第5話 相性と放たれる偶然

「痛ってて…随分飛ばされた‥。」

紙飛行機は、身体が地べたへ打ち付けられると勝手に消滅きえた。元々そういう設定だったんだろ、距離でも適当に定めて到達したら終わり、みてぇな具合でよ。


「位置が違くても変わり映えはしねぇなぁ。殆ど同じ景色だぜ」

前に来たショッピングモールのフィールドと似てるな、ここ。


「あん時も、奴と一緒だったな‥」


「ニン!」 「うおっ!」

いきなり刃物が飛んできた

これは…手裏剣か?


「避けられたでござるか、不覚にござる。」


「なんだ?」

床にえらく食い込んでやがる、こんなもん人めがけて投げたのか?


「何モンだ、てめぇ‥!」


『表示します』


「お前に聞いてねぇよ」


『こちらです』


「だから聞いてねぇっての」


ハットリ・サスケ 通称シノビ

イガコーガ出身 性別 男

武器 暗器、忍術

参加理由 間違いを正す為


「間違いを正す…。」

また面倒なのが出てきたな。


「御主、見かけから察するにヒーローとお見受けする。敵とみなして良いのだな?」


「他に何にみえんだよ‥。

それに〝御主〟って呼ぶのやめろ。」


「何故…?」


「せっかく離れたのに、腹が立つからだよ。」


「そうか、御主は腹が立っているのか。」


「…だから、呼ぶなって言ってんだろ‥!!」



街・東側


「ふぅ、良い香りだ。

やはり陽の光は素晴らしいな、ハーブティーが格別に美味い。」


『シャドウ様、お寛ぎの処申し訳ありません。ご報告を申し上げます。着地した地点でパワー・スター様が敵と遭遇した模様です。』


「そうか、早かったな。

有難う、報告してくれて」


『頼まれた事をした迄です』


「…どうやら単独行動をとらせる事には成功したようだ。手荒な真似も余りできないからな、貴重な顧客の一人なのでね。」

客人がいなければ仕掛けを披露する意味が無い。


ドシ‥ピシピシ…!


「ん?」


【ダレだ…!】


「おやおや。」


「オレをオコラせるのハ…ダレだ!」


「どうやらこちらにも客人が来たようだ。」

地面が拍手をしているね。


「おマエか!

オレをオコラせているノハ!!」


「どうだろうか、確かめてみては?」

イッツアショウターイム♪


西側・付近


「せい!」 「くそっ、またか!」

でっけぇ刃物だ、いつの時代の刀だよ手裏剣ってのは!


「逃げて避けてと防戦一方か?」


「勝手に決めんじゃ‥ねぇ!」


「投げ返してくるか、これは避けられない。」

自分の武器で傷付きな。


「だが甘い」ドロンッ!


「なっ、木?」

どこ行きやがった!?


「上だ。」 「瞬間移動ってお前!」


「これぞ避けられないというものだ。

空蝉打空!」


「がっ…!」只の蹴りじゃねぇか。


「ぐあぁ!!」


「ふぅ、地べたは冷たいでござるか?」


「やかましいっての、地味忍者が。」


「そういう御主は派手にやられているでござるが‥。」


「うるせぇよ、木偶になってまで蹴りたかったのか俺の事をよ。」


「木偶?

違うでござる、変わり身の術だ。それも知らんのか。」


「何だっていいわそんなもんよ!!」

腹の立つ野郎だ

姑息な奴ってのは皆んなこうなのか?


「何をそれほど怒っている?」


「‥気にすんな、一方的なモンだ。

…だからこれからの俺の振る舞いは、てめぇへの八つ当たりだぁ!」


「仕方ない、相手をするでござるよ。

手裏剣の大きさを昇げるのは、暗器としての在り方に反するのだが‥」

背に剣を背負い、牙を穿つ。忍也…。


「やむを得ん。」ドロンッ!


「うらあぁあ!!」 「せいあぁ!」


東側


『ピピ‥申し訳御座いません、取得不可能です。』


「やはり駄目か〜。

距離が遠すぎるのだろうか、そもそも動画での録画機能が備わっていなのか?」


『既存のデータを読み込み表示する事は可能ですが、現状を取り込み再生する機能は備わっていません。』


「そうかぁ、使えるようで不便な点だ。〝現状は再生できない〟‥ならこれも、ムービーには撮れないか。」


『そうですね』


「ぐわあぁあ!!」 「七発目。」

伸縮性のワイヤーで空間を覆って作った簡易牢獄に、小型のボール型爆弾のデザートを投げ与える。かなりの威力だから四、五発で動けなくなる筈なのだが。


「硬く頑強なプレイヤーだ。まだ立ち上がる、それどころか軽く動いた程度の疲労しかしていない。」

この客人も又、仕掛けを度外視するタイプのようだ。


「おマエ、何をスル!?

ヤメろ!!」


「……八発目。」 「ぐわあぁあ!」

辞めろと言われてもな、受けてる側は身になるものがあるだろうがこちらとしては小さなボールを唯投げているだけに過ぎないのだよ。遊び心を加えれば飽きが生じにくいと思い爆発する破裂音を無音にし爆音を抑えてみたが退屈が勝る。


「それに‥」


「ぐうぅう…もウ我慢の限界ダ、お前をブン殴ってヤルゥ!!」


「有り余る力ゆえ牢獄が持たない。

小物を投げても倒れない、仕掛けた罠を壊される。…認めたくはないが相性が悪い、それも最悪にだ。」


「九発目で膝を落としてくれるだろうか?」


「聞こえタゾ、またソレを打つ気ダナ!」


「僕だって気は進まないのだよ。」

ガッカリするよなぁ、打つ意味のない客に仕掛けを無駄に使うのは。


「仕方ない、いくよ!

そーっれ‥」


『シャドウ様』


「ちよっと、いきなり何なのだ。

止めないでくれ、恥じらいが止まらないよ」


『申し訳御座いません。ですが、やって参ります。』


「やって来る?

一体何が」


『何と申しましょう。‥そうですね、適切な表現であれば、パートナー...でしょうか?』


「ほう、それは迷惑な事だ。」


「何ダ?

お前、何をゴチャゴチャ言ってんダァ!」


「せぇい!!」


「随分と派手だな。」

ビルを突き破って、しかしあれは‥忍者?


『あそこです、輪状の刃物の先端。

瓦礫に紛れた黒い影』


「痛ってぇ‥。」 「無様な格好だ」

マントの色で大体わかる。


「これだけ空中で引き摺っても足掻き続けるでござるか?」


「引き摺ってたのか..?

撫でてるのかと思ったぜ。」


「‥やむを得ん。

再び撃ち落とす他無いようでござる!」

また蹴りか!?


「参る」

身体を捻って縦の直列に!

俺を上から覆うように乗り上げやがる


「いくぞ、空蝉打空!」

やっぱり蹴りかよ!


「‥ふむ、アレは、何だろうか?」


『空中で足蹴にされつつ、下へ落ち続けています。』


「…みたいだ」


防ぎようがねぇ。

空の気圧と衝撃で身体が動かねぇし、力が上に向かねぇ‥。


「このまま踏み落とし、御主を大地に当てがってやるでござるよ」


「‥くっ…。」

どこがシノビなんだよ、お前ぇ。


「主、万事休すと言ったところか?

‥しかし残念だ、そこには床が無い」


「終わりだ、パワー・スター!」

‥はぁ、つまんねぇ幕引きだぜ。


「ふわっ…モニュッ‥。」

なんっ‥だ?衝撃が和らいで…。


「勢いが、止まった?」


「身体が浮いてやがる…。」

なんだか、薄い膜みてぇなものの感触を尻に感じる。


「野生児くん、少し遅れた。

これで九発目だ」


「‥アぁ?」 「あの野郎」


「あ、〝外の人〟は気をつけ給え。

音も前触れも聞こえないのでな」


「なっ‥」

気付いた頃には遅かった。静かな爆風は粗末な壁を介して直に身体に伝わり俺を吹き飛ばした。悲劇の音は下手に遮断され、代わりに己の無様な叫びが乱雑に響いた。最も皮肉であったのは、爆撃を受けても尚、怯むこと無く、折れる事無く、屈強な身体を醜く晒し、地に足を付け立っていた事だ。


