ボクと狐ちゃんとテニスサークル8
先日花見に来た公園が、今回のテニスサークルの新入生歓迎花見の会場であった。若干散り初めだがまだきれいな桜の花を尻目に、ボクたちはサークルの持ち看板の立っていた花見の場所に向かった。
少し遅かったようで、皆すでにお酒を飲んで食べてを始めていた。乾杯は逃したようだ。さっき自己紹介した新入生もガンガンビールを飲んでいるのが見える。ほとんど未成年だろうしいいのかなと思いながらも、先輩にあいさつし、ボクは空いている席を探す。みな雑多に座っているが、二人分が開いているスペースは見当たらなかった。
「あんまり空いてないね」
「そうだね、クーちゃんあっちかな。ボクはそっちに座るから」
「えー、一緒がいい」
クーちゃんが腕に抱き着いて耳をこすりつけてくる。あざとい。ボクの弱点を完璧に把握しているおねだりだ。さすが狐。ドジ属性でも傾国の要素は忘れないようだ。
「でも二人分のスペースないし。逆でもいいけど、そっちはフウリさんいるよ」
「うぐぐぐぐ、仕方がないのです」
思わずこのままなでなでしたくなる衝動を我慢しながらボクはクーちゃんを送り出し、自分は端の席に座る。
「こんにちはフウリさん」
「またお会いしましたね、ショウさん。尾崎さんは?」
「あっちに行きましたよ」
フウリさんの隣に座りながら指をさす。その先にはクーちゃんがおり、一つ離れた場所にいたチャラ男(仮)に絡まれていた。失敗だったかもしれない。
「絡まれていますね」
「うーん、先輩たちが助けてくれているみたいだし、ひとまずボクは見守ることにします」
「意外ですね。仲がよさそうなのに。尾崎先輩とはどういうご関係で?」
「先輩?」
「あ、失礼しました。私、尾崎さんと同じ高校の後輩なのです。尾崎さんが一浪したので、今は同学年ですが」
「へー、じゃあやっぱりその耳と尻尾は……」
「見えているんですね、さっきから私の尻尾に目線が釘付けでしたからうすうす察していましたが」
フウリさんの尻尾はまるまるとした狸の尻尾であり、すごく抱き心地がよさそうだったので思わずガン見していた。抱き枕にしたら絶対気持ちいいやつである。
「ちょっといろいろあってね。まあこの髪の色見れば普通じゃないのはわかるでしょ」
「確かにきれいな白銀ですね。目も瑠璃ですし、浄眼ですか」
「まあそんなようなところだよ」
浄眼が何かなんてさっぱりわからないが、にっこり笑ってあいまいに流す。変に絡まれるのも嫌だし、これくらいの腹芸はボクもできるのだ。しかし、何か特別な目だと思われているのなら、あまり見ないほうがいいのだろうか。
ボクはそのまま視線をクーちゃんの方に戻す。ビールを食ぴくぴ飲んで、また半分口を開けた変な表情をしていた。ビールも炭酸だし、コーラの時と同じくおそらくゲップが止まらないのだろう。
「尾崎さんと仲いいんですね。あの人、幼馴染意外と付き合いがないと思っていました」
「塗々木さんのこと?」
「そうです。生徒会長の時だって、自分一人で勝手にどんどんやっちゃうってすごく不評だったんですよ」
なんとなくわからないでもない。今回だってクーちゃんが勝手に参加を決めてボクは引っ張られてきただけだ。そういうところがあるのは否定しない。
「そこはクーちゃんのいいところじゃない、積極的だよね」
「それだけじゃないんですよ。尻拭いをいつも副会長にやらせて、最後は女装までさせていたんですから」
「九十九さんのこと? あれ、似合っていたよねぇ」
「おかげで次を引き継いだ私もだいぶん苦労しました」
「次ってことは、フウリさん生徒会長だったの? すごいねぇ」
「……」
いくつかわかったことがある。フウリさんはクーちゃんのことを嫌っているということ。相性が悪いとかそういうレベルじゃないのだろう。わざわざこうしてネガティブキャンペーンを張るのだから。
しかしそれに乗ってやる義理もない。反論しても嫌いなのだったら無駄だし、論点をずらしてポジティブに回答していればいいだけだ。
人を呪えば穴二つ、ではないが、そういうネガティブな発言は自分に帰ってくるものである。
「フウリさんの学校ってどんなことしていたの? ボク生徒会なんて縁がないからよくわからないや」
「まあいいです。穢れに飲まれないといいですね」
そういってフウリさんは席を立った。ちょうど何人か移動をしようとしていたタイミングのようで、そのままボクともクーちゃんとも離れた席に彼女は座った。
代わりに新入生の男子がフウリさんがいた場所に座ったから若干身構える。昔みたいに馬鹿話をすると逆に引かれるんじゃないかという謎の考えが頭をぐるぐるめぐる。ビールを進められたのを断りながら、ボクはまず何から話すべきかに頭を悩ませるのであった。
瑞原大学物語 ~ボクと狐ちゃんのほのぼのキャンパス生活~ みやび @miyabiyaka0803
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