第22話 第一王女セシリアーナ
その日の戦闘は私たちパルティア王国軍の大勝利だった。私たちが戦った南の城門付近ではロクセが迫撃砲部隊や戦車部隊を叩き潰し、竜騎兵隊が敵の歩兵部隊を蹴散らした。反対側、北の城門付近では、あの、バーナード大尉が鋼鉄人形レウクトラで戦い、戦車などの機械兵器を破壊した。その隙に騎馬部隊と重装歩兵部隊が突撃し敵軍は敗走した。敵軍の主力部隊は北の城門へと集中していたようで、私たちがいた南側は手薄だったらしい。
「リリアーヌ姫、シルヴェーヌ姫。本日のお働きお見事でございます」
「いえ、バーナード大尉こそ獅子奮迅の働きであったとお聞きしました。お疲れ様でございます」
今、宮殿内の広場で宴会が執り行われている。今日、戦った兵士たちに酒と肴が振舞われているのだ。その場で私は狼男のバーナード大尉と握手を交わした。続いてシルヴェーヌも彼と握手を交わす。
「今日は前哨戦でしょう。数日間、様子見をすると思われます」
「何故ですか?」
「それは、私たち帝国からの軍事支援の実態を把握するためであり、また、パルティア王国軍の戦力を把握するためでもありましょう」
「なるほど。私たちの力を十分に把握したうえで一気に叩くと?」
「そうです。ただし、これは私個人の予想です。場合によっては、明日、全戦力をぶつけてくるかもしれません」
「私たちのロクセとバーナード大尉の鋼鉄人形がいてもですか? 一般的な地上部隊や戦闘機なら歯が立たないのでは?」
「その通りです。しかし、敵陣営が鋼鉄人形に匹敵すると言われている戦闘用人型兵器を投入してくる可能性を否定できません」
「え? 敵にも鋼鉄人形がいるのですか?」
「いえ、鋼鉄人形に匹敵する人型兵器です。12メートル級のミスラとワシャの目撃情報があります」
ああ、そうだった。あの、鋼鉄人形の中にある異界でローゼが言っていた。相手が鋼鉄人形だったらどちらかが死ぬと。鋼鉄人形ではなくても、他の類似した兵器があっても不思議じゃない。
「私たちは本日、鋼鉄人形がパルティア王国に存在している事を見せております。敵方がこれで侵略を諦めてくれるならいいのですが、そうはいきますまい」
「つまり、人型兵器同士の決戦となるのですか」
「恐らくそうなります」
少し考えてみれば当然だ。敵も馬鹿じゃない。私たちが操る鋼鉄人形を倒すための方法は当然用意しているだろう。
「皆さま、ご苦労様です」
宴会の場に突然響いたその声には聞き覚えがあった。彼女に気づいた兵士たちが一斉に歓声を上げる。
「姫様!」
「セシリアーナ姫!」
「おお。姫様が王宮にいらっしゃったぞ」
「これで勇気百倍だ。百日でも戦えるぞ!」
「姫様! セシル姫!」
姉のセシリアーナだった。彼女は北方のサレザラ峡谷にいるのではなかったのか。
「リリアーヌにシルヴェーヌ。本日の戦い、ご苦労様でした。非常に立派であったと聞いております。また、異国の騎士様……」
「ケヴィン・バーナードです」
「バーナード様ですね。お名前を存じ上げず失礼いたしました。貴方のご活躍により、北方に展開していた敵主力軍は敗走。そのおかげで私は王宮へと戻ってくることができました。重ねてお礼申し上げます。ありがとうございます。バーナード様」
セシル姉さまとバーナード大尉が握手を交わした。そしてセシル姉さまは、周囲の兵士たちに向かって挨拶した。
「それでは皆様、本日はゆっくりとお寛ぎください。そして明日からは王国防衛の為、皆さまのお力を存分に発揮してください。よろしくお願いいたします」
その瞬間、兵士たちの歓声が上がった。
「うおおおお!」
「姫様にお声をかけていただいたぞ!」
「絶対勝つ。絶対負けない」
「姫様! セシリアーナ様!」
兵士たちの歓声が止む気配はない。相変わらずセシル姉さまの人気はすさまじい。圧倒的な支持があるのだ。私とシルヴェーヌはまだまだ子供体型で女性らしさに欠けるのだが、姉さまは違う。背が高くて胸元も豊かで、次期女王にふさわしい美貌を持っている。それに加え、あの優しく謙虚な姿勢で誰にでも接しているのだ。それは国民の前でも使用人の前でも変わらない。王宮内での姉さまの評判はすこぶる良いのだ。
セシル姉さまは手を振りながら宴会場から離れていく。私たちについて来いと目くばせをしながら。私はバーナード大尉に会釈をし、シルヴェーヌの手を引いて姉さまの後を追った。
「姉さま。お待ちください。セシル姉さま」
「少し静かなところで話しましょう。あなたの寝室へ案内してくださるかしら」
「わかりました」
「シルヴェーヌも一緒にね」
「はい姉さま」
セシル姉さまと私、そしてシルヴェーヌの三人は私の寝室へと向かった。本来、私たちから離れる事を許されていない使用人のアンナとグレイスも、飲み物と軽食を用意しただけで下がらせた。
姉妹三人だけ。こんなのって今までになかった。
少しだけ浮き浮きしていた私に厳しい目線を向け、セシル姉さまが話し始めた。
「ジャネット・ロジェには気をつけなさい。王国内で一番の要注意人物よ」
その一言に愕然としたのは言うまでもない。私と同じく、シルヴェーヌもびっくりしたようで、ぽかんと口を開いていた。
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