第10話 指揮者と熱

 まず最初に、問題がおきた。誰が指揮を執るのか決まらなかった。

「七ノ瀬君がいいんじゃないかな、学年トップで頭もいいし」

 蓬が提案すると、頭を下げていた七ノ瀬の肩がびくりとはねた。

「い、嫌です。指揮なんか執っていたら真っ先に人狼に狙われるじゃないですか。僕はまだ死にたくないです。僕はまだ――」

 七ノ瀬が頭を抱えうずくまる。その肩は小刻みに震えていた。


 *


 再び沈黙が訪れようとした時、遠野があきれ顔で手を挙げた。

「こんなんじゃあ話が進まねぇ。俺が指揮する。全員従え」

 遠野の言葉に異議が唱えられた。山崎は村人を殺す宣言した人にはやらせないとのこと。その言葉に一同は流されそうになるが、遠野が、とんだ馬鹿が集まったなと、洩らした。

「まず、俺が昨夜言ったのは、村人でも村人を殺すことが出来るってことだ。殺す宣言はしていない。それと、俺がやらなかった場合、誰が進行するんだ?」

 遠野の意見に一同は下を向く。現状から目をそらすように。三度沈黙が訪れる中、遠野のため息が聞こえる。

「それじゃあ聞くが、カミングアウトするやつはいるか?」

 一同が周囲の顔をうかがうように見渡す。そのことが、誰もいないことを物語る。そんな中静かに一つの手が挙がる。全員の視線が西川の元へと向き、西川は怯えて手を下げる。

 「あの、それじゃあまるで役職持ちを見つけて殺そうとしてるみたいです」

 遠野の目の色が殺意の色へと変わる。山崎はハッと何かを思いついた。

「言われてみればそうじゃない、やっぱり遠野は人狼なのよ」

「あ、いや、あの、別に遠野さんが人狼だとかそういうのではなくて」 

 西川は手をばたつかせ弁解を図るが、山崎の勢いは衰えず、遠野の目つきはさらに鋭くなる。机を叩き立ち上がる。

「それじゃあ聞くが、どうやって情報がない状態で人狼だけを殺すんだ? 十分の一をピンポイントで当てるのか? 外したら次の日には村人さんが二人もお亡くなりだぞ。それなら占いが自白して白確定をだして回していった方がいいんじゃないか? 今日から決断の日だって執事も言ってたじゃねえか」

 その言葉はとても重たく、決断しなくてはならない現実を突きつける。全員の首が沈んでいく。あの水沼でさえも、おとなしい。

「お前らはぬるいんだよ。誰も殺さないで終わらせようとしている。無理に決まっているだろうそんなもの。村人側が生き残ろうとするなら人狼を殺さなくちゃいけない。友達だからって人狼を野放しにしてたら他のやつまで食われるんだぞ?俺はお前らが何人死のうがどうでも――」

「もういいんじゃねぇか、透。みんな静かだぞ? 若菜ちゃんも泣きそうになってるし」

 水沼が、遠野を止めてくれた。水沼は、いつもの様には笑っていなかった。

「わ、悪い、陸」

 椅子に座った遠野は落ち着いていた。殺意が無くなった、と言っていいのだろうか。西川は、蓬に抱かれ泣いていた。自分のせいでこうなった、と嘆いていた。蓬は、そんなことないと頭を撫でている。

「それに、こんなこと作り話に決まってるさ。そんなに思い込まなくても大丈夫だろ」

 水沼が周りを励ますが、聞こえていないのか誰も頭を上げなかった。

 扉が開かれる。

「ご夕食をお持ちしました」

 執事がメニューを言いながら夕食をテーブルに置いていく。相変わらず美しい。だが、そんなことはどうでもよかった。この、疑い合い、怒鳴り合い、涙をながすものまで出てくる、ギスギスした空間にいることが苦痛だった。

 肉と調味料をグチャグチャに混ぜて作られたハンバーグは、いつもより美味しくなかった。

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