冷凍畑

夏のコンクールが終わり

周りのみんなが泣いていて

僕は泣かずにいた


結果発表を待っていたときの

舞台の幕が上がるのを待っていたときの

あの痛いほどの緊張と興奮は今も覚えているけれど

そのとき結果はどうだったのか

よかったのかダメだったのか


みんな顔をくしゃくしゃにして泣いていて

僕はどこかいたたまれなくて

みんなの顔を見れずに

うつむいたり上を見たり

はたまた楽譜を見返したりしていた


会場の外でみんなで列を作って

僕はその列の先頭か最後尾あたりにいた

セミがたくさん鳴いていて

きっととても暑かった

先輩からの差し入れがどこかから回ってきて

その中に冷凍のこんにゃく畑があった


一口食べるとザリッとした歯ごたえ奥の方に柔らかさ

かき氷を食べたときのようなキンとした感じ

氷が口の中に溶けていく

僕は泣いていた

悲しくもなく嬉しくもなく

終わってしまったという感慨だけがあった


昨夜スーパーをぶらついていると

こんにゃく畑が目に入った

買って帰り冷凍庫に突っ込む

朝目が覚めるとこんにゃく畑は

あのときのように凍っていた


蓋を剥がそうとするとうまく剥がれなくて

こびりついた蓋を爪でこそいだ

強めに底を押して本体を浮かせ

ひと思いに口へ放った

あのときと同じ味だった


ただ涙は流れず

終わるものすら今はない

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