【おまけ番外編】 キミに感謝を

第1話


「ただいま」




 仕事から帰って顔を覗かせた裕文さんに、「お帰りなさい」と笑顔を向ける。




「今夜はカレーかな?」


「カツカレーですよ」


 もうすぐ出来ます、と付け加えれば、「やった! 腹ペコだよ」と笑顔を残してドアを閉めた。




 変わらず義兄さんは、帰るとすぐに僕へと「ただいま」を言って、姉さんの仏壇へと向かう。




 チンチーン。




 澄んだ音が奥の仏間から聞こえて。余韻のある音が止んでも、義兄はしばらく姉さんとの会話を楽しむのだ。




 ――姉さんを今でも大切に想ってくれている。




 それが判ることは僕にもとても嬉しいことで、どんなに言葉を紡いでも、綴っても。


 伝えきれるものではなかった。




 でも――。


 もしかしたら、いつか。他の女性を……。




 カレーを混ぜながらそんな考えが浮かんで、首を振った。


 火にかけてある油が丁度良い頃合になったかを、パン粉を落として確かめる。


 衣を付けた豚肉を入れようとして、手を滑らせた。


「アッツッ!」


 飛んできた熱々の油に、顔を背ける。




「どうしたの!? ヤケドした?」


 いつの間に来てたのか、着替えを済ませた裕文さんが、リビングに立っていた。


「目に入ってない?」


 見せて、と言う義兄に、油の火を止める。



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