7-3

「あ、じゃあ卒アルとか見たいです!」

「……あんまりイケてなかったから見せたくないなあ。それよりDVD借りてるんだ。見る?」

「え? 何借りたんですか?」

「去年の夏にヒットしたやつ。原作が小説の」

「あ、泣けるヤツだ。見たかったんですよ」


 それからたっぷり2時間映画を堪能し、しっかり泣いた梢は我に返った。

 これでは単にデートをしているだけではないか!


 脳裏に理恩の仏頂面が思い浮かび、姿勢を正し、涙を引っ込めた。


「あの、そろそろお兄さんに……」

「ああ、霊視してくれるんだっけ」

「はい。あの、集中したいんで少しの間だけでいいからお兄さんとふたりにしてもらえませんか?」

「俺がいたらダメなの?」


 周はそう言って梢の濡れた頬に指を添え、再び小動物の瞳で見つめた。堪らず視線を外した梢の顔は瞬時に赤く染まった。


「周先輩がいると……こう……雑念が入るというかなんというか!」


 梢は早口で捲し立てると、ソファから立ち上がり物理的に周との距離をとった。


「わかった……。じゃあ俺は隣の自分の部屋にいるよ。何かあったら呼んで」

「は、はい!」


 2階へ上がると廊下を進み、一番奥のドアを周は前回同様ノックした。


「兄ちゃん。起きてる?」

「…………」


 部屋の中から返事はなかったが、小さな物音がする。


「……開けるよ」


 周はひと言そう告げると、扉を開いた。


「こ、今度は何……」


 尊は前回と同じようにしてベッドに座り、何かに怯えるようにして布団にくるまっていた。


「この子が兄ちゃんと話したいって」


 梢は部屋の中を覗き見て、頭を下げた。


「こんにちは」

「君は……また来たのか」


 どうやら、尊は梢のことを覚えているようだった。

 それから、尊は伺うような視線で周を見た。


「大丈夫だよ、兄ちゃん。この子は俺の好きな子だから」

「……周の……?」


 好きな子、と言われ梢の胸がキュンと音を立てたが咳払いをしてなんとか気持ちを落ち着かせる。


「じゃあ少しだけ」

「わかった。隣にいるからね」


 そう言って周は尊の隣の部屋へと入っていった。それを見届けると、梢も周の部屋に入り、扉を静かに閉めた。


 部屋の中は依然として乱雑だが、ゴミの類はないし、風呂にもきちんと入ってるのだろう、不潔な感じはしなかった。


 梢はそろそろとベッドの横へ足を進めると、こちらを伺うようにして見ている尊へ、もう一度頭を下げた。


「改めまして。1年、小比類巻梢です」

「…………」


 尊の痩せた瞳が揺らめく。


「あ、周は……」

「周先輩は部屋で待ってくれています」


 梢がそう言っても安心できないといったように、尊は巻き付けている布団を両手で強く掴んだ。


「あの、時間が余りないので単刀直入に聞きます! 尊先輩、相葉優花さんを知ってますか?」

「……え」


 尊から掠れた声が漏れた。


「野神沙耶香さんの親友ですよね。実は私、優花さんと友達なんです」

「相葉さんと……君が……?」


 ゆっくりと梢が頷くと、尊は「な、何か聞いてるの?」と小さな声で問いかけてきた。


「野神先輩には尊先輩以外に好きな人がいた。そう聞いてます」

「……!?」

「それと、野神先輩は誰かに脅迫されていた。彼女が持ち出した学校の金庫の鍵はその取引材料だったんじゃないですか?」


 梢の言葉に尊はヒュウと喉を鳴らした。


「私はその相手が尊先輩だとは思っていません。思いたくないんです。だから知っていることを話してください」

「ぼ、僕は……」


 尊が頭を抱えて泣き出した時、不意に背後の扉が開く音がした。

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