第七話 追われる被害者と守られる加害者
~王都ベルグラディス・傭兵所地下~
テュシアの魔法で傭兵所の地下へと転移した私達は周囲に人がいないことを確認し、向き合う。
逃走中の男……まずは名前を聞いておこうか。
「私はアイディール。色々不便だから名前を教えてくれると助かる、ります」
「俺はグラーフ。さっきは本当に助かったよ。でも一体どうして……? こんな事をしたって君にはリスクしかないだろうに」
その通りだ。私はなんでこんなことをしているのだろうか。
「そうね。でも私にはおかしい、間違ってると思った事を見て見ぬフリや無理矢理感情を押し込めて我慢することが正しいとは思えないの」
私はグラーフから詳しく事情を聞く。
グラーフと殺人犯とは何の関係もなく、面識もない他人。
逮捕の際に犯人が発した言葉は『誰でもよかった』だそうだ。
こんな事は到底許されることではないし、償えるものでもない。
せめて被害者側の望む罰は与えられるべきだろう。
グラーフの襲撃は犯人を殺すまでに至らず止められ、犯人は現在王都のどこかで治療を受けているはず。
まずはそこを突き止めなければ……。
基本使われていない倉庫のようなものだが、必ず誰も来ないとは限らない、私とテュシア以外にも協力者が必要。
私はここで働き寝泊りしているトリルに話をしてみることにした。
~王都ベルグラディス・傭兵所~
私は地下から上の階へと移動し、受付に座っていたトリルを他の人から見えない壁端へと呼ぶ。
「ねえトリル、少し相談……協力してほしいことがあるの」
「アイディールお姉ちゃんのお願い? 私に出来ることなら協力したいな!」
トリルは無邪気な笑顔を浮かべ、嬉しそうにしている。
「あのね……」
私は事情を話し、トリルはそれを快諾してくれた。
地下への入り口の監視、食料等の補助を頼むことにした。
今一番嫌なのはこの傭兵所に王国騎士のカルネが出入りしていて、そのカルネもグラーフの捜査をしていることだ。
様子を見つつ、情報を得て殺人犯の居場所を突き止めなければ……。
それから数日後。
トリルの協力の元、グラーフは地下で見つかることなく隠せている。
本来追われること自体が間違えなのだけれど。
彼は、被害者だ。
問題は殺人犯の居場所。現在王都はいつもよりも兵士の数が多く警戒態勢にある。
医療施設はいくつかあるけど、勿論そこにも入れないよう見張りがいる。
何故国は人殺しを殺されないように守るのだろうか。
狂っているとしか言いようがない。
「リア、聞こえる?」
ん……? 脳内に直接聞こえる声、テュシアだ。
「聞こえてるよ。シア、どうかした?」
「うん、殺人犯の居場所が分かった……んだけど」
「何か問題がありそうな言い方だね」
「あのね、探してる殺人犯は王城の治療施設にいる……」
王城……!
これは想定外、王城ともなればそこらに侵入するのとは訳が違う。
私がすぐに返事を返さない、返せないことを察したのかテュシアが言葉を続ける。
「場所が王城となればリアやその復讐をしたい人を殺人犯の場所へと転移させてあげることはできない。結界が張られてるし、それをくぐったとしても誰にも見られないことは難しい。だから……」
私にはテュシアの次に言う事が分かっていた。
だから、城へ警戒されることなく出入りできる自分が暗殺しようと言うのだろう。
私は次に続く言葉を言わせないようにテュシアに語り掛ける。
「ありがとう。でもそれは、ダメ」
「リア……」
「私の力なんてとても小さなもの。シアがいなければもう死んでるくらいに。バレたら大変な事になるのにそれを承知でシアは私に協力してくれてる」
「……」
「これ以上シアに動かれたら私は口で理想や綺麗事を語るだけの、私が最も嫌いな人間になっちゃう。だから、後は私がやる」
少しの間を空けてテュシアから返事が返って来る。
「うん……分かった! じゃあ城の見取り図だけあとで渡すね!」
そう、実行犯は常に私であるべき。
私にはテュシアのように色々な魔法が使える訳ではないから。
王城だろうと何処だろうとやることは変わらない。
難しいからといって理不尽なことに屈することはこの世界を認めるということ。
私は、こんな世界認めない。
だから彼の復讐は必ず成功させてみせる。
例え、相手がどこの誰であっても……。
アイディールと小さな革命 ばえる @Bael
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