2. 学科対抗戦

2.1 諦念科vs電気科

 校庭の一角は、さながらコンサート会場だった。

 ステージを組み、電気科一同が小山のように電子機器を並べ、配線をはわせる。

 横道灯里よこみち あかりは彼らの中心で、キーボード奏者のように操作パネルの前に立っている。

 小柄な体に灰色の作業服が肩から落ち、長すぎる袖も裾も折りこみ、縫ってある。


 ステージの手前では、深見先生が諦念ていねん科の生徒たちに発破をかける。

「電気がないとなにもできない連中に後れをとることは許さん。おまえたちは米と味噌汁で永久に動けるはずだ」

 白倉しらくら清らきよらが不安げに問う。

「同級生が傷つけあう前にできることを探すべきではないでしょうか?」

「これは授業の一環だ」

 生徒のもっともらしい疑問を教師が一蹴し、生徒たちに力強く訴える。

「おぼえておけ。われわれが万が一、敗北することがあれば、平和の守護者から、ただのおもしろ集団になりさがるのだ」

「実際そのとおりだからこまりますね」

 級長の神妻こうづましゅうが苦笑しながら同意する。


 電気科は開始前から盛大に盛り上がっている。

「これまで残念に立ち向かえるのは諦念師のみだった。しかし、われわれは横道灯里を迎えた!」

「アカリ! アカリ! アカリ!」

「科学によって、伝統が終わる!」

「アカリ! アカリ! アカリ!」

「アカリ! アカリ! アカリ!」

「うるさい! 人の名前を叫ぶな!」

 耐えかねたように灯里が抗議の声を上げる。

「小型! 薄型! 最軽量!」

「家電じゃない!」

 丸山先生がすでに勝ったかのように笑う。

「きみの才能を見せつけるがいい」

 そして、両チームの準備が整ったのを見て、宣言する。


「それでは学科対抗戦、開始!」


丸山先生が手を挙げると同時に、はやしリンが動く。

矢のように一直線に走り、地面を蹴る。

「ほわちゃ!」

灯里の横の生徒に飛び蹴りが炸裂し、吹き飛ばす。

「直接蹴ってどうするかあああ!」

丸山先生の絶叫が響く。

「林リン退場! ・・・・・・すみません」

深見先生が宣告し、あきれた顔をリンに向ける。

「敗北は許されないんでしょ?」

「おまえは、体育科に移籍するか?」

歯ぎしりする深見先生に首をつかまれながらリンは後方へと退場する。


「あわわわわ・・・・・・」

 となり30センチの惨劇を目の当たりにして、さきほどまで不機嫌だった灯里が細いあごをふるわせる。

「野蛮人は危険。排除しないと」

 素早くキーボードをたたくと、ステージ奥から小型の機器が射出される。

 自律型探索飛行装置。

 コインほどの大きさでカメラと推進器をそなえたドローンが大量に展開し、諦念科の生徒たちの上空を旋回する。


「なにこれ?」

 ゆたかが蚊を追い払うように手をふる。

「カメラでぼくたちを観察してるみたいだ」

舟が答える。

「ごきげんよう、みなさん」

「花織さん、笑顔で手をふらないで」

「だって、花織を見てるんですもの」 

リボン娘・蝶川花織ちょうかわ かおりが機械にまで笑顔をふりまく。

「機械も花織に夢中なんて、こまりますわ」

 のんきな諦念科をちらりと見た灯里が操作盤をたたく。


「念波妨害」


 ドローンがブーンという低い音を発生すると同時に、いっせいに諦念科の生徒が頭をおさえる。

 顔をしかめて歯を食いしばる。

「あれ、どうしたの?」

 ゆたかだけが平然として、周囲の異状をいぶかる。

「花織、頭痛がするので見学しますわ」

 リボン娘があっさりと退場する。

「諦念師が念に敏感なのをつかれたね。機械的に邪念を発生させてる」

 舟の口調がいくらか重くなる。

「あああ・・・・・・」

 閑野かんのちほが苦しそうな声をもらす。

「ちほさんは感知の専門家で、だれよりも敏感だからね」

「よよよよよよよよよよよ・・・・・・」

 ちほがよろめく。

「おい、舟、なんとかならんのか?」

 柴木大吾しばき だいごも顔をゆがめながら問う。

「そうだね、このままでは」

「キィー!キィーキィーキィー!キィーキィーキィーキィー!」

 ちほが苦しむ声が高まる。

「みんなが消耗するばかりだ」

「ずららどららふげらもーん!」

「あのドローンをどうにかしないと」

「ぐげぐげごががががるらららででででごがんげーん!」

「でも、この念波があると呼び手も邪魔されて力を発揮できない」

「びげなみょーんずらぬめーんぽげだだだだるげををををふぬらきりきったーん!」

「おまえが一番やかましいわ!」

 回転しながら叫ぶちほを大吾が止めようとするが、それでも奇声を発し続ける。

「これは聖なる衣。悪意は通しません」

 清らが白い衣をひろげ、ちほのうしろからかける。

 ちほは頭から衣をかぶり、清らの胸に抱かれて、ようやくおとなしくなる。


「おうし、羊太、反撃じゃ。行くぞ!」

「機械が相手なんて、不安だよ・・・・・・」

 さきほどは却下された柴木大吾・仁藤羊太にとう ようたペアが進み出る。

 待ちかねた出番に大吾が得意の技を繰り出す。

「こんな騒音より、ワシの方が100倍やかましいことをみせてやる!」

 会場にしつらえられた胴の太い和太鼓を示す

「聞け! 柴木大吾のあばれ太鼓じゃ!」

 大吾が鍛えられた腕をふるい、太鼓をバチで連打する。

 ドーン、ドーン、ドーンと太い音が一帯に響く。

 重い低音が地面を伝い、そこにいる者たちを腹の底からゆらす。

 浮遊するドローンもゆれる。

「うりゃ! うりゃ! うりゃ!」

 ドン、ドン、ドン、ドドドドっと、大吾が全力でたたくにつれ、空で光が点滅し、やがてうなりを上げる雷鳴となる。

 天をよろこばせ、天の力を得る諦念師の能力が発動する。

「りりゃりゃりゃりゃりゃりゃ」

 轟音とともに、雷が光る。

 大吾の見せた技に対して、天がよろこび、応えて、その力を与える。

「羊太! 次はおまえの出番じゃ!」

 緊張の面持ちだった羊太は、制服の上着を脱ぎ捨てる。

 着ていたセーターに手をかけ、ひきのばす。

 そこに天の雷が落ちる。

「スパイダーニット!」

 投げ手である羊太は天の力を操る。

 稲妻を受けた腕から羊毛へと光を注ぎこみ、網のように空に投げる。

 天の力を得た羊毛が伸びて、空に編み物を展開する。

 大きく広がってドローンをおおい、からめとる。

「捕獲成功!」

「くぉの野郎! くぉの野郎!」

  ひきずり降ろしたドローンを大吾は足で踏みつける。

「これですっきりじゃ!」

  妨害の念波が消える。

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