第五章 イザナミノミコトが眠る地・花窟神社

第20話 飛行機と電車を乗り継いで

九鬼くきが伏見稲荷大社を訪れていた…って、何か変じゃねぇか?』

『あぁ。彼女は”神社巡りが完全に終えていない状態“で外川とがわに本を送ったんだろ?』

九月の中旬頃――――――――――職場の休憩室でお昼を食べながら、私はスマートフォンの画面を見返していた。

京都での神社巡りを終えた後、友人達みんなに対し伏見稲荷大社で起きた出来事をLINEのメッセージで共有した。私が読み返していたのは、その話を伝えた後に送られたはじめと健次郎からの反応だった。

『うん。健次郎の言う通りの状態だと、”私達が伏見稲荷大社を訪れる事は仕組み上ありえない“はずなんだけど、ちょっとした仮説はあるの』

健次郎からの問いかけに対し、私は今のようなメッセージを送っていた。

『私も…話を聞いている限りだと、そんな予感がしていたかも…』

私がある“仮説”をメッセージで送ると、裕美からのメッセージがいち早く返ってくる。

因みに今は、テンマはその場にいない。仕事へ行く事は神社巡りとは関係ないという理由が大きいが、私も彼と四六時中一緒にいるわけにはいかないため、今この場にはいないという状態だ。しかし、伏見稲荷大社あそこでの出来事を友人達みんなに伝えるのは、彼がいない時が絶好の機会チャンスでもある。

『ひとまず、次の神社へ行くための段取りをつけよう!私の仮説と直美が遺してくれた手紙の内容が正しければ、次の目的地で大きな変化があるはず!』

グループLINEのメッセージ覧には、私が送信したこのメッセージで締めくくられ、その内容は当然他3人による“既読”状態になっていた。

 それにしても、テンマには“伏見稲荷大社に棲む狐神に遭った”と伝えただけなのに…。それ以上の言及はされなかったな…

最後のメッセージを確認した後、私はその場で考え込む。

京都から東京へ帰還した後、テンマからももちろん、私が伏見稲荷大社あそこで行方をくらました後に何があったのかを訊かれた。“テンマと直美が映っているビジョンを見せてもらった件”は彼には話さない方が良いと感じていた私は、事実の一端を伝える。

もちろん、具体的な説明がない事でテンマも何か考え込んでいたが、それ以上は訊かれずに済んだというのが現状である。

あ!そろそろ歯磨きしないと…!

腕時計の時間を見た時、私はもう少しでお昼休みが終わる事を悟る。

そうしてスマートフォンを鞄にしまい込んだ私は、その場から立ち上がって動き出すのであった。



時は過ぎ、2018年11月上旬頃―――――――――

「まさか、大阪まで飛行機乗る事になるとは思いもしなかったなぁ…!」

「…だな。それこそ、夏の京都は新幹線だったしな」

羽田空港にて、私や健次郎が口々に話す。

京都での神社巡りを終えた後は全員が少し忙しかった事もあり、3か月近く日にちが空いてしまった。しかしその甲斐もあったのか、今回は健次郎も問題なく休みを取れたようである。

「花窟神社…か。三重県自体も初めて行くから、今度の旅は新鮮さたっぷりね!」

一方で、初めて行く地に対して裕美は少し楽しそうに話していた。

「何気に俺、国内で飛行機乗るのは初めてかもしれない…」

「そっか、以前に言っていたよね!」

すると、何気なく呟いたはじめ台詞ことばに対し、私が反応する。

 でも確かに、本人の性格やら交流関係からすると…何だか納得…

一方で、彼が口にしていた事を内心では納得している自分がいた。

「皆様、飛行機はあっという間に着くでしょうが、そこから更に乗り継いだりするので…サクサク参りましょうね!」

すると、先程まで別の場所にいたテンマが姿を現して口にする。

今はちょうど、搭乗手続きを終えて、発着場に向かう途中のトイレ休憩をしていたのだった。

「…随分急かしているような雰囲気しねぇか…?」

テンマが私達に背を向けると、健次郎が私に対して小声で囁く。

「うん、確かに…」

それに対して私も、小声で健次郎に答える。

 ひとまず、運賃がテンマ持ちのおかげで少し良い席で行ける訳だし…。まずは、向かうまでの時間も楽しまないとね♪

私は、内心では緊張感いっぱいだったが、「まだ本番はこれからだ」と強く意識して、テンマの後をついて歩き出す。

私の動向に気が付いた友人達みんなもまた、一緒になって歩き出す。


その後、普通席より少し高めの席で飛行機に乗った私達は、関西国際空港に到達。ただし、テンマが言っていた通りその後の乗り換えで落ち着く暇もなく、やっとちゃんとした会話ができるようになったのも、目的地へ向かうための特急列車「特急くろしお号」に乗った時だった。

「新宮駅まで4時間近く乗って、そこから更に…だから、前日入りにしておいてよかったね」

「うん、本当に…」

特急車両内にて、私や裕美は疲れた表情を浮かべながら話をしていた。

一方で、前に座っている男性陣は忙しかった割には楽しんでいるようにも見えた。

今回、目的地の花窟神社へ向かうに当たり、名古屋から行く経路と大阪から行く経路のどちらにするか皆で話し合っていた。家が関東地方にある私達にしてみれば名古屋方面から来た方が早いのかもしれないが、先程本人が言っていた通り、「国内線で飛行機を使った事がない」とはじめが口にしていたため、飛行機を使用した経路で向かう事になったのである。