「これ程までに自分の頑強さを恥じた事は無ぇ。」

醜態を隠す為か火照る身体を冷やす為か気がつけば俺は、平然とその環境下を作り出した張本人である奇術師と名乗るペテン師の胸倉を掴んで眼光で脅しをかけていた。


「やぁ主、早かったな。もう再開か?」


「つくづく…ムカつく野郎だ。‥だが今は、お前より腹の立つ奴がいる。」


「奇遇だな、僕もだ」


「はぁ‥はぁ…言いたか無ぇが、調子が悪りぃ‥。よりにもよって…」


「おっと、その先は言わなくてもいい。恐らく僕と、同じ不具合だろう」


「わかってんじゃねぇか‥!」

肩で息をしている、彼がいくら傷つこうが知った事では無いがこれで改めてわかった。爆弾の威力は凄まじいものだ、鈍い者に使用し続けて半信半疑となっていたが。


「主に気を遣うつもりは無いが、アレを相手とれるのか?」


「馬鹿にしてんのかお前?」

そういうとは思ってたが、正に想像通りだな


「ならば、交代だ主よ。

この席は預けるとしよう」


「偉そうに指示すんなペテン師が!」


「牢獄は解いておこう、存分にやるといい。」


「さっさと行け!」

肩の荷が降りた。いや、これが本来の在り方か


「イテて‥爆発ガ、目にシミテ…。」


「おいゴリラ!」 「ンアぁ?」


「オ前、あのトキの、迷惑ヤローかァ?」


ドロンッ!ニン!

「拙者を倒したつもりでござるか!」


「悪いが、君はこっちだ」

紙飛行機で飛んでくれるだろうか?


「な、何をするでござるか!

くせ者、覚悟する也!!」


『パワー・スター様

お身体はご無事でしょうか?』


「お前まで馬鹿にする気かよ?

大丈夫だっての。‥それより記録し直しとけ、しっかり相手のとこ書き換えてな。」


『了解しました』 『表示致します』


フィールド・街 昼

チーム戦タッグチーム

死神・ゲイティペア

東 パワースターVSナックルフィスト

西 ファントム・シャドウVSハットリ


「試合‥開始だ…!」


「よっと、この辺りでいいだろうか」


「離せ曲者!」「今離すよ、今。」

拙者の服に紙の飛び道具を絡ませ身体をかいとのように操り飛行するとは、なんたる愚者!!


「と思ったけどこのまま落ちるとしよう、そっちの方が都合が良い。」


「落ちる‥!!

何を気狂いしている!?

正気か御主!」


「そうだなぁ。

そのつもりだが‥間違っているのか?」


「此奴‥!」「そぅれ。」

軌道が変わった!

下へ急激に下降している。このままでは確実に大打撃!!


「くっ‥」

敵を助けるようで気は進まぬがやむを得ん!

こがらしの術〟

これで急な下降は収るだろう。


「柔らかい、これは‥竜巻かな?

身体を覆いエスコートか、素晴らしい。」

敵を悦ばせる言われはないのだが、ゆるりと着地を施すにはこの手しかあるまい。酷な選択でござる。


「ふぅ、感謝するシノビ殿。

御礼に次は僕のショーを…」


「覚悟!」 「おぉっと。」

距離を取られたか‥。


「いきなり物騒な歓迎だね、忍者の中では普通なのだろうか?」


「御主を助けた覚えは無い。

今のは矜恃、ここからは‥戦也!」


「忍者は戦うのが仕事なのか?

‥僕は仕事より娯楽が好きなのだが」


「怠け者め、咎めはせぬが。」


「そうか、意外に親切みたいだな。

安心したまえ、君が嫌な奴でも僕は区別しない。僕が客だと定めた者は、嫌と言えどもショーには強制参加だ。」


「いざ、参る!」 「開演といこう」


『道路深く破損、拳による打撃』


「くっそ、狙って振いやがれゴリラ」


「うウォー!」 「聞く耳無しかよ」

拳がデカすぎて的を絞ってくれねぇな。下手に避けると床まで抉れて足場が壊されちまう。


「だからって受けると‥」


「フン!」


「溜まったもんじゃねぇしよ。」


「それデ防いダつもりカ?」


「つもりじゃねぇ、防いだんだよ」


「お前はバカだナ。

拳というノハ‥二つ有ルんダ!!」

二発目をここで入れてくるか、マズイな動けねぇ。だが…


「お前もバカだな、拳なんて一振りありゃあ充分なんだよ!」


「グウォッ‥!」

態勢ガ!

こイツ、俺の腕を捻っテ!!


「ぶっ倒れろ、猛獣。」


「イヤダ、お前ガ壊れロ!」「うお」

この野郎‥身体を投げ出して、俺を下敷きにするつもりかよ。


「させるかあぁあ!!」


「勇まシイナ、ドコまで耐えラレル?」


「ぐうおぉお…!!」

力量で支えられる物には限度がある。

体重計に目盛があるように、カバンに容量があるように、人にもそしてヒーローにも力量の限界がある。それは根性や活力でどうにかなるもんでも無い。己の使える程の大きさを越えればたちまち弾け壊れる。物理的な力なら、尚更な。


「おおおぉおぉおぉん……。」


西

「おや?

あちらから大きな物音が響いているなぁ。」


「余所見をするな!」「おっと‥!」

空の上でちょこまかと、どの様に浮いているかは知らんが人を小馬鹿にしてくれる。


「そんなに音が気になるか?」


「気になるという程でもないが、耳に入れば振り向くのが道理だが。」


「ならば聞かせてやろう

存分に振り向くがいいぞ」


「んぅ?」

ハットリ・サスケ‥武器は暗器と記されていたが、やはり豊富に有る様だ。


「手裏剣、では無さそうだ」


「せいっ!」「用途は同じか。」

前方に二本、後方に二本、僕と自らを囲う様に四方に一本ずつ。


「鉄製の棒状の形…あれは音叉か?

楽器まで持ち歩いているとはねぇ。」


「予想外か?

だが安心しろ、音を与えるのは手裏剣でござるよ。」

成る程ね、音叉で四角く囲った空間内で手裏剣を投げ当てる事で奏でられる音でさらに空間を覆う訳だ。


「せぇいっ!」「うおっ、結構響く」

そしてその覆われた空間で更に出来る事がある。相手が忍者なら‥そうだな


「身を潜めて奇襲、って処だろうか」


「忍法、音歪み」‥ドロンッ!


「ほう、どこに消えたのだろう?」

姿の見えないところを見ると恐らくは音の伝わる速さと同じ速度で僕の周囲を駆け回っていると言う事か。ヒーローといえどもそんな事が可能なのか?


「‥自らの速度を急激に増加させる忍術なのだろうな。」

いつまで経っても音が止まないのも移動しながら休みなく手裏剣を投げ当てているからだろう。


「どうした?

身動きを取ることもままならんか!」


「なのに声は聞こえるという妙…不気味なものだ。」


「拙者の脚は人智を超えた正に音速!

捕らえられると思わぬ方がいいぞ!」


「本当によく喋る、暇なのだろうか。‥まぁ良い、音程の速さなら容易い」


「戯言か?

それとも妄言か?」


「うーん、どうだろうか。

まぁこれを見たまえよ」


「これ‥奴め、何を手に握っている」

黒い、杖か?

あんなもので拙者を捕らえると申すか


「ステッキだと思ったか?

実はこれも仕込みの道具なのだが、中に音を超える代物が入っている。」


「音を超える代物…?

なんだそれは、どういう意味だ。」


「〝音より速いもの〟という意味だ。

物理的に行使する故直接の基準では無いが、見るがいい。目さえあれば理解できる。」


目さえあれば…。

「ガチッ‥」

柄を回して外した?


