第3話  カイジュウ ウム 

「妊娠したかな」

 とマリアはベッドに寝転んで天井の蚊の死骸を眺めながらぼやいた。蚊の死骸はなかなかなくならなくてこうなったらどこまでいるのか剥がさず見てやろうと思う。

 とにかく眠かった。モスガーノと会ってからもう一週間以上たつ。あれからお腹が変だ。おなかに手を当てるとぽこぽこする。

 マリアは友達からの遊びの誘いを断わって毎日寝てばかりになった。そうするとだんだんお腹が大きくなってこんぺいとうみたいにお腹がぼこぼこしてきて、マリアはぶかぶかした服を着て親を誤魔化した。

 今日も朝からうとうとして、親が仕事に出て行く足音を聞きながらマリアは寝ていた。

 そろそろ喉が渇いたな、トイレ行きたいなと思ったとき、タケルからLINEがきた。

 地元であるそこそこ大きなお祭りに一緒にいこうという誘いだった、今日。

 マリアはスマホを眺め、電話をかけた。今まで連絡先は登録してたけど電話はしたこともないミサのところへ。

「もしもしミサ?。私、マリアだけど、ちょっと聞きたいんだ」

「なに」

「タケルにお祭りに誘われた?」

「うん。断わったけど」

「そっ」

 電話を切った。タケルにLINEを送った。ごめんね、体調わるくて。

 喉が限界になってリビングに下りる。水を飲んでトイレにいってテレビを眺めていると、マリアはお腹が痛くなった。トイレにいってもおしっことうんこが出ても痛いままで、そうするうちに、お腹の中からキックされてあこれ陣痛なのではと思い立ってマリアはお風呂場にいってパンツとズボンを脱いだ。

「ああああいいいいいい」

 マリアは鼻水と涙を垂らしていきんだ。ラマーズ法ラマーズ法ってなんだって、はっはっほー、ううああと呼吸して、しばらくしたら痛くなくなって、また痛くなってまたからちょろちょろ汁が出て、というのを数時間繰り返した。

 バスタオルを敷き詰めた風呂場でマリアは座っていた。

「もう死んじゃうよお」

 マリアは脂汗をかいた。お風呂の窓から差し込む光は能天気で殺したいぐらい。

 廊下のほうから靴音が聞こえてマリアは焦った。親だったらこの状況をどう説明しよう。

 浴室の扉を開けたのはモスガーノだった。

「産まれるのだなマリア」

「ああうううういいいああ」

 モスガーノはマリアの股を覗き込んだ。

「もうすぐ産まれるぞ!頭が見えてるからな」

「あああてえええええ」

 マリアはモスガーノの腕を掴んだ。殺意が沸いてきて腕を折ってやりたい気持ちでモスガーノの腕にしがみ付いた。体がメリメリと裂ける気配がしてモスガーノが引っ張った瞬間、スポンと腹が楽になった。

「ギャギャア」

「産まれたぞ!オレの息子だ!」

 モスガーノは産まれた子を抱いた。マリアはぼんやりとモスガーノの腕に抱かれた子供を見る。こんぺいとうみたいな丸い生き物。大きさは普通の赤ちゃん。

「貸して」

 モスガーノから寄越されたこんぺいとうみたいな丸い生き物。触ってみるとソフビ人形ぐらいに柔らかい。手足をばたつかせている。色がマリアの好きな系のピンクなのは好感が持てる。

