格納庫

 また便意で体を起こした……はずだった。だが便意は感じなかった。そんなもの、どうでもよくなってしまったのだ。眼前に広がる光景に目をぱちくりさせるしかない。大作ファンタジー映画の舞台裏のような光景が広がっていたのだ。



 大きな角をぶつけあって大笑いするミノタウロス。



 筋骨隆々とした巨躯に、喋るたびに牙を覗かせるオーク。



 そんな彼らの間を飛び回る光の玉。ウィル・オ・ウィスプだろうか。



 オークよりも巨大で、残忍な牙に目つきのオーガ。オークがヤンキーだとすれば、彼はヤクザだ。



 彼らより、いや人間よりチビだがその濃さで見劣りしていないのはゴブリン達だ。彼らはオークやオーガより少しばかり落ち着きを知っているようで、体中に入れた黒い入れ墨は威圧感がある。



 そんな中で僕を安心させたのは、エルフがいたことだ。耳が長いくらいしか見た目には化け物じみていないから。それに綺麗だった。男も女も。



 そんな奴らがわいわいがやがやしつつ、ここに集まって綺麗に並んでいる。そろいもそろって、サイズはばらばらだけど、カーキ色の軍服を着て、ごちゃごちゃとなにかの袋をつけている。それを見て、僕は妙な懐かしさを感じた。



 周りはどうやら巨大な倉庫のようだった。飛行機くらい入りそうな、と考えてわかった。ここは格納庫か?



 全体的に薄暗いけれども、そこかしこの隙間から入り込んでくる光と熱気で、外が夏なんだとわかった。



 僕は彼らの最後尾で、じっと座っていた。もう何がなんだかわからず、諦めの境地に入ったのだ。どたばた声をあげようにも、頭の処理が追いつかない。

「いよいよだな。気持ちがはやらないかい? 給料日みたいにさ」



 そう言って話しかけてきたのは、青い目と水色の髪が目立つ美女だった。雑多な異種族と同じように、彼女もカーキ色の軍服に身を包み、ヘルメットを被り、体中につけられるだけ何かの袋を吊るしていた。そして驚くことに銃を持っていた。ライフルだ。もしやと思って前の化け物たちを見ると、彼らも銃を持っていた。

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