第23話 ジャネット・ロジェの陰謀
「それはどういう意味なのですか?」
私は思わずセシル姉さまを問い詰めていた。姉さまは眉を顰めつつ、私を正面から見つめた。
「いい。リリアーヌにシルヴェーヌ。よくお聞きなさい。ジャネット・ロジェはね。精霊教会、つまり、パルティア国教会の重鎮であり精霊の歌姫なの。そんな精霊界に通じている彼女は禁忌と言われている不老不死を求めていた」
不老不死。その一言は何か核心的な罪悪を感じさせた。私たちパルティアの民は、転生輪廻、つまり現世と来世、この世とあの世、現実世界と精霊の世界を生まれ変わりを通じて行き来していると教わっている。つまり、私たち人間の本質は意識体であり精霊界こそが故郷なのだと。この肉体は仮の姿であり本質ではない。いつかは必ず朽ちてしまうと。
「あの……それはもしかして永遠の肉体を求めているのですか?」
「そうだと思います。筆頭の精霊の歌姫であらせられる方が、精霊界の
「それはつまり、永遠に教会を支配するという事ですか?」
「教会も王国もよ」
唖然とした。あのような、教会の重鎮ともいえる方がこのような大それた野望を抱いていた事に。
「その……不老不死を実現するための方法は何なのでしょうか?」
シルヴェーヌもおずおずと質問する。そう、その方法とは何なんだ。私たちパルティア王国にそんなものはないと断言できる。
「宇宙からの技術です。体を機械化するの」
「本当ですか? そんな事が可能なのですか?」
私はまた姉さまを問い詰めてしまう。でもセシル姉さまは微笑みながら返事をしてくれた。
「機械化文明に馴染んでいない私たちからすれば荒唐無稽な話なのですが、先進の、もう何百万年も進歩し続けている文明の中には、体を機械化して永遠の生命を手に入れているところがあるの」
「まさか、あの猿人たちがその先進的な機械文明を持つ者なのですか?」
「いえ、惑星サレストラの猿人たちではありません。彼らは先進的な機械文明を供与され侵略者として方々の惑星や国を荒らしています。厄介な敵ですが黒幕は別にいます」
「その黒幕とジャネット・ロジェが繋がっているのですか?」
「そうです。我ら霊性に目覚る者と敵対している唯物主義的な星間同盟、レーザです」
レーザ……星間同盟……初めて聞いた名だ。シルヴェーヌがまた、おずおずと質問する。
「その……レーザ……星間同盟は、私たちを援助してくれているアルマ帝国とは敵対しているのですか」
「そうなりますね。アルマ帝国を中心とするアルマ星間連合は霊性に目覚める者の集まりでもあります。帝国はその中心的存在なのです。貴方たちが搭乗した鋼鉄人形は、霊力によって駆動する人型兵器だったのでしょう?」
セシル姉さまは私を見つめる。彼女の温かい眼差しは、私があの真っ黒な少女ローゼと出会った事を知っているようだ。
「はい。霊力で駆動する人型兵器でした。その力は搭乗者の霊力と比例します。我が王国においては、精霊の歌姫が搭乗者として適正であるとの事です。そしてその中核部分には、人格を持つ少女が配置されていました」
「それは疑似霊魂です。帝国で使用されている鋼鉄人形には人工的に制作された疑似霊魂が封入され、主たるコンピュータとして機能していると聞いております。貴方が出会った少女はその疑似霊魂だと思いますよ」
「疑似……なんだ。角が二本も生えてて真っ黒な鱗に覆われてたんだけど、背格好とか性格は私にそっくりだった。でも彼女、元は人間だと言ってた」
「そうなの? まさか……本物の霊魂が封入されているの?」
「外見は全然別だけど、私には彼女の温かさは本物の人間としか思えなかったよ」
「何か事情がありそうですね」
私は鋼鉄人形の中で出会ったローゼの事を思い出しながら話す。姉さまは眉間に皺を寄せ頷いていた。
「あー、リリア姉さまってローちゃんと対面してたんだ。羨ましいな。私は声だけしか聞いてない」
「こらこら、我がまま言わないの。私が心臓であなたが目になったんだから、心臓にいたローちゃんには会えないよ」
「そうだね、わかってる。でもセシル姉さま。この戦いは言い換えるなら、霊性に目覚める者とそうでない者の戦いなんでしょ? どうしてジャネットさんはあちら側なんですか?」
それはそうだ。不老不死を願うからと言って、精霊の歌姫である人物が、霊性を認めない者の側に立つなどあり得ないと思う。姉さまは頷きながらシルヴェーヌを見つめる。
「正直な話、それはわからない。ジャネットは既に親衛隊が拘束した。何故、彼女が不老不死を望むのか、そしてそのために、異星人と手を組んだのか。私は王位継承権第四位の彼を王位につけるための策だと思っている」
第四位の彼とは……私たちの従弟、マクシミリアン・シュラールだ。時々挨拶を交わすだけなので、どんな人物か直接は知らない。もう40過ぎの中年男性で、背が低くてちょっと小太りで、王族なのに女性に人気がない印象だ。この人の祖母とジャネット・ロジェは姉妹だった……かも?
「もしかして、あの小太りのオジサン?」
「そうね。まだ推測の段階だけど、彼なら扱いやすいから自分が影の国王になれるって考えてるんだと思う。その為、継承権上位の私達三姉妹を王都に集めた。そしてあなたたち二人は戦闘に参加させている」
「私たち姉妹を殺す気だったのかな」
「そうよ。本当なら私が鋼鉄人形に乗りたかった。そして、貴方たち二人は帝国に預かってもらうのが一番だったの。万一、王都が陥落したとしても、貴方たちが生きていれば王国が潰えることはない」
いくら素質があるからと言って、王族の私たち姉妹が戦闘に参加するなんて無理筋だと思っていた。やはり、ジャネット・ロジェの指金だったわけだ。でも私は負けない。一度戦ってわかった。私とローゼとシルヴェーヌの三人が力を合わせたら絶対無敵だって。
「セシル姉さま。大丈夫です。私とシルヴェーヌが必ず王国を守ります」
私は立ち上がってそう宣言した。セシル姉さまはそんな私を抱きしめて、「ごめんなさい」と繰り返し謝罪していた。
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