Tシャツの檻

ベランダの檻の中で

Tシャツは手を振っていた

風がひとすじ吹けば

どこかへ飛んでいけるかもしれない

自分の中に裸の他人が居座ることもなく

下着と上着に押し挟まれることもなく

首のつっかえ棒から解き放たれて

12階から1階へ

もしくは途中のベランダやどこかの屋上や木の枝に引っかかったとしても

汚れて二度と洗濯してくれる者もなかったとしても

それでもいいと腹の糸をくくって

僕は手を振っていた

羽の長いカラスがちらと僕を見た

ああその黒くて汚いクチバシで僕をつつき

このヒビの入った首輪を外し

青空へ風に乗せて飛ばしてくれ

カラスは何も言わずに

闇の中へ飛んで消えた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る