女が歩いてくる。
杖を片手でバトンのようにくるくると回し、鼻歌を歌う彼女はとても楽しそうだった。
「そんな……どうしてエルフが……」
女を見たセシリアの顔が青ざめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます