戦闘を終えて

 ざぶざぶと腐った水の中を進んでいく途中、土手の上でいくつもの陣地がめちゃくちゃになっていたり、灰色の軍服を着た犬の顔をした奴らの死体を目にした。それらに混じってカーキ色の軍服を着た種族も死んでいたが、それを見つけるたびに、誰かが駆け寄って認識票と思われる板状のキーホルダーと、腕時計やネックレスやら、高そうなものを自分のポーチにしまっていく。



「火事場泥棒かよ」

『失礼だなぁ。あれは遺品を送り届けるために回収してるんだよ』



 誰に向けたものでもない僕のつぶやきを、隣を歩いていたイオがたしなめた。それに対して謝ってから、僕は暇な時間ができたのでイオと少しばかりおしゃべりすることにした。ローラインは先頭に立ってドゥブルーとみんなの指揮をしているし、他の人達とは面識もなく話しかけづらかったのだ。



「君の声はどうして他の人には聞こえないの?」

『私達インプは電波で会話するからね。君みたいに特殊じゃないと話せないんだよねー。ま、そのおかげで敬語も使わなくて済むけど』

「特殊って?」

『あー、ごめん。特殊って言い方はまずかったね、種族たがえど我らは同胞。誓っても実践するのは一朝一夕じゃいかなくって』



 わかったようなわからないようなことをいう彼女に、僕は愛想笑いを浮かべた。聞き直さなくても、話の流れでわかるようになるだろう。


『そもそも私は通信担当で、本来前線で働くわけじゃないはずだったのよ。でもローラインが引き抜きやがったから……』

「そっか、電波で会話するんだったらずっと遠くまで喋れるか。受信機があれば」

『そそ。まあ一種の伝令よ。人間無線機みたいなもん』


 人間、と彼女が自分を指して言うのを聞いても、不思議と違和感を感じなかった。これが彼女の言う「種族たがえど我らは同胞」ってやつか。


 格納庫で初めて彼ら異種族と出会った時、僕は単なる化け物のようにしか思えなかった。でもいまは、ほんのちょっとのあいだ一緒に戦っただけで、それが消えてしまっていた。

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