第19話 チョロイン・ブルース

エルフの里へ向かう道程の二日目の昼、空腹で傷だらけのエルフ兄妹を見つけた。



俺は食料と治療をブルースに頼みセレナに報告をし、カミツレを伴って戻ってエルフの兄妹の元へ戻った。




「よう、少しは落ち着いたか?」



俺がそう声を掛けると二人が反応するより早くブルースが此方に駆け寄ってくる。な、何事だ?早すぎて残像が見えるくらいなんだけど!



「お帰りなさいませ、主殿!拙者は主殿のお帰りを心より待ち望んでいたでござる!ささ、いつものご褒美を!」



異常にキラキラした瞳で此方を見てくるブルースに俺は府に落ちた。


昨日だか一昨日、カミツレの頭を撫でてやったらブルースが物欲しそうな顔をしていたのでそれ以来何かに付けて撫でて欲しいと言ってくるのだ。



でもそんな早く駆けて来なくても良くない?



「おう、少しだけな。今は取り込み中だ。」



ブルースの頭に手を乗せ四~五回撫でてやる。


ブルースはスライムだからか、ひんやりしてて気持ちいいのに何故か質感は人間のそれと同じなのだ。



不思議だよなぁ



「フヘヘ…むぅ、仕方ないでござるな…お二人ともそこに直れい!我が主殿が話しが有るとの事。光栄に思うが良いぞ!」



すっごい偉そうだなその物言い…。けど、怪我を治してもらったからか、大人しく頷き片膝を地面に着いた。



いや、普通に立ったままでいいんだけどなぁ……



「楽にしてくれ。とりあえずそちらの事情を聞かせてくれないか?俺たちは今、エルフの里へと向かっている途中なんだ。」



「はい、実は村で大規模な魔物の氾濫が起きまして…食料を奪われてしまい、散り散りに…俺は、俺は何も出来なかった…クソッ、クソォッ!」



「お兄ちゃん!話がぐちゃぐちゃだよ!私が一から話しますね。一週間ほど前でした。奴が現れたのは…」



ポツリポツリと妹エルフが話し始める。時に涙を流しながら、怒りに拳を握りながら。



二人の名前は兄がヒューイ、妹がリラ。



一週間前、突然人語を話す見たことない魔物が現れたらしい。


魔物と行っても人の姿をしており、魔族に近い種族だという。


そいつは旅人に扮して村に入り徐々に配下の魔物を集め村を侵略していったらしい。



事件が起きたのは魔族が来て三日目の深夜、兄妹の父親と母親が物音に気付き、捜索したらしい。



だが翌朝には物言わぬ骸と化して家の裏に無残な姿で見つかったという。



里人達は不審に思い容疑者を探し第一に疑ったのは旅人に扮した魔族だった。



魔族は逃げるでもなく全てを明かし里人達に食料を求めた。従わぬ者には死という制約を施して。



里人達は食料をかき集め魔族に渡すしかなかった。



逆らったら死ぬ、だが食料を集めなければ飢えて死ぬ。



そんな簡単だが残酷なルールを作った魔族に反発する血気盛んな若者は多かったがその場で首を跳ねられ無残な姿に変えられてしまった。



見るに耐えかねた何人かの里人で二日前に抜け出したが他の者達とははぐれてしまい空腹で倒れたところに偶々俺達を見つけたという。



「何と卑劣な…!!許せん!」



「セレナ、そんな感情的になるな。ブルース、カミツレ行けるか?」



「勿論でござる!」



「行きたい!暴れたい!オレに行かせろ!」





ブルースは鬼気迫る表情で頷き、カミツレは歯を剥き出しにして笑っている。気合いは十分だな。





俺は魔族を討伐することに決めた。



走れば六時間くらいだろうか?


まぁ、隊の人間と俺を合わせて十一名にエルフを入れて十三名か。



休憩を挟みながら進もう。


もう昼過ぎだし着くのは夜になるが逆らわなければ死ぬことはないだろうし、食料はブルースが運んでくれるからカミツレと先行させよう。



俺は集まった隊員達にセレナに説明するよう頼んでブルース達に告げた。



「ブルース、カミツレ、エルフに仇なす魔族どもを蹂躙してこい!」



「御意!」



「へーい」



この二人なら間違いなくやってくれるだろう。少なくとも俺はそう信じている。


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