第23話 キレイにしましょう!
さて、イリスの実身体を購入してすでに3ヶ月以上が経っている。
そろそろ見えない部分の汚れが気になってくる頃合いだ。
「おーい、起きろ」
僕は椅子に座って充電しているイリスに話しかけた。
休止モードが解除されて動き出す。
「どうしましたか?」
「イリス、掃除をするよ」
僕はやるべきことを端的に告げた。
「どこのですか?」
「おまえだよ」
それを聞いたイリスはニヘラと笑う。
「ワタシとお風呂に入りたいんですね。そんな遠回しに言わなくてもいいんですよ?」
「そういうのではないし、そういうのでもない」
僕がイリス相手に回りくどいこと言うわけないだろ……。
「何言ってんだ、こいつ」
イリスは相変わらず口が悪かった。
「ほれ、ベッドに寝ろ」
そう指示すると、イリスは椅子から立ち上がり、ベッドの上でどーんと大の字で仰向けになった。
大きな体重でベッドがギシリと音を立てる。
そんな姿勢ですら豊満なおっぱいは重力に負けることなくきっちり存在を主張していた。
「さぁ、煮るなり焼くなり揉むなり舐める好きにしてください!」
僕はイリスの渾身のボケをスルーして、机の上にある体長3センチメートルほどの昆虫型ロボットを手に取った。
「今日はこいつを使うぞ」
イリスは大の字のまま、首と目だけをこちらに向ける。
「〈クリーン・インセクト〉ですか」
そう、これはオートドール内部清掃ロボット〈クリーン・インセクト〉なのだ。
主に見た目が原因で一部では不人気である。
だけど、合理性を突き詰めた結果、こういう形状になるのだからしょーがない。
「ですかって、それしかないだろう」
「いえ……ハルトのことだから、えっちなことしか考えていないものだと……」
「えっちなことしか考えていないやつにオートドールを持つ資格はない」
オートドールはオーナーが責任を持って管理しなくてはならないのだ。
「ハルト……素敵っ……抱いて!」
僕はインセクトのリンク開始ボタンを押した。
「……とりあえず始めるぞ。インセクトとリンクするんだ」
「はーい」
虫ロボットをイリスの頬の上に置くと、虫ロボットからさらに小さな虫ロボットがゾロゾロと出てくる。
小さな虫たちは鼻の穴、耳の穴に入っていった。
絵面としてはおぞましすぎるが、そういうものなのだから仕方がない。
せめてもの救いは虫ロボットが自然界にはなさそうな蛍光色であることだ。
極稀にだけど性的興奮を覚える変態がいるらしい。
僕も変態と呼ばわりされるが、変態にも“多様性”があるのだ。
……当然か。
機種にもよるが、基本的に愛玩用オートドールの鼻の穴は飾りではない。
もちろん、オートドールは酸素を必要としないから呼吸のためにあるわけではない。
熱を放出するための空気穴なのだ。
オートドールは内部を冷却水が巡回しており、発生した熱を全身に分散させている。
それでも熱が余ってしまう場合は、空気を吸い込んでさらに熱を逃しやすくする。
当然、空気を吸い込むので埃が溜まる。
吸い込まなくても隙間があれば埃は溜まるのだ。
それを掃除するのが、この〈クリーン・インセクト〉だ。
ちなみに、耳は普通にマイクに続いている。
しばらくすると、まず経路が短い耳から虫ロボットが出てきた。
虫ロボットは埃を圧縮した塊を抱えている。
それを大きなロボットが受け取ると小さなロボットはまた穴から中に入っていく。
この間、イリスを休眠モードにすることはできない。
このロボットたちもジェネシスシステムの一部であり、操作しているのはイリスだからだ。
何も抱えていないロボットが帰ってきたので、大きなロボットが小さなロボットを回収する。
約30分かけて、イリスの内部クリーニングが終了した。
「よし、終わったから起きろ。僕のベッドを返せ」
イリスはむくりと起き上がる。
「では、次はハルトの番ですよ♥」
「え?」
イリスがまた妙なことを言い出した。
まさか僕に虫ロボットを突っ込む気じゃないだろうな……。
病院直行コースだぞ? ピーポーピーポーだぞ!
ところがイリスはそのまま机に近づくと、置いてある耳かきを手に取った。
「さぁ、ハルト。ワタシがこれで耳を綺麗にしてあげましょう。いや、もうはっきり言ってしまうと、気持ちよくしてあげましょう」
「…………」
確かに、上手くやれば気持ちいいかもしれないが、これも下手すると病院直行コースの可能性を秘めている。
オートドールの可能性は無限大なのだ……。
「さぁさぁ、遠慮は認めないぞ♥」
「うわあああああああ」
イリスは軽々と僕を抱えると、ベッドの上に移動して、強制的に膝枕の状態にした。
頭部にふとももの柔らかい感触があるが、なぜか安心感が少ない。
「おい、待て。本当に大丈夫なのか?」
「ダイジョーブダイジョーブ。耳かきデータを集めまくったワタシを信じなさい。ハルトはじっと動かなければいいだけです」
なんか怪しい教祖みたいになっている気がするぞ……。
「そ、そうか」
イリスは耳かきをペン回しのようにクルクルと回転させている。
指先の器用さでもアピールしているのだろうか……?
「では、いきます!」
気合の入った開始宣言。
耳の中に何か細くて硬いものが入ってくりゅうううううう。
「んほおおおおおおおおおおおおおおお」
あまりの気持ちよさに思わず変な声が出る。
人間相手なら押し殺すところだが、オートドール相手なら遠慮がいらない。
「ええんか? ここがええんか? ほれほれ♥」
耳かき棒の刺激だけでなく、イリスの言葉責めもなぜか気持ちいい。
「う~ん、しつこい汚れがありますね~」
「痛っ!」
突然、耳の中に鋭い痛みが走り、声を出すと同時に身体を硬直させた。
「あ、ごめんなさい」
イリスには珍しく心底申し訳無さそうな様子だ。
「…………」
「でも、同じ失敗は繰り返しません。大丈夫です。信じなさい……信じなさい……」
イリスは耳元で囁く。
やはりイリスは前向きだった。
そして、また細くて硬いものが入ってくりゅうううううう。
「んほおおおおお~」
「は~い綺麗になりましたよ~。では、反対の耳~」
と言いながら、僕を掴んでぐるんと回して逆の耳が上になるようにした。
「うわ?」
その怪力を使用するのにだんだん躊躇がなくなってきているのか……?
「さぁ、いきますよ~」
またまた細くて硬いものが入ってくりゅうううううう。
「おほ~」
先程イリスが言ったことはあながちデタラメではなく、全く痛みはなかった。
ただただ気持ちよさに包まれていた。
「ハルトがだらしない顔をしていて、ワタシも大満足です♥」
そして、僕はそのまま眠りに付いた……。
*
そして、2週間が経った。
「さぁ、耳かきでハルトを快楽漬けにしますよ~」
イリスは僕を抱えてベッドへ向かい出した。
「いや、待て」
僕はすぐに静止の指示を出す。
「え?」
イリスはとても意外そうな顔で動きを止めた。
「あれから調べたのだが、耳かきは耳に良くないらしい。だから、やらなくていい。というかするな」
「なるべく安全な方法を調べてますから大丈夫ですよ」
「いや、やっぱり怖いからいいや……」
「…………」
イリスはゆっくりと僕を下ろすと、しょぼくれた様子で椅子に向かった。
そして充電ケーブルを繋ぐと、心を閉ざすように休止モードへと切り替わった。
こうして、僕は理性の力で恐るべき快楽に打ち勝ったのだった。
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