第3話 学園に通う少年

「そう言えば、貴方に渡して置きたい物があるの」

「え、何だよそれ?」


 朝食を食べ終えて洗った食器を片付けていたカイトに、未だ本を読み続ける女性が封筒を手渡してくる。


「これは手紙? 宛先は親愛なる蒼玉色サファイアの魔女……サーリンへって、これあんた宛じゃねぇーか」

「手紙は私宛だけど、中身は貴方の為に送られて来た物よ」


 女性―――サーリンは、本を片手に食後のコーヒーを手に持ちながら答える。コーヒーを一口飲むと、さらに言葉を続ける。


「それは、とある場所への招待状。今後の貴方の将来を決める、大切な場所へのね」

「将来を決める、大切な場所?」


 何故だろう、さっぱり話が見えて来ない。


―――、魔女に拾われた子ども達が通う学び舎よ」

「魔女に拾われた子どもが通う、学び舎?」

「そう、貴方も今年で15歳。魔女集会学園は15歳になった子ども達を一時的に預かり、一般的な教養や専門的な技術……必要であれば、戦い方も教えてくれる場所よ」


 サーリンは本から目を離さずに、カイトに説明を続ける。


「話くらいは聞いたことがあるけど、何で俺が?」

「あら、魔女に拾われた子どもは皆んなが通る道よ。魔女ってのは、自分の価値観でしか物事を考えない。そんな場所でずっと過ごしたら、常識が欠落してまともに生きてはいけないでしょ?」


 つまり独特な価値観や生き方をしてる魔女の下で暮らすと、非常識人になりやすい。そのため造られたのが、拾われ子たちの教育機関って事か。


「期間は3年―――魔女集会の援助で造られた学園だから、安全安心な所よ。しっかりと常識を学んで来てね」

「俺はそこまで非常識じゃないと思うんだけどな」

「ふふ、まぁ常識以外にも学ぶことは多いと思うわよ」


 カイトの声に、サーリンはその表情に笑みを浮かべる。


「そんな事より、その学び舎とやらを卒業したらどうなるんだ? まさか国を出て行けなんて言うんじゃないだろうな?」

「それもその学園で決めるのよ。国に残るか、外に出るか。国の為に働く、守護者になるか」

「なんか1つ物騒な単語が聞こえたが、気にしたら負けだな。まぁ、俺の将来は決まってるよ」

「あら、夢があるのは良いことよ」


 サーリンは笑みを浮かべたまま、コーヒーをもう一度口にする。


「俺はあんたに返し切れない 恩 がある。だから俺の将来は、あんたの為に使わせて貰うぜ。誰が何と言おうとな」

「……貴方も変わらないわね」


「俺の進路希望は―――だよ」


 カイトは、当たり前の事を再確認するように自分の将来を声に出すのだった。




 マドニバル―――通称、魔法使いの国。


 大陸の4分の1を占める迷いの森の中にあるこの国は、規模が大きくなり過ぎた魔法使いたちの隠れ里である。当たり前だが、この国に住む全員が魔法使いなのだ。

 女性の魔法使いは魔女と、男性の魔法使いは魔士ましと呼ばれる。


 唯一神〈ゼルス〉より生まれし、彼らの始祖〈ドニバルス〉から名付けた国。


 そんな国の中心地と呼ばれる都市が、此処……ドニバである。国の中心という事で、国名の真ん中3文字を取ったと言う安直な名前なのだが―――実際に栄えている。賑わいを見せる商店街や建ち並ぶ住宅地、そしてこの国唯一の学園である 魔女集会学園 が在るのも此処だ。

 そもそもこの国の国民は、そんなに多くない。そして国民の殆どがこのドニバに住んでいるのだ。公共施設なんかは、全部この都市に集まっている。


 カイト自身も、買い出しや生活費稼ぎなんかでよく訪れている。しかし、カイトが住むサーリンの家は迷いの森でも深部にある為、中心地のドニバは結構距離がある。【転移の魔法】が使えると言っても、これから3年も通うとなると少し考え物だ。


 そんな事を考えながら、カイトは木造でありながらも豪華さが見て取れる門の前に立つ。その脇には『魔女集会学園』と書かれた文字。魔女集会の援助の下に建てられたと言うだけあり、校舎はそれなりに大きな造りとなっている。

 木造と石造りを併せた、この国の住宅と同じ一般的な造り方だ。校舎の隣にあるやけに大きな広場に違和感を覚えながら、カイトは門を通り過ぎ校舎の中に入る。


「全校生徒は 100人 。3学年制で1学年3クラス、1クラスは10〜11、2人か。けっこう多いな。」


 この大陸にはもちろん、他の国もある。


 中でも大きな国は 2つ あり、その2つとは、帝国 と 連邦国 と呼ばれる大国だ。そしてそれら国にも 学園 は存在する。


 何が言いたいかと言うと、それらの学園に比べ魔女集会学園の生徒数は、圧倒的に少ない。何故カイトが「けっこう多いな」などと呟いたかは、単純な理由。


 この学園の生徒は、全員が魔女や魔士に拾われた子ども達なのだ。

 そして、この学園にはそれなりの歴史があり、卒業生も数多く存在する。まだ学園に通っていない15歳以下の拾われ子達も合わせると、それなりの数になるだろう。


 この国には、それだけ身寄りの無かった子ども達が住んでいるという事だ。


「俺が選んだクラスは、ねずみ? 魔法使いの使い魔から取ったっていう、組名か」


 魔女集会学園は、1学年3クラス。

 その中には、魔法使いの使い魔から名付けた〈鼠〉、〈猫〉、〈蛇〉の組名が存在する。そして、それぞれのクラスには 将来の進路 がある程度決められている。


〈鼠〉……国に残り、その繁栄に尽くす。

〈猫〉……国を出て、旅をしながら見聞を深める

〈蛇〉……国の為に、戦力を身に付け守護者となる


「俺は別に国から出るつもりも無いし―――国の為に戦うつもりも無い。まぁあの人サーリンの下で働ける力は身に付けないとな」


 そう言ってカイトは、指定された教室へと向かう。

 教室に着くと、そこには机と椅子がそれぞれ10組。つまり、これからクラス替えが無ければ、共に3年間を過ごす仲間は、カイト自身を合わせて10人という事になる。

 すでに何人かは席に着いて居るが、まだ来てない生徒も居るのだろう。空いている席もあった。学園生活が始まるまで、まだ少し時間があるようなので……カイトは自席で腕組みし、その上に頭を伏せて仮眠を取る事にした。




 担任の先生と思われる男性の声が聞こえ、カイトが目を覚ますのはもう少し後の話―――





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