第2話 カイジュウ コズクリ

 水曜日はレディースディなのでユイから連絡がくるんじゃないかなって予想したとおり、ユイから映画を見ようと連絡がきた。

 ユイにいいよと返事をして、マリアは熱い日差しを恨めしげににらんで支度をする。

 ユイがみたいといった映画はよりにもよって、原作が漫画の実写アクション映画だった。

「ユイあいつ趣味わるい」

 マリアはぼやきながら自転車に乗って家を出た。これから45分かけてショッピングモールに「巡礼」にいく。マリアは田んぼの真ん中に立派にたっているショッピングモールのことを、「教会」だと思っている。田舎者の高校生を救うための「教会」。そこにいけば映画館があっておっきい本屋があって、スターバックスがあってユニクロと無印良品があって、どにかくどこにでもあるお店がそろっているから。

 中学時代の友人のユイとケイコと映画を見て、二階のフードコートでマクドナルドでハンバーガを食べる。本当は一階のミスドでポンデリングを食べたい気分だっだけど、がっつり食べたいというユイとケイコを押しのけてまで食べたいわけではなかったので、マリアもハンバーガーをかじる。

「あんまり面白くなかったね」

 ユイの言葉に、見なくてもわかってたって予告編ですでにやばいし、映画レビュウだってひどいもんだったもんねなんで見るまでわかんないかなぁ、という言葉をハンバーガと飲み込んでマリアは「そうだね、原作キャラっぽくなかったね」といった。やっぱりあんまりハンバーガーの気分じゃないなと思って、ポテトをかじる。

 ハンバーガーを食べ終えると本屋に行くのが定番。本屋に行くと最新のコミックスのコーナを物色して、ユイは新刊を購入した。

 それから民族的な雑貨を置いてる店にいって、いつものようにケイコが変な太鼓を叩いて遊んで、結局なにも買わずに出て、それから石鹸屋の店の前を通りかかるとユイがくさっと顔をしかめるいつものやりとりをした。

 そんでもって輸入商品の店先の店頭で振舞われてる無料のコーヒを貰いに並んで、飲む。

 これがショウコと来ていたらパワーストーン屋で恋愛運アップのピンクのブレスを「きくのかな?」といいつつ腕につけて外して戻して、アイナが来てたら帰りにビアードパパのシュークリームを家族分買う流れがだいたいのいつもの。マリアはいつもヴィレッジヴァンガードの変なリック背負って、買おうかな〜とかいいつつ値札をみて半笑いになるのがいつもの係り。

「あ」

 ユイが声をだしてマリアをつついた。前方にミサがいた。ミサはひとりで買い物をしている。

「どうする。浮気したんでしょ。といつめる?」

 勇ましい言葉とは裏腹にユイの声は弱気だ。ここにいる三人は大人しいのでどうにもならない。

「うーん」

 マリアは曖昧に頷いた。ひそひそしていたらミサはさっさと服屋に入っていった。マリアたちはミサは置いておいてゲーセンに入る。目新しい景品はない。何もしないのも盛り下がるからコインを入れるとグミが一つとれた。

 マリアは内心ひとりで気楽に買い物をしているミサがうらやましくなった。別にユイやケイコが嫌いな訳じゃないけど、毎月中学時代の友達と顔を合わせて、たいして見たくもない映画をみるのも飽きて来た。

 今日の使った金額を頭で考える。映画代、ハンバーガ代。たぶんこのあとタピオカのジュースもみんなで飲む。ゲーセンで500円使ってしまった。グミ一つだけしか取れなかったのに。

 マリアは親とか先生とかアニメとかから友達は大切にしなさいと教えられてきて、それを守ってきたつもりだ。だから気乗りしない映画だって付き合ってきた。そういう気乗りしない交際費をスマートに出すのが大人に近くなることだと思ってきた。だって大人は気乗りしない飲み会とか忘年会とか、にお金を出す。そうしない人間は無職のニートぐらいだ(マリアのいとこのケンイチロウみたいな)

 夕方になるまえにユイとケイコと別れて、マリアは自転車で帰った。この道は近道でまっすぐで車もこなくて走りやすいけど、街灯がないので昼間しか走れない。

「今日の接待は何点だったかな」

 マリアはすこしの疲労感を感じて自転車を漕ぐ。可もなく不可もなく。だとおもう。マリアの受けた接待も可もなく不可もなく。

 自転車で走ってると田んぼの用水路に麦わら帽子をかぶったモスガーノがいた。モスガーノは水をのぞこんでいる。

「あんたタニシでも食べるつもり?」

「腹が減った」

 顔をあげたモスガーノはおなかを鳴らした。

「乗れば」

 マリアはモスガーノを自転車の後ろに乗せる。

「くせえ。また風呂入ってねえのな」

 マリアがやった服はなんだか臭かった。頭も臭い。

 まあいいやと思って近くのスーパにいった。しなびたスーパーに入るとモスガーノは目を輝かせた。

「全部食べたい」

「そこまで金がない。我慢して。で、なにがいいの」

 モスガーノはソーセージ売り場に行った。他の買い物客は特売品を探すのに熱心で、モスガーノのみためが怪獣だとは気がつかないようだ。さすがにとなりにいると臭さに顔をしかめていたけど。マリアは一番安い特売のソーセージをふた袋買った。あとアイスクリームも。映画を見なきゃもっとソーセージ買ってやれたのにな、と計算した。

 会計をして袋につめていると、タケルに会った。

「あっ」

 タケルは慌てた。隣に女の子がいる。

「久しぶりタケル」

「あ、あうん。あの、この子妹だから」

 タケルは聞いてもないのに弁明した。隣の女の子はかなり変な顔になった。

「はやくー」

 モスガーノが呼んだのでマリアは「そっ、じゃあね」といってスーパーに出る。

「とけるからアイスから食べなよ」

 モスガーノは目を輝かせてバニラバーにしゃぶりついた。

 べちょべよすすりながらアイスを食べるモスガーノの横で、マリアも自転車を押しながらアイスをかじった。

「まっ、妹って弁解するぐらいだから私のほうが優先順位高いってことな」

 スマホが鳴っているけど、たぶんタケルからの弁明な気がしたので無視した。

 がつがつソーセージを食べているモスガーノの姿をまじまし見る。

「モスガーノ、あんたすこしおっきくなってない」

「ああ。もうすぐ大人になるからな」

 モスガーノは誇らしげに言った。

「大人になったらどうするの」

「子供を産んでもらって戦いに行く」

「子供?」

「オレ達怪獣はオスしかいない。だから人間のメスに子供を産んでもらう」

「へえ、そういうシステムなんだ」

「おまえオレの子供を産め」

「はあ?」

「オレ、早く戦いに行きたい。ナマコキングくんやシュルタミンくんの敵を討ちたい」

「そっ…いうのは、ちんちんに毛が生えてからいえば」

 マリアがそういうとモスガーノはズボンを下ろした。

「どうだ!」

「いや、しまえよ。生えてねーしさ」

「よくみろ!ここに一本生えている!」

 誰もいない田んぼばかりの道だけど、往来で見せられても困るのでマリアはモスガーノのズボンをあげた。

「だいたい子供産んでもらおうってのに人をおまえ呼びはねーわ」

「どう呼ぶんだ」

「マリア」

「マリア子供を産め」

「産んでくださいだろうが」

「産んでください」

 モスガーノはそういってマリアの体に抱きついてきた。体をぺたってくっつけている。

「何してんだよ」

「子供はくっついたらできるんだろう?」

 ぴたっと蝉のようにくっつくモスガーノと自転車を支えて、マリアは呆れてため息をついた。

「馬鹿か。子供はこう作るんだよ」

 マリアは自転車を置いて神社に続く雑木林に入った。物置だかなんだかわからない建物の奥にまわると、モスガーノを地面に座らせて、ズボンを脱がした。

「何をするんだ」

「子供を作るんならさ、ここをここに入れるの」

「そうなのか」

「そう……」

「そうか」

「………」

「どうして殴るんだ」

「あんたがつまんねえから」

「……あー、あうう、ごめんなさいぶたないで、あうぅ」

「うるさい」

「…………」

「…………」

「………あ」

 雑木林から出ると蚊に刺されててマリアは肘をぼりぼり掻いた。ムヒが欲しい。

「子供が出来たらまた来る」

 モスガーノはそういってジャンプしてどっかにいった。

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