第10話

 視線を逸らした僕に、裕文さんがベッドに肘を乗せて頬杖を付く。


 そうして、にっこりと笑った。


「ごめんね。――たぶんそれ、夢じゃないよ」


 目を見開いて固まった僕に、クスクスと笑う。




「じゃあ。お粥作ってくるから待ってて」


 立ち上がった裕文さんの口から、こほっ、と小さく咳が出た。


 目を剥いて見上げた僕に、口を押さえる。


「大丈夫大丈夫。俺って頑丈だから」


 それに風邪ひいたら看病してもらえるし、と笑って、部屋から出て行った。


 1度閉まったドアが開いて、裕文さんが顔を覗かせる。


「風邪ひかなかったら、ご褒美に呼んでくれるかなぁ。『裕文さん』って」


 悪戯っぽく笑って、出て行った。




「あぁ、僕……」


 どうしようー……と頭を抱える。




 姉さんごめんなさい――。




 心の中で謝る僕に、「ばかね」と笑う声が聞こえた気がした。





 都合が、いいだろうか。


 姉さんが、許してくれてると思うのは――。





 けれど。如月先輩の声と重なって、耳には優しい声が、聞こえていたんだ。





 ――ねぇ、姉さん。我儘で、勝手な、甘えた弟だけど。




 信じても、いいかな?


 これは、姉さんの声だって……。







   ――浩次。幸せになれ……。





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