12 桃色の稲妻

 5歳児よりも年上の僕達が追いつくのは簡単だった。

 目の前を走る生意気なアトムは振り向くことなく駆けていくもんだから、手をひかれる小さなウランは付いて行けず、足元がおぼつかない。

 見ていてる方までハラハラする。

 案の定、思ってた通りのことが起きた。


 身体が一回りの大きい兄に付いて行けず、ひな鳥のようなウランが石畳につまづいて転ぶ。

 ウランは泣きながら兄を呼び止めた。


「お兄ちゃーん! お兄ちゃーん!」


 手が離れた妹に気付いた兄のアトムは、ようやく後ろを振り向いた。


「ウラァン!」


「お兄ちゃん!?」


 ウランは地面と身体がくっついたように動かず、泣きながらアトムを呼び続ける。

 そんな幼いウランを大蛇が狙うように、赤い空から流星が尾を引き降って来た。


 流星は1つだけではなく、4つの群れをなして落下する。

 まともに当たれば助からない。


 その光景を離れた所で見ていた僕は、小さな子供達が災害に巻き込まれる様子に顔を覆いたくなったが、すぐ側で風を切る音が聞こえるとあっけにとられる。


「ア、アルミ?」


 横へ振り向くと、じゃじゃ馬アルミが持っているハンマーの鉄球を地面に叩きつけて、棒高跳びの要領で跳ね上がる。

 10メートルぐらいの距離を一足飛びで越えた。

 彼女がいなくなった後に残ったのは、舞い上がる砂ボコリだけだった。


 こんなのあり?

 彼女が飛んで行った先に目を戻すと、火を吹く隕石メテオは幼い兄妹の目と鼻の先。

 生意気なアトムは妹の側へ駆け寄ると、隕石からウランを守る為に覆いかぶさる。


 4つの隕石は3メートルまで迫った。

 瞬きをすれば着弾する距離。

 僕は目を閉じることも忘れてしまい、動向を見守る。


 そして――――砂ボコリを巻き上げながら足を滑らせ、チュチュのようなスカートをなびかせる、じゃじゃ馬アルミが割って入った。

 ピンクのTシャツを着ているせいか、まるで桃色の稲妻が駆け抜けたようにも見える。


 金のポニーテールを荒馬のように振りながら、彼女は右手に持つハンマーの鉄球を、足元に下ろした状態で振り出した。

 ハンマーは迫る4つの隕石を、軽々と打ち返す。

 リズミカルな金属音が大火の街へ響くと、隕石は赤黒い雲へ押し戻された。

 

 ほんの一時ひととき、危険を遠ざけると、じゃじゃ馬アルミは幼い兄妹へ振り向き、無事を確かめる。

 確認する間もなく、ひな鳥のウランがしがみつくのでアルミは抱き寄せた。


「アルミお姉ちゃん!」


「ウラン! 大丈夫? 痛くない?」


「ヒザすりむいたぁ」


「痛かったねぇ」


 年上の彼女は、生意気なアトムに目線を移して言い聞かせる。 


「アトム。ウランを連れて、ここから逃げなさい」


 威勢のいい昼間とは一転、生意気なアトムはすがるようにアルミに頼みこむ。


「ア、アルミも来てよ!」


「いい加減、困らせるのはやめて! 早く行きなさい」


 2人を送り出すと、じゃじゃ馬アルミは幼い兄妹が逃げる時間を稼ぐ為、赤黒い空を見上げてハンマーを構える。

 そして流星が降ってくると、いつもの腕前で打ち返す。


 とりあえずアルミの側まで来たけど、やっぱり後悔した。

 否応いやおうなく流星と向き合わないといけない。

 僕は両手で持ったハンマーを、肩に乗せて構えるけど、とてもアルミのように打ち返すのは無理だ。

 怖さで震える僕に、流星打ちの先輩は一言。


「少しは役にたってよね?」


 キツい。

 いろいろ逃げ場ない気がする。

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