「そうら。」 「うっ!」


強い光!!杖からか!?

くそっ、目が見えん…。


「‥さて。

音も止んだことだし始めるとするか」

始める?何をだ!

光が晴れない限り動きようがまるで無い。


「暫く待てば‥薄れる筈だ…!」


光はそういうものだと解釈があった。

案の定暫く経つと、光は薄れた。しかし何か違和感があった。初めは瞳の変化だと思った。光が薄れたのではなく目が光に慣れて、見えるようになったのだと。だが違かった。

見えていた光は確かに薄れ消えかけていた。しかしそれ以上に、それを覆う大きなモノが視界を騙していた。


「空が、黒い‥。

それも西側こちらだけ…」

曲者の姿も見えん。

この闇に紛れているのか?


「シノビの前で身をくらますとは、身の程を知らぬようでござるな。」

闇は全て、光で晴れる!


「返す様で悪いでござる」


明光みょうこうの術〟

「ニンッ!」

これだけ眩しい光だ、闇の暗さなど無いも同然。さぁ、姿を現せ!


「……」

何も現れんな。何処に消えた?

もしやすると何処かへ本当にいなくなって…


「何か捜し物か?」


「‥!?…御主!」背後からかっ‥!


「理解の上で、白々しく闇討ちか!」


「闇討ち?

違う、前にも云ったが演出なのだよ」


「物は言い様でござるな!」


「…解釈は任せるがシノビ君、君はたしか〝影分身〟とやらを使うだろう?」


「それがどうした?」


「それと変わらないと言っている、同じような理屈のものなのだよ。」


「一緒にするな!」

忍術を侮辱しおって、ならば直接的な力で攻めてやろうぞ


「白刃、白虎!」「あ、それ刀なの」


「他に何がある?」


「背中に刺さってる筒は何だろうと常に思っていたのだが‥」

どこまでも白々しい輩だ、斬って捨てる!


「でも悪いなぁ、僕も一振り携えているのだよ。形状は随分と異なるモノなのだがね!」


「何っ‥!」

黒い鎌?

何処から出した、懐から現れた様にも見えたが。‥出処なぞ知った事か!


「闇よ、月光に照らされ晴れろ!」


「夜に呑まれて沈むがいいよ‥。」

忍と奇術師、センススキルを行使する事無く単純なパワーでぶつかる。力の度合いは測り知れない、なぜなら元々力量を誤魔化すように技術テクニックに投資し続けた者同士。力の測定など、した覚えの無い者同士だからだ。


「隙あり!」 「おっと‥」

捕らえた。


「残念、ハズレだ」

黒く溶けて‥幻影か!

正面から真っ向にとは不自然だとは思ったが。


「まぁ、当たりでもあるのだが」


「影の中から、また奴が!」

これが本体か?

どちらにせよ動かなければならぬ!


「先手必勝だ」「取れると思うか?」

やはり大鎌を振ってくるか。同然でござる、刀の打ち合いならば、相手が振れば反射的にでも腕が延びる。


「この勝負、先にエモノを弾いた者の先手となる。」

拙者は忍術だけで無く体術、剣術の鍛錬も欠かさずに行ってきた。

…残念だが物理的な力量は拙者が上、覚悟して貰うぞ。

横から来る刃を軽く弾く程度の力は有り余る!


「御免、乙也…!」


「……残念。」

闇は全てを呑み込む。正に見境無く、敵も味方も正義も悪も…それは息をしない道具や物も同じ事。


全てを惑わし、全てを欺く

「鎌が消えた‥また影か!」


「またでは無い〝ずっと〟影だったのだよ」


「両手で鎌を‥まさか…」

鎌の幻影が晴れると奴は未だ鎌を握り振りかぶる前の態勢であった。拙者が刀を交えていたのは、前からずっと影だったのか?


「御主が刃を振るうのは、これが初めてという事なのか‥。」


「そして君は既に、刀を振り切った後だ。これの意味、理解できるだろうか?」

残滓の力で振る刃、渾身の力で振る刃、言わずもがな力量は隔たり威力は変わる。


「無念だ。

悪足掻きと言われながらも拙者にできる事があるとすれば‥」

距離を取る事くらいでござる!


〝水流柱の術〟

「くあっ!」 「忍術か」

放射した水を鎌の刀身に打ち当てながら後退する訳だ。


「考えたねぇ」

よし、これだけ下がれば余裕が生まれる。少しは対策を施せる筈でござる。


「だけど御免ね、これも影だ」


「‥!?…」

元々の鎌の影を延ばして、薄く嵩を増して‥


「くっ!

急遽刀で…!」

駄目だ、高さが合わぬ。


「この距離だと、致命者は無理だろうなぁ。」

やむを得んか…!


「ま、終わりだろう」

無念‥。


エリア・東

「音ガ、消えタカ‥。」


『下敷きと化して数分先程まで地響きのような音が鳴っていましたが、只今止みました』


「オ、そうダナ!

お前も聞こエてタカ。」


『お前‥フィスト様、未だ私の名を覚えてはいないのでしょうか?』


「名前、そう言エバあったなナマエ。

えーっと確か‥プ、プ…」


『やはり覚えていませんね。いいですか、私の名前はプリ‥』


「ぶはあっ!」 「オ、何だァ?」


『地上への突出を確認。脱出成功です』


「オマエ、何処から出てキタ!?」


「‥うるせぇな、お前が踏ん反りかえってケツを上げねぇから、地中潜って穴開けたんだバカ!」


「なニィ〜?」


『……もう、いいです。』

くそったれモグラか俺は。運良くやったら出来たが土掘ったのは初めてだぞ、二度と御免だこんなもん!


「かぁ〜アッタマ来た、おいゴリラ!

そんなに腕自慢なら見してみろ、俺がぶっ倒してやる。」


「お前が、オレを?

面白いやってミロ!」

何様のつもりだコイツ。


「調子に乗るな野生児がよ!!」


力と力、拳と拳。

 単純な物理的価値観のぶつかり合い。争い勝った者に残るのは恐らく、称号でも栄光でもなくただ勝利したという概念のみ。身体は傷付き、床は抉れ血を流し、形として止まるのは無様な暴力、それ以外は崩れて消える。


「はぁ‥はぁ…やりやがる」


『左肩負傷、右膝不備

本来の戦力半減しました。』


「勝手に決めんなっての!」

言ってもマズイな、笑ってはられねぇ。でかすぎるんだよバカゴリラ!


「ソんなモノか?

大した事ナイナ!」


「つけあがりやがる‥!」

当たってねぇ訳じゃねぇ。しっかり拳は当たってる、だが酷く浅ぇ!

単発の打撃が余りにも弱すぎる。

只の殴り合いは簡単なリーチに悩まされる。腕の長さや大きさ、それによって当たる範囲が極端に変わる。


「野郎の拳がデカすぎて、躱す事にエネルギーを使っちまう。」


『エネルギーのベクトルを上手く力の循環に出来ないという事ですね』


「‥まぁそんなとこだ。」

アイツの懐にさえ入り込めればな。


「何か言い手は……んっ?」


「ロード、お前今ベクトルがどうとか言ってたよな?」


『はい、それが何か』「それだよ」


「上手くエネルギーが操れねぇなら、力の方向性を変えりゃいい」


『理解が疎いのでしょうか。‥少し、分かりかねます。』


「いいから着いて来い!」『了解。』


「口だけダナ、みっトモなイゾ!

少し期待シタんだガナ、間違いダッタみたイダ。」


『如何致しましょうフィスト様?』


「そうダナ、帰ろウ。もうイイ」


『そうですか。

ですが一つ、お聞きしたい事が‥』


「ナンダ?」


『はい、それが先程バトルを繰り広げていたパワー・スターなのですが…一体、どこに行ったのでしょう?』


「‥!…ほントだ、イナイ‥。」

ドコに行った?

マさカあイツ…。


「自分カラ喧嘩を売ってオイテ、先に逃げたノカ!!」

人と野性の違い、それは理性の解放か制御、在り方の違いである。一概に人の方が優れているといわれがちだが本来は、解放された状態が正規ではないだろうか?

少なくとも野性は常にそうしている。


「何処だ!出て来イ!

口ダケ野郎‥っガ!!」


『フィスト様、執拗に床を殴るのはやめてください。下手に地形が変わるだけです。』


「黙レ!

あイツは逃げたンダ!腰抜けナンダ!」


『だからといって暴走する事は‥』


「黙レって言ってンダ!

オレはあイツに喧嘩を売らレテ…!」


「‥うるせぇな、言う事くらい聞けっての。…それに俺は逃げてねぇよ。」


「うゥ!?」

イツの間にオレの懐ニ‥!


「また会ったなゴリラ、二回もモグラやってやったんだ、感謝しろよ?」

こイツ‥地中をツタッテ…!


「覚悟しろよ?」

左腕で、左肩を抑エタ‥右手の拳に力を溜メテいるトコロを見るト‥。


「何かと思エバ、そんなコトか。

オレは爆弾でモ傷の付かん男ダゾ?」


「‥何言ってんだ、お前…。」


「ナにがダ?」

「勘違いすんなって言ってんだよ。‥俺の拳が、爆弾程度の威力な訳ねぇだろうが」


「おらぁっ!!」


「がハっ…!」

力の強い者、謂わば強者というものは文字通り大きな力を有する。それは人の目を惹きつける目立つもの、派手なもの、爆弾のように弾け乱れるもの、様々だが大概が分かりやすく簡素だ。しかし本当の強者は派手を好まない。目立たず、大きな魅せ方も無い。

誰よりもシンプルでありそして、誰よりも、大きな衝撃を与える。

故に真の強者は、誰よりも簡素である


「ぐウォ‥!」


「ふぅっ、しんどかったぜ。」


スターライト・クラッシュ!!

‥叫ぶの忘れちまってた。


「音が止んだな、終えたのだろうか」

遠くの情報は音で捉えるに限るな。


「かくいう西の争いも、じきに終わるだろう」


「はっ、はっ…!

己で勝手に、定めるな!」


「とは云っても、最早限界だろう?」


「くっ!」

不備は無かった筈だ、出せるものは出した。しかし奴は常にその上を行き、越えてみせた!


「なぜ勝てん‥。」


「つけ上がるつもりなど更々無いが、仕掛けの多さで歯向った事が間違いだ。‥勝てると思ったのだろうか?」


「……」

充分上からではないか。


「で、どうすのだろう?

棄権か、あとはまぁ‥そうだな。」

‥棄権は腰が抜けているが、死はより愚かだ。


「やむをえん…」


『ビー、ビー、ビー!』


「ふむ。」 「な、なんだ?」


『シャドウ様、刻が来ました』


「時間か、思ったより速いな。」


「ごめんねシノビ君!

答えを聞く必要は無いようだ。」


「何故でござるか!

聞くまでまでも無いと言う事か?」


「‥はぁ、やっぱり皆深く情報を読み込まないようだな。時間も無いから教えてやるが、今回はチーム戦だ。」


「‥わかっているが…?」


「わかってないな。

チーム戦という事は二人で複数を倒すという事。つまり二人で定めた標的が、自らのチームより傷付けば勝利が決まるのだよ。」

勝利が決まる…


「拙者の組合の戦力が落ち敗けに至ったという事か!」

組合って‥。


「その通りだが、態々口に出して確認する事なのだろうか?

‥そちらのウォッチが鳴らないところを見ると、通知は勝利者のみらしいな。」

それにしても、勝利が確定したという事は‥主が上手くやった様だ。僕は止めすら刺していない段階だ。


「もういい、拙者の敗けで御座ろう?

ならば帰してくれ。報告が来てない以上こちらからは戻れん。」


「‥いわれなくてもそうするよ?」


『転送』 「無念…。」


「おいゴリラ、行くぞ?」


「……」


「なんだよ、気ぃ失ってんのか?

‥仕方無ぇロード、コイツも頼む。」


『了解、転送!』

終わりを意味する「転送」の言葉、元の場所へ還り激闘を過去へと変える。

しかし終わらせる争いは一つだけ…。


『転送』 『完了しました。』


「よっ‥と。」 「ふぅっ。」


『「ん?」』


「主。」 「お前、なんで。」


「なんで俺の横に‥ていうか、なんで元の場所に戻らねぇ?」


「‥不具合でござるか?」

「いや、どうやらそういう訳でも無さそうだ」


『落ち着いて下さい』


「ロード、どうなってやがる?」

突然の異変。

声を出し、伝えたのは機械だった。


『不具合では御座いません。街でのバトルは終了し、パワー・スター様、並びにファントムシャドウ様も勝利致しました。』


「ならなんで帰さねぇ!」


「聞いてなかったのか、街でのバトルは終了したと‥一旦な。」


『はい、バトルは終了しました。

そしてこれからルールを変更し、〝第2戦目〟を開始いたします。』


「第、二戦目ってなんだよ‥?」


『これから新たな相手を迎え、皆様には二戦目に入っていただきます。』


「新たな相手ってお前、また増えるのかよ。」


『そして先程とは形式を変え、団体戦を行います。』

団体戦‥。


「何が違ぇんだよ?」


「人数だよ。チームは二人、団体は‥云わなくても分かるだろう?」

てことはここにいる連中で手を組めって事か。


「最悪だな」


「して、その新たな相手とは誰でござろう?」


『全部で5名、自然や現象の力を使うヒーロー達。通称〝ELEMENTERS

《エレメンターズ》〟』


「エレ、メンターズ…。」

ひぃふぅみぃ‥一人足りねぇな。


「厄介であろうな、其奴は」


「話の途中で悪いが、僕は棄権しよう。」


「なっ、何言ってんだお前ぇ!

唯でさえ一人足りねぇってのによ!」


「そう怒るな、仕方無いだろう主。

僕苦手なのだよ、人と共に行動するのが、吐き気がするのだ。」


「勝手なお前の都合じゃねぇか!」


「テンダネス、転送をしてくれ。

安心したまえよ、僕が抜ければ補う様に人が補充される、元々足りない部分も一緒にね。」


「信用していいのか?」


「‥選出はランダムだし、納得する基準も違うから、運といったところだろうか?」


「‥やっぱりお前、信用できねぇな」

「させたら終わりだよ、あるじ。」


『転送』

迷惑野郎は皮肉を吐いて消えてった。

俺は、気絶したゴリラと、負傷した忍者の面倒を押し付けられた。見た事も無ぇ敵を倒せとな。


『足りない2名が転送される模様、強い反応を感じます』


「そうかよ。」


フィールド・街 北側付近 ビル屋上


「フィー♪ 腕が鳴るー🎶」


「ウォンタ、口を慎め。

敵の程度は未だわからんだろ」


「何言ってんだよカタブツめ!

わかんないから面白いんだろ?」


「ウォンタ、確かにお前のいう事はわかる。

お前は硬すぎる。

もっと熱くモノを考えるべきだー!!」


「アンタと一緒にしないでよ…。」


「まったく、ベタな奴等だ。‥今時流行りませんよ、そんなキャラクター達は。」


「……」


「んじゃあ行きますか〜!?」

「お前が仕切るな。」


『二名間もなくだと存じます』


「別に待ってねぇよ。」


『転送完了』 『転送完了』


「お、来たでござるな?」

見た事無ぇな。


「‥‥。」

なんだアイツ、愛想無ぇな。

偉い小せぇ、ガキか?


「味方、でござるよな?」


『間違いありません。』

袖の長いあれは、反物か?

口元は布で巻かれて顔は半分しか見えねぇ。その上帽子にゴーグルって‥。


「大丈夫でござるか…?」

お前も流石にそう思ったか。

そしてもう一人は‥。


「ワン!」


「うえっ、あいつ…!」

あん時の犬じゃねぇかぁっ〜!!









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