第8話


「ごめんなさい。……何を、言ってるんですかね、僕。訳、わかんないですよね……。――もう、やだな。先輩が、あんなこと言うから。僕にキスなんて、するから……」




 ――違う。先輩のせいじゃない。


 先輩のせいなんかじゃない。




 だけど。今まで懸命に留めていた想いが、溢れてしまって――。






「……キス、されたの?」




 低く、吐き出された裕文さんの声に、ハッとする。


 あ、違う――と言いかけた僕の腕を強く引いて、顔から手を剥がした。




 見つめ合った裕文さんの目が、怒っている。




「あの……」


 続こうとした僕の言葉を遮るように、裕文さんの唇が僕の口を塞いだ。




「風邪……うつっちゃ……」




 押しやって、離したのに。


 引いた僕を、唇が追いかけてきた。




 角度を変えて、強さを変えて、何度も口付けられる。





「ダメだよ。――もう、逃がしてあげない」




 僕を、胸に抱いて。


 頭上からは、裕文さんの声が降り注ぐ。




「ごめんね。俺、嫉妬深かったみたいだ……」






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