第2話 崖っぷちの英雄−2

 先の大戦、教科書とかお偉いさん達が見る資料では五種族戦争なんて大層なものがこの世界ではあった。名前の通り五種族で戦ったわけだが、これは人間同士の戦いではなく《エルフ》、《獣人》、《小人》、《機械人》とファンタジーやら小説で出てきそうなメンツが《人間》に吹っかけてきた戦争だ。『吹っかけてきた』と言うのは人間目線で、彼らからの目線では『突然違う世界に吹っ飛ばされた我々が生き残るために戦った』らしい。本質的には互いを滅ぼし自分たちの安寧を求める生存戦争だったわけだ。



 この戦争をザックリ分けると前半戦と後半戦に別れる。

 前半戦は前の大戦で覇権を握った連合国軍v.s.ファンタジー・SF軍団という構図だった。最初は連合国軍側の圧倒的に優勢。長らく平和な時代が続いていたとしても腐っても生態系の頂点に君臨していた奴らだ。しかし混乱していたファンタジー軍は統制を取り戻し、他種族との徒党を組み反撃を開始しだした。徐々に押され始めた連合軍は核の使用を決定したが、ファンタジー軍団の持てる技術を用いて、核を無効化。逆に核の技術を利用されて連合国の殆どが壊滅。結局最強の矛を持った人間は、最強の矛に潰されたってわけだ。

 後半戦に差し掛かるに当たって人間は旧政権を打倒し、新たな政権が樹立した。主だったものとして旧日本国の後に作られた【ヤマト】、旧イギリスに作られた【時計塔】だ。これらは以前まで主軸だった科学ではなく、魔術や呪術・陰陽術など埃が被っていたような技術を主軸に変えた異質な国家だった。

 そして後半戦、仲良しこよしでやっていたファンタジー・SF軍団が分裂。それぞれの種族と新たな組織を交えた戦いは過酷を極めた。その内この戦争に嫌気が差し、国や種族を抜けるものが現れる。そういった者たちが集った組織こそ現在の【イネイブ】になる。目的は勿論戦争終結。

こうして新たな歯車を加えた『戦争』という歯車は高速で回る。その回転が止まることを知らないと誰しも思っていた。しかしある日突然その歯車は壊れた。それをしたのは俺だがこれについては話したくないので、話さん。異論は認めん。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 で、最初に戻るわけだがそんな英雄さんがなぜここで教職やっているのか。それは単純で『戦えないから』である。それをこの嬢さんは『私と戦え』と申すか。ならば返しこうだ。


「いやだ。たとえお天道様が西から登ろうと、テメェとは戦わん」

「なんでぇ!?」

「ポンコツ野郎が現役バリバリ汎用魔術師と戦って勝てると思うか? 否!勝率なんて0パーセントだ! そんな負けること前提で賭け事みたいなことさせられたくないわ!」

「大戦の英雄なんでしょ? じゃあ圧勝なんてさせるつもりはないけど、いい勝負くらいできるわよ!」


 いやだ、いやだ!と言っているのに彼女は聞かない。こっちが頼みを断っているのになんでウダウダ言われてるんだ。詐欺の類かなんかか?

 そうして俺たちはワーキャー言い合っていること、数分。


「なにしているのですか。外まで漏れていますよ」


ガラガラと一人女性が教室に入ってきた。そっちの方を見ると人間離れした美貌を持つ青い髪を持ち、スーツをキリッと着た女性。彼女の名はレオノーラで機械人、俺の助手をしている。付き合いは大戦時代からなので長いし、機械人だから感情がないとかいうこともなく、上手くやっている。生真面目過ぎかつお節介すぎるのは玉に瑕だが。・・・ってこの状態マズくねぇか?


「サラさん、勝敗の報酬はどうなさるおつもりですか?」

「え? 私が勝ったら私の授業の助手に、負けたらササミヤ先生のクラスに私が入ろうかなって」


あ、これヤバイやつだ・・・。レオノーラは転職まで推奨してきたヒトだ。それが『俺にしか分のない条件』ならこの人は間違いなく


「アラタさん、この申し出受けてください」


そう、一瞬の迷いなくレオノーラは俺にそう告げた。ただこの助手は俺が『戦えない理由』も知っている。考慮してもらえれば


「アラタさんが何を考えているか、概ね把握できます。ただあれから五年、人間にとって人生の二十分の一に相当する時間が流れています。そろそろあの日を乗り越えなければならないと私は愚考します」

「それは・・・でも」

「サラさん。その決闘はいつ頃できますか。近日中に出来るとこちらとしてもありがたいのですが」


 もうレオノーラは俺の意思など関係なしに事を進めていく。俺は蚊帳の外ってわけだ。ここで俺が駄々を捏ねったって、決定は覆らない。レオノーラはそういう女性だ。五年も行動を共にしてきたんだ、よく分かってる。


俺抜きにサラとレオノーラが話し合った結果、決闘は三日後、サラが担当する汎用魔術学の授業中に行われることになった。

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