お子ちゃまにして育ち盛り

 何か風景に違和感を覚える。


 11月に入り受験が刻一刻と近付き、教室の中の阿鼻叫喚の地獄絵図はもはや常態と化しているので今更感だ。


「どこ受けますかあ?」


 と、担任の男性教師から惰性のように訊かれた三者面談も、再就職活動中で時間のある父親と一緒に出て、


「東京の元々の志望校か、大阪の○○大学か、京都の△△大学」


 と答えたら、


「△△大学にしといてー」


 と当たり前のように返された。

 要するに難関校の合格者が1人でも増えた方が来年度の生徒募集に学校として有利だからだろう。

 なんとなく反抗心を持ったわたしは、


「それか、大阪にある芸術大学」


 と余計なことを言ってしまった。


 書類から顔を上げてわたしに視線を向ける担任。


「食えないよ」


 一言で終わった。


 三者面談の後、父親を誘ってみた。


「父さん、学食行かない? 結構イケるよ」


 三者面談は丸一日授業を取りやめて時間制で行われる。わたしは午前中でもう終わったので余裕ある心地でトレーを手にした。


嶺紗れいさ、おススメは?」

「カレー」

「ふう・・・陳腐だな。にしてもやたら幼い子が多いな」

「うん。隣の中学、基本はお弁当なんだけど、そうじゃない子に高校の学食開放してるんだよね」

「ふーん」


 お。

 向こうのテーブルに恵当けいと発見。バドミントンダブルスのパートナー、竹島くんも一緒だ。


「ここ、いいかな?」


 そう言ってお邪魔する。


「竹島くん、恵当、うちの父親」


 こんにちは、と2人して声を揃えてくれた。


「父さん、わたしのピアノの生徒の恵当と、同じバドミントン部の竹島くん」

「ああ、ばあちゃんの教室の」


 恵当を父親と会わせるのは初めてだ。

 そして、祖母は薄々勘付いてはいるけど、家族に対して恵当がわたしの彼氏だということは言っていない。


 この4人で無難に中学の話やら日本人選手もバドミントン強くなったねえ、などと社交する。

 その内にネタが尽きて、竹島くんが間を持たせようと恵当に話題を振った。


「有塚。背、伸びたな。入学から何㎝伸びた?」


 あ。

 そうだよ。

 どうりで風景が違って見えるはずだ。


「5cm」

「おお〜!」


 思わず感動して声を上げてしまった。


「れ、嶺紗先輩?」

「あ、竹島くん、ごめんごめん。だって、まさか恵当がそんなに成長真っ盛りだったとは」

「ほっといてよ」


 怒った恵当もかわいい。

 ふーん。そうだよねー。へへ。


 なんか、わたしも恵当の成長がうれしーなー。


 調子に乗って、つい言っちゃったんだよね。


「毎日四六時中見てるから、そんなに伸びてたのに気づかなかったよ」

「毎日?」


 あれ?


「ピアノのレッスンって、土曜日だけじゃないのか?」


 あれれ?


 父親って、こんな鋭いキャラだったかな?

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