「ていうか、モスガーノに似てないんだね。触覚はあるけど」

 マリアはだんだん冷静になって、痛みを覚える。

「痛い。股が痛い。避けてない?みて」

「裂けているな」

「どうしよう。救急車呼ばなきゃ」

「傷を治せばいいのか。オレがやる」

 モスガーノはそういってマリアの股に顔を近づけて、裂けた股を舐め始めた。

 痛くて泣いてたマリアも五分ぐらいすると痛みがなくなってきて、冷静になってモスガーノの触覚を触った。

「あうう」

 触覚を触られたモスガーノはぶるぶる震えながらマリアの股から口を離した。

「そこはだめだ…あんん」

「そっ?まだ痛いんだけど」

 もう痛みはだいぶなくなったけどマリアはモスガーノに股を舐めさせる。

 冷静になるとモスガーノが大人になっていることに気がついた。服がきつそうだ。あいかわらずモスガーノは臭かった。風呂に入ってないかドブ川で魚を獲っていたのか。

 マリアはモスガーノの臭い舌で股を舐められているうちに、痛みがなくなった。

 モスガーノが舐めていた股を毛を掻き分けて覗き込むと、ふつうの見慣れた股に戻っていた。

 救急車は呼ばなくてすみそう。子供を産んだことがばれたら親に怒られるし最悪学校退学になるし。

「よかった。ていうかこの子なに食べるの?おっぱい」

「ソーセージだ」

「冷蔵庫にあるからとってきて」

「取ってきた」

「ぎゃぎゃぎゃ」

 産まれた怪獣は喜んでソーセージを食べている。モスガーノも食べたそうだったけど子供に譲っている。

「大人だね」

 マリアはそう思った。

「ていうかくさいね。モスガーノもこの子も。お風呂入ろう」

 お風呂にお湯を入れて服を脱いで三人で入った。

 お風呂のお湯はすぐにモスガーノと怪獣の子供のよごれででろでろになった。

「この子の名前、うーん、こんぺいとうみたいだからコンペーにする」

「わかった。今日からおまえはコンペーだ。明日オレは戦いに赴くがオレの勇士を目に焼き付けておくのだコンペー」

「へえ、あんた明日戦うの」

「大人だからな」

「ちんちんに毛生えてるもんね。じゃあ綺麗にしなきゃ」

 マリアはジャンプーをモスガーノの頭にこすりつけた。湯船に浸かりながらモスガーノの頭を洗ってやる。コンペーは湯船で遊んでいる。

「口開けて」

 相変わらずモスガーノの口は臭かったので、マリアは風呂場に置いてたコップから自分の歯ブラシをとって、うんと高い歯磨き粉をたっぷりつけた。

「オレはその味はきらいだ」

「食べなきゃいいんだよ、口あけろ。戦うなら歯をきれいにしてろよ。テレビに映るんだし」

「あーーー」

 あんぐり開けたモスガーノの歯をブラッシングする。いっぽんいっぽん丁寧に。黄ばんだ歯を丁寧に。奥の歯を磨くとモスガーノはえずいた。えっおっおっ、と口から泡を垂らすモスガーノの歯をマリアはうっとりと磨いた。モスガーノの歯は尖っててかっこいいなあ。キスをする。

 モスガーノとコンペーを洗ってお風呂を出る。どろどろになったお湯を抜いて、はだかの三人はリビングに行った。

 コンペーにはマリアのシャツを着せた。

 マリアは乾いた洗濯物の山からマリアのピンクのパンティを取り出して、モスガーノの脚に通す。モスガーノは大人になってちんちんに毛が生えていたけどそんなにおっきくなかった。シャツとズボンはマリアが福袋でサイズを間違えて買ってこやしになってたぶかぶかの奴を出して着せた。

 マリアも適当に服を着た。モスガーノが腹が減ったといったのでトーストを焼く。

 卵を焼いてやろうと冷蔵庫から出すと、モスガーノは卵を割った。

「んあ」

 そのまま口に流し込んでいる。マリアが眺めていると一パック全部食べちゃった。

「あーあ、私のぶんないんですけど」

「すまない。ソーゼージはまだあるか」

「あるけど焼くから」

 マリアはソーゼージを焼いた。

 トーストとソーセージを食卓に並べる。モスガーノもコンペーもソーゼージを手づかみでがつがつ食べている。

「オレが勝つところをみるといい」

「へえ、勝てる見込みあるの」

「あるに決まってる。オレは強い」

「そっ」

 モスガーノはそういうとリビングの窓から出て行こうとする。マリアは引き止めた。

「つっかけぐらい履いていけば」

「うん」

 モスガーノは飛んでいった。

「へえ」

 背中からふわふわの羽を出して飛んでいるモスガーノを見送って、マリアはコンペーを抱っこして寝ることにした。

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