 うーん…何はともあれ、無事にホテルチェックインできるまでは安心できないよなー…

私は、車窓から見える景色を眺めながら考え事をしていた。

今回の予定は京都へ行った時に比べれば緩い予定プランだが、ホテルまで行くこの道のりが思いのほか長い。そのため、この11月上旬の金曜日を出発日として選び、ホテルで一泊してから目的地へ向かう事となっている。

「ねぇ、テンマ。京都は天狗なり狐神なり色々いたけど…。今回向かう目的地がある三重県って、何か有名な妖怪とかいるの?」

「おや、東海林しょうじ様。何故、わたしにそれを尋ねるのですか?」

私と裕美は他愛ない世間話をしていたが、京都旅行時の話の流れより、裕美がテンマに尋ねる。

この時、裕美は隣にいる私を一瞥してから、再び話し出す。

「何となく…かな。以前、鞍馬山の僧正坊がテンマの事を“相性が悪い相手”とか話していたから、もしかしたら相性の良い・悪い妖怪くらいの種類や名前くらいは知っているのかな~なんて!」

裕美が最もらしい理由を話すが、私は“それ”が本当の理由ではないと知っていた。

一方、尋ねられたテンマは、その場で黙って考え込む。

「“現地へたどり着けば神社の情報ことを思い出す”…という理を告げたのを、美沙様は覚えておいでですか?」

「え…?うん、覚えているよ」

すると突然テンマが私に話しかけてきたため、私は少し声が上ずりながら答える。

「あの理と同じようなもの…と答えるのが、正しいかと存じます。実際に相まみえて初めて、相手が如何なる妖怪ものであるかを悟る程度の知識でございます」

「ふーん…」

テンマの返答に対して少し納得していないような口調で、裕美は話を聞いていた。

しかしこれ以上言及しても何も出てこないと感じたのか、それ以上深く掘り下げるような事はしなかったのである。


「妖怪というよりは、神様みたいな奴なら三重にいるらしいな!」

その後、新宮駅から更に各駅停車の車両へ乗り換えた際、健次郎の台詞ことばによって、先程の話が再開される。

「“神様みたいな妖怪やつ…”?」

その言い回しを聞いたはじめが、首を傾げる。

「神…という事は、岡部様。それは、一目連いちもくれんを指しているのですか?」

すると、先程まで黙っていたテンマが会話に入ってくる。

その反応を目にした健次郎は首を縦に頷いた後、再び話し出す。

「その一目連…は、所謂暴風を司る片目が潰れた龍神らしい。何でも、水害等の災いが起きるとたちまち現れて、民衆を救う…。だなんて、信じられているらしいぜ」

健次郎は、スマートフォンで調べた内容を元に、一目連の説明をする。

「そんなすごい神様が、三重県このけんではいるんだね…。流石に、遭遇する事はないだろうけど…」

「そうですね…嵐なり津波なり起きない限りは、お目にかかる事はないでしょう」

裕美やテンマの台詞ことばを以って、この会話は終了となった。


「それにしても、風が強いのかな?車両がガタガタ揺れているような感覚がするね…」

その後電車に揺られているさ中、裕美が不意に呟く。

しかしそれは、彼女以外の私達も同じように感じていた。

 外は晴れ間も出ているから、これから雨が降る…って事はないだろうけど…

私はそんな事を考えながら、窓の方に視線をあげる。

「!!?」

すると、向いに座る健次郎やはじめの背後にある窓ガラスより、何か細長い物体なにかが通り過ぎるのを私は目撃する。

外川とがわ…!!?」

“何か”を目撃した私は、はじめの声が聞こえるまで、自分が彼らの目の前に立ち塞がって窓を見上げている事に気付きもしなかった。

「…な訳ないか」

私は目撃した存在が何かを考えようとしたが、「それはないだろう」と思い、すぐに自分が座っている席に戻る。

「ビックリした…。外川とがわ、また何か視えたのか…?」

いきなり前に立たれた事で驚いたのか、健次郎が少し頬を赤らめながら問いかける。

「…ううん、多分気のせいかな」

私は、目撃した存在が何かを考えながら答えたため、男性陣が頬を赤らめている状態が目に入っていなかった。

「…健次郎君。もしかして…何か変な想像をしていたんじゃないでしょうね?」

すると、隣に座る裕美から少しだけ殺気のようなものを私は感じ取る。

「い…いや、別に…変な事なんざ、想像してねぇよ!なぁ、小川!」

返答に困った健次郎は、助けを求めるかのようにはじめに声をかける。

「さぁ…な」

一方のはじめはまだ呆けていたらしく、健次郎からのヘルプ発言に全く気が付いていないようだった。

また、事態を呑み込めていない私に対し、この後にテンマが「私が窓の外に気を取られていた時、座っていた彼らの眼前には私の胸が見えていた。そのため、男性陣二人は頬を赤らめていた」と教えられたことで、自分が物凄く恥ずかしい体勢をとっていた事に気が付く。

 知らぬが仏だったかも…な…

その後、皆が眠くてウトウトしていた頃合いになって初めて、私の頬も真っ赤に染まっていたのである。


一方で私が一瞬垣間見ていた“それ”は、先程健次郎が話していた妖怪――――――――――というよりは“神”に該当する一目連だった。暴風の神は私の存在に気が付いて一瞥はしたが、特に何も話しかける事なく、私達が乗る車両を横切って何処へと飛んでいくのであった。

そして飛行機を含めると6時間以上の時間をかけて神社近くのホテルに到着した私達は、ホテル周辺で夕飯を済ませた後に就寝する事となる。翌日は、今までとは比べものにならないくらい“力”が満ちた場所・花窟神社へ訪れる事となるのであった。

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