第14話 変化と食事

「京也!」

 一樹が呼んでも京也の足は階段を上がることを止めない。

 走って階段を上がり、京也の肩を掴む。

「おい京也、お前なんなんだよ!」

 京也の肩をぐっと引くと、京也の顔はグチャグチャに歪んでいた。

 怯んだ一樹は目を背ける。

「らしくないじゃんか、京也がそんな顔するなんて」

「――ねぇよ」

 聞き取れなかった一樹は、一息で聞き返す。瞬間、京也の肩に乗せていた右腕が飛んでいった。

「お前らにはわからねぇよ!」

 京也の顔はひどく歪み、目には涙を浮かべているのに、どこか怒りに満ちていた。

「西川はお前らなんかよりも何倍も傷ついてるんだよ!お前らなんかよりも!」

 一年半とちょっとだけの仲の一樹は、京也のその声、顔を見るのは初めてだった。

 行ってしまった京也を追いかけるはずの足は、全く動いてくれなかった。


 *


 夕食の時間、食堂には、一樹、水沼、葉山、九城、遠野の五名しか集まらなかった。

 重たいスプーンを無理やり口に近づけ、腕を落とす。

 それを見てため息をついた遠野が椅子から立ち上がり、部屋へと戻って行く。彼の皿は綺麗に片付いていた。

 それを見た水沼は、持っていたスプーンを置き、遠野の元へと急ぐ。


「私もそろそろ行こうかな」

 葉山はコップ一杯の水を飲み干し、席を立つ。

「でも、先輩まだ一口も」九城が葉山の方を見る。

「私、食欲ないから」葉山は目に見えた愛想笑いをした。

 すると九城も持っていたスプーンを置き、そうですね。と立ち上がった。

「私もさすがに人を殺した後にご飯は食べれませんよ」

 九城は遠野の空になった皿を見て悲しそうな顔をした。

「それじゃあ私たちはもう帰るね」

 葉山は一樹の方へ手を振る。

「お先失礼します」九城はこちらにぺこりとお辞儀をして、先に行ってしまった葉山の元へペタペタと駆けていった。

 扉がそっと閉まる。先程まで人の気配で騒がしかった食堂が、黙り込んだ。

 静寂が耳を刺す。ため息が広い空間に溶けていった。

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