番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#7

 その時、私を引き上げるために差し出した左腕が、異様に大きく分厚いことに気づいた。魔法の模様が走る、ゴーレムの腕。兵器の腕。


 私が怯えていることに気づいたその人は、ひょいと私の腰を、それこそ人形遊びのようにあっけなく掴むと馬の背に乗せてしまった。



「どうです? 便利でしょうこの腕。近所の骨董市で見つけた掘り出し物ですのよ?」



 そんなものが売っているはずがない。彼女の顔を見やると、冗談ですわよ、とおどけた。


「ふふ……」


 私が小さく笑うと、その人も笑い返す。


「ああ、聞いてくださいセリョーガ。私のジョークをわかってくれる人も世の中にはいるんですのよ!」


 空に向かって彼女は叫んだ。セリョーガ……。きっと親しい人だったんだろう。



 馬が歩きだし、私は背中に抱きつく。


 かっぽかっぽと、奇妙な、だけどここ数日で一番楽しげな足音が、私達を包んだ。


 そこから眺めた景色といったら。そりゃもう、すごいものだった。馬の背から眺める草原は実に広々としていて、私はこの地を憎んでいたことなど、いっとき忘れてしまうほどだった。


「ふふ、ふふふふ。あははは……」


 緊張がとけて笑顔になってしまう。


 だけれど、このとき彼女が何を考えているのかなんて知らなかった。いま思えば、この人は最初からやるつもりだったのだ